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2019年4月、「働き方改革関連法(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が施行されました。
これは、労働基準法、労働安全衛生法、パートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働者派遣法などの労働関係の一連の法律の改正を指しており、主に長時間労働と正規・非正規社員の格差の是正を通じて、日本全体の労働環境を改善することを目的としています。
ただし、建設業界を含めて人材不足が深刻であるなどの理由で、すぐにはこの法律に対応することが難しいと判断された業界には、5年間の猶予措置が設けられました。
しかし、猶予期間の終了が2024年3月末にまで迫っているにも関わらず、地方の中小企業から大手のゼネコンに至るまで、建設業界ではほとんどの企業が時間外労働への上限規制に十分に対応できていない状況があります。
これが、「建設業の2024年問題」と呼ばれる問題の概要です。
2024年問題の中で特に注目されるのは、時間外労働の上限規制です。これは、労働基準法を改正して導入されたもので、労働者の健康と福祉を保護するために設けられました。
この法律が適用されれば、原則として「1ヶ月で45時間、1年間で360時間以内」が時間外労働の上限として規定されます。
この上限規制を守らなければ、労働基準法第119条の違反が適応され、企業側は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課されます。
さらに、労働基準法違反で摘発された事案に関しては、インターネット上に名指しで公表されるため、企業としては信用の失墜など、社会的に大きなダメージを受けてしまうことも懸念されます。
ところが、現場の現実的な問題としては、こうした時間外労働への上限規制にはほとんど対応できておらず、5年間の猶予の間も労働環境が改善へと向かうことはなかったのです。
これは、建設業を取り巻く様々な環境が原因となっています。
5年もの猶予期間があったのにも関わらず、なぜ建設業界は時間外労働の上限規制に対応するための準備ができなかったのでしょう。
ここでは、その原因を考えます。
建設業界における人手不足は、日本全体で問題となっている少子高齢化による影響を大きく受けています。
日本全体で若年労働力の数が減少する中、労働環境の厳しさで知られる建設業界は特に若手の人材獲得が難しい業界です。
これは、現場の労働者の労働時間の長さや給与水準の低さが招いた結果であり、人手不足の深刻化に拍車をかけています。
若い人材が入ってこないことが徐々に建築業界の労働者の高齢化を引き起こしており、団塊世代のリタイアが労働力不足を加速させています。
建設業界が抱える慢性的な労働力不足は、当然ながら長時間労働の常態化を引き起こします。
限られた労働力のなかで仕事をこなしていかなければいけない状況が生まれた結果、労働者の労働時間は長期化し、過剰な残業を強いられるようになりました。
長時間労働の疲労による集中力の低下は、職場での事故リスクを増加させる要因にもなります。
また、長時間労働は労働生産性にも影響を及ぼします。疲弊した労働者は効率的に作業を行えず、生産性が低下する可能性があります。その分を補う人手がいない以上は、工期を守るためにさらに残業が加算されていくことにも繋がります。
労働者の健康リスクも高まり、生活の質が損なわれるような事態も起きています。このような労働環境は、業界全体のイメージを低下させ、新しい労働者の確保がさらに困難になるという負のスパイラルを生み出しているのです。
こうした状況に大きくメスをいれるためにも、労働時間の短縮や効率化の施策、週休2日制の導入や休日の拡大などが推奨されており、働き方改革はそれを後押しする施策になるはずでした。
しかし、施行まで約3ヶ月となった2024年1月現在でも、建築業界の現場は人手不足と長時間労働の問題に対応しきれていないのです。
こうした建設業界が抱える問題を解決し、大きく「働き方改革」に舵を切る可能性を持っているのがDX推進です。
DXとは「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くすること」です。
では、デジタル技術とデータを活用して建設業が抱える問題を解決し、真の働き方改革を実現するにはどのようなDX施策を取ればよいのでしょうか。
働き方改革を実現するDX施策として、最初に行うべきことは現状の労働時間の正確な把握と管理です。それぞれの現場で、労働者がどのように働いているのかを知らずに、働きやすい環境の整備を実現することはできません。
例えば、クラウドベースの出勤管理システムやモバイルアプリを導入することで、リアルタイムでの労働時間追跡が可能になります。労働時間の可視化を行うことで、過重労働の抑止力となると同時に、労働力の適切な配置なども検討しやすくなります。
なお、建設業の労働時間は建設現場に到着してからと考えられがちですが、現場への移動時間も会社の指揮命令下で行っている場合、法的にはこの時間も労働時間に含まれる可能性が高くなります。
出勤管理システムなどでこうした実労時間をしっかりと管理することは、労働時間の透明化を実現し、労働者の健康と福祉を保護すること寄与すると同時に、企業にとっても意図せずに労働時間規制の上限を超えた労働をさせてしまうリスクを減少させることにも繋がります。
まずは現状を正確に把握できる環境を整えることで、その後のDX施策の成果を適切に評価することができるようになるでしょう。
DXは、従業員のスキルアップとキャリアアップを促進する仕組みを作り上げることも可能にします。
例えば、デジタルトレーニングプログラムやEラーニングシステムを利用することで、従業員は新しい技術や業務スキルを習得できます。
これまでの建設業界においては、現場の実務のなかで働きながら学ぶという旧態依然とした徒弟制度のようなスキルアップの仕組み以外、教育のシステムはほとんどありませんでした。
育成力のある現場の従業員が、若手を直接指導すること自体は重要ではあるものの、若手が目指すキャリアに向かって主体的に選択できる環境ではなかったのです。
とはいえ、現場での直接指導にも学べるオプションが増えていけば、若手のキャリアアップを推進することに繋がるでしょう。加えて、将来の展望を描きやすく挑戦できる環境を整えられれば、モチベーションの向上や離職率の低下も期待できるでしょう。
さらに、一部の優秀な人材が身につけたスキルや経験をデジタルの力で可視化することで、属人化を廃して、「企業の財産」としてシステム化することもできるのです。
キャリア開発の機会拡大は、企業の生産性向上と、より専門化された労働力の育成へと繋がる大切な施策です。
DXにより最先端のデジタル技術を導入すれば、プロジェクトの効率化が実現します。
例えば、ビルディングインフォメーションモデリング(BIM)は、計画・調査・設計・施行・維持管理の各段階で3次元モデルを導入することで、一連の建設生産や管理システムの効率化や高度化に寄与する仕組みです。
また、ドローン技術を測量や点検、施工管理などに活用することで、建設業特有の高所作業などを人の代わりに行うことができます。これは、他業種に比べて多い死傷災害のリスク軽減することにも繋がりますので、作業員の労働環境を改善するでしょう。
デジタル技術が得意とする分野においては積極的にDXを推進することで、これまで人が行っていたタスクの一部をデジタル化することができれば、今までよりも効率的にリソースを投入することが可能になります。
建築DXにより、限られた人的リソースを効果的に配置することで、コスト削減を実現しつつ、生産性の大幅な向上が期待できるのです。
「建設業界の2024年問題」とは、業界が直面している喫緊の課題です。この課題に対処するために、DXの積極的な導入がカギとなるでしょう。
建設業界が抱える慢性的な人手不足の問題を緩和し、働き方改革を実現していくためには、現場作業のデジタル化やリモートモニタリング、プロジェクト管理の最適化など、様々なDX施策が重要となるのです。
さらに、DXは安全性の向上や技術継承の促進にも貢献し、建設業界のなかでの競争力と持続可能性を高めることも期待されます。
建築業界がDXを進めていくことは、差し迫った2024年問題への対応として避けては通れないものですが、同時に企業の未来にとっても非常に重要なことなのです。
DXを通じて、業界が直面する2024年問題を乗り越え、貴社の業務をより健全で持続可能なビジネスモデルへと変革させることを目指してください。
The post 建設業界が直面する「2024年問題」とDXによる未来への挑戦 first appeared on DXportal.