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VR技術を使ったエンターテイメントは、新時代の娯楽だ。従来の2D映画やゲームには無かった没入感の高さで我々を楽しませてくれるVRコンテンツを視聴できるのは現代人の特権である。
しかし、この技術を長期的に利用し続けることによって身体にどのような影響が出るのかについてはまだ分からないことばかりなのも事実だ。
長期的なVR利用の功罪を問えるような研究結果は発表されていないが、VRを短期間利用した人や動物について調べた研究から想像することができるかもしれない。
VR技術は脳を騙す技術だ。主に視覚と聴覚の情報によって、脳に自分の居る場所を誤解させたり、現実には存在しないキャラクターがそこに居るかのように感じさせたりすることができる。
高いところをVRで見せられると、自分が本当は安全な室内に居ると知っていても恐怖を感じる。VR技術を患者のリラックスや痛みの緩和に利用するApplied VRのCEO、Matthew Stoudtによれば、多くの人はVR空間に作られた150メートルの崖から一歩を踏み出すことができないという。
VRによって騙されるのは人間だけではない。
マウスは高い場所を避ける。マウスを使って行われた実験では、下に置いたスクリーンに映像を表示して高さを感じさせるとマウスが嫌がるという結果が出ている。
今から15年以上も前に行われた研究の結果ではあるが、ミシガン州立大学で行われた研究ではVRによって脳の一時的な「再配線」が可能だという結論が出た。長期的な効果を示すものではないが、VRを継続的に使うことでその状態を定着させることも可能かもしれない。
もしそれが可能ならば、VRによって脳をより良い状態にすることができるだろう。だが、同時に長期的な、もしくは永続的な悪影響を与えてしまうリスクもあるということになる。
上のマウスを使って行われた実験に関する記事でも触れているが、2014年にUCLAの神経学者によって発表された実験の結果は興味深い。
この実験では、ラットをハーネスに入れて動きを制限した状態でスクリーンを使ったVR映像を見せている。実験に使われたラットはその映像を本物だと思っているように見えた。
彼らはVRオブジェクトに触れようとしたり、VR空間の特定の場所(研究者が報酬として砂糖水を置く場所)を特に好んだりしたからだ。
だが、実は彼らはVRに騙されていたわけではないのかもしれない。
研究者がラットの脳を調べたところ、記憶に関わる脳領域である海馬の神経細胞の実に60%がVRでは働いていなかった。その上、残りの40%が作成した地図も滅茶苦茶なものだったという。
ただ、これには当時の研究方法がラットの動きを制限するものであったことが関わっているかもしれない。
通常の世界では視覚と聴覚だけでなく触覚や嗅覚も組み合わせて記憶が作られる。この実験では触覚や嗅覚のシミュレーションが行われていないため、入ってくる情報の不整合によって脳が通常通り機能しなかった可能性がある。
FreemoVRが開発されたことで、この部分に関する研究も進むだろう。
VR技術が脳に与える影響については主にマウスやラットを使った実験は行われているが、こうした動物を使った実験で得られた知見がそのまま人間にも当てはまるかどうかは分からない。
研究のことだけを考えるのであれば、健康な人間に長期間に渡って長時間VRを利用してもらうのが理想的だ。しかし、長時間のVR利用を続けることで悪影響がある可能性を否定できない。この状況で被験者に毎日8時間VRを利用してもらうのは倫理的に問題がある。
そこで参考になるかもしれないのが医療目的でVRを利用する患者のデータだ。
VRはうつ病やPTSDから統合失調症まで、様々な精神疾患の改善に利用できる可能性があると報告されている。既にVRを使ったセラピーの導入を進めている施設もあり、効果を上げているようだ。
彼らがVRを使った治療によって改善しているとすれば、VRによって脳に何らかの前向きな変化が起きているということだ。治療が一番の目的ではあるが、彼らにどのような変化が起きたのかを追跡すれば脳に起きる長期的な変化を追うこともできるかもしれない。
VRデバイスを少し使っただけであれば目が悪くなることもない(視力が改善するという実験結果すらある)が、長時間かつ長期間に渡って利用した場合に身体にどのような影響があるのかは分かっていない。
あまりに長時間利用すると悪影響があることも考えられるので、もう少し研究が進むまでは適度な利用にとどめておくのが良さそうだ。
参照元サイト名:Wearable
URL:https://www.wareable.com/vr/vr-long-term-brain-eyes-effects-6674
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