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PCベースのハイエンドVRヘッドセットが普及するためのハードルとなっている、対応PCの購入コスト。高価になりがちなVR対応パソコンの中でも最も高価なパーツの一つがGPUだ。特に高性能なものを選ぶと、グラフィックカードだけでVRヘッドセット本体の価格を超えてしまうこともある。
特に消費者向けのVRヘッドセットが登場したばかりの頃は、VRゲームのために新しくハイスペックなパソコンを構成しなければならないゲーマーが多かった。しかし、今では2,500万人のSteamユーザがVRヘッドセットを十分に動かせるGPUを使用しているという。
この人数は、Road to VRがSteamの統計データを元に算出したものだ。
2015年の末、Nvidiaは市場にVRデバイスを動作させるだけの能力を備えたPCがどのくらい出回っているのかを試算している。初めての消費者向けVRヘッドセットが登場する数ヶ月前の段階で、約1,300万台のVR対応PCが存在するとされた。
当時VR Readyの要件を満たしていたのは、330ドルから650ドルという高価なハイエンドGPUを搭載したごく一部のマシンだけだった。VR Readyの最低要件となっていたのは、AMDのRadeon R9 290またはNvidiaのGTX 970だ。GTX 970は、現在でもSteamユーザの4.23%が使用する「最も人気のあるVR Ready GPU」となっている。
AMDとNvidiaはいずれも2016年を通して新たなGPUの開発を続けている。新しいGPUは以前よりも高い性能をより低い価格で実現するようになっており、同時に低価格帯のカードが持つ処理能力も底上げが進んでいる。
その結果として、現在では2015年に比べてVR対応GPUの価格がかなり下落している。AMDのRX 480は200ドル、NvidiaのGTX 1060は250ドルだが、いずれもVRデバイスを十分動作させられるだけの能力を持っている。
ノートパソコン向けの小型GPUも進化しており、VR対応ノートの数も増えている。最近では、VR用に買ったわけではないのに、ゲーム用のノートパソコンに搭載されているGPUがVRに対応していたという例も少なくない。
VR対応GPU価格の下落は、VRデバイスの動作に適したPCを所有するユーザ数の増加に大きな影響を与えていると考えられる。Road to VRは、2,500万人という数字の根拠を説明する。
重要な役割を果たしているのは、Steamの統計情報だ。Steamでは、ハードウェアの調査に協力するSteamユーザのコンピュータに関する情報を定期的に収集し、分析を行っている。
この統計情報によれば、Dirext X12に対応するGPUのうち19.32%がVRに対応しているという。これは、Steamのユーザが使用する全GPUの14.57%に当たる。
Steamは現在のアクティブユーザの数を公表していないが、2015年の初めには1億2,500万人のアクティブユーザがいると発表している。当時の同時接続ユーザ数はピーク時で約890万人だった。
現在の同時接続ユーザ数はピーク時で1,200万人おり、当時と割合が変わっていないとすれば1億6,850万人のアクティブユーザがいると推定できる。Steamは国際的なサービスなので時差などを考えるとこの通りではないと思われるが、傾向は正しく反映されているはずだ。
これで1億6,850万人の14.75%、2,460万人がVR対応のGPUを使っていると計算できた。
HTCやOculusはヘッドセットの販売台数を明かしたがらないので推計の幅が広いが、HTC ViveとOculus Riftの販売台数は75万台から175万台程度とされることが多い。2,460万という数字は、PCベースのVRヘッドセットを所有しているユーザの数を大きく上回っている。
VRシステムを構築する価格の高さが普及を阻んでいると言われてきたが、もはやそれだけでは説明できそうにない。ただ、最近PCを新調したユーザの場合は自分のPCがVRに対応していることを認識していない可能性もある。
VRデバイスのメーカーがそのことに気づかせるようなプロモーションを行えば、それだけでVRユーザの増加に繋がるかもしれない。
もちろん、VRに対応していることを知っていてヘッドセットを購入していない消費者もいるだろう。単純に遊びたいVRゲームがない、新モデルの登場や業界のスタンダードとなるプラットフォームが決するのを待っている、セールを狙っているといった理由がありそうだ。
こうしたユーザをVRデバイスのオーナーにするためには、コンテンツの充実や性能の向上のために努力を続けていくしかない。
この2,500万という数字は示唆深いものだが、他にも考慮すべきことはある。
まずは、集計の対象となっているGPUについて。この計算では、VR Readyとなる「推奨スペック」を満たすGPUについて調べている。
快適なVR体験を考えるならばメーカーが公表する推奨スペックを満たすパーツを選ぶべきだが、VRヘッドセットを動作させるだけならば「最小スペック」を満たすパーツでも良い。Oculusは独自のAWS技術によってスペックの低いマシンでも滑らかな動作を可能としており、最小スペックも公開している。
その中にはGTX 960、GTX 1050Ti、Radeon RX 470といったパーツが含まれている。これらも考慮するならば、Steamで使われているVRを「動かせる」GPUの数は3,370万にまで増加する。
次に、Steam統計情報の特性について。
Steamの統計情報には、表示されないGPUが存在する。特に一部のプロ仕様カード、NvidiaのQuadroやAMDのRadeon Pro、Wシリーズといったものはこの統計情報に表示されない。1080 Ti やTitanといった超ハイエンドカードも同様だ。こうしたパーツは全て「その他」にまとめられている。
Road to VRでは、こうした「その他」のカードのシェアは小さく、統計に大きな影響は出ないと考えている。そもそも、このようなプロ仕様のパーツを使用したマシンは業務用に使われている可能性が高い。もし個人がゲームをするために使われているならば、そのユーザは既にVRヘッドセットを利用しているのではないだろうか。
忘れてはならないのは、GPU以外にもVRヘッドセットが必要とするPCの要件は存在するということだ。
GPU性能はVR対応の可否を決める大きなポイントではあるが、唯一の要素ではない。他にもCPU性能、USBポートのバージョンと数、HDMIのバージョン、搭載するOSなどもVRの使用を妨げる可能性がある。
Steamの統計情報ではCPUの情報も公開されているが、CPUとGPUの情報は関連付けられていない。VR ReadyなCPUを使っているSteamユーザの割合を求めることはできるが、GPUとCPUの両方がVRデバイスの動作に適したマシンを使っているユーザの割合は分からないのだ。
この計算で使われている数字はSteamの統計情報を元にしているため、「全世界の一般的なPCゲーマー」ではなく「全世界のSteamユーザ」のみを対象とた数字になっている。だが、PCゲーマーの多くはSteamユーザだろう。Steamを利用していないPCゲーマーが居ることは間違いないが、この統計データを無意味にするほど多く存在するとは考えにくい。
ただし、この統計データは強制的にSteamがユーザから収集しているものではない。調査に協力することで見返りが得られるものでもないので、プライバシーの保護に対する意識が強いユーザなどは調査に協力していないかもしれない。
ライトゲーマーよりもPCパーツへのこだわりやVRへの興味がある層の方がハードウェア情報の収集に同意する割合が大きく、それによって結果に偏りが生まれている可能性はある。
日進月歩のデジタル機器の世界では避けられないのが、時代に取り残される機器だ。その時代に最新のパーツを選んだとしても、一年後にはミドルレンジ程度の性能になり、さらに数年が経てばサポート対象から外れていく。
VRはまだ新しい技術なので、今のところこうした切り捨ては起きていない。2016年の初めにVR Readyとされていたパーツは2017年の中盤に入った今でもVR Readyである。むしろ、ソフトウェア側の進歩によってVR対応とされる基準は下がっているくらいだ。
現時点ではVRが登場したころのパーツでもVR体験が可能だが、新モデルのヘッドセットが登場したときにはサポート対象から外れていってもおかしくない。基準が変化すれば、どこかの時点で「VRに対応するパソコンの台数」が大きく減ることもありそうだ。
参照元サイト名:Road to VR
URL:http://www.roadtovr.com/estimated-25-million-steam-users-now-vr-ready-gpus/
参照元サイト名:Steam
URL:http://store.steampowered.com/hwsurvey
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