- 週間ランキング
日本オムニチャネル協会の取り組みやビジョンを深く知る連載企画第8弾。最終回となる今回は、日本オムニチャネル協会会長の鈴木康弘氏が講師を務めるスチューデントアカデミーについて、鈴木氏に話を聞きました。なぜ会長自ら学生に焦点を当てたスチューデントアカデミーを開催するのか。学生のうちに学ばなければならない考え方や姿勢とは。スチューデントアカデミーを通じて鈴木氏は学生に何を伝えようとしているのか。同氏の思いに迫ります。
写真:鈴木康弘
株式会社デジタルシフトウェーブ代表取締役社長
1987年富士通に入社。SEとしてシステム開発・顧客サポートに従事。1996年にソフトバンクに移り、営業や新規事業企画に携わる。1999年にネット書籍販売会社、イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)を設立し、代表取締役社長に就任。2006年にはセブン&アイHLDGS.グループ傘下に入る。2014年にはセブン&アイHLDGS.執行役員CIOに就任し、グループオムニチャネル戦略のリーダーを務める。2015年に同社取締役執行役員CIOに就任。2016年に同社を退社し、2017年にデジタルシフトウェーブを設立。代表取締役社長に就任。他に、SBIホールディングス社外役員、東京都市大学特任教授を兼任。
――なぜ日本オムニチャネル協会の会長を務める鈴木さんが学生に焦点を当てたスチューデントアカデミーを開催しているのでしょうか。
私自身の経験が学生の育成に少しでも寄与できれば、と思ったのがきっかけです。
日本オムニチャネル協会では、企業のオムニチャネルやDXの推進を支援していますが、とりわけ「人」の育成に注力しています。企業がITやデジタルを駆使した新たな施策を成功させるには、「人」が何より大切です。施策を主導するリーダーシップや、未知の取り組みを成功させる行動力、周囲を巻き込む力などを備えた人材なしに、オムニチャネルもDXも成功することはありません。そこで、多くの企業が欲するこうした人材を、学生のうちから育成して社会に送り出せるようにすべきではないか。日本オムニチャネル協会としてこう考えたのです。このとき、私自身がオムニチャネルやDXに取り組んできた経験やノウハウを若い世代に承継できる場があればと思い、立ち上げたのがスチューデントアカデミーです。私の経験を自分の言葉で伝えたいという思いから、私自身が講師を務めさせてもらっています。
――日本では人材が育たない。その背景にはどんな問題があると考えますか。
背景には、日本の成長が停滞していることへの課題意識があります。2024年初めの統計になりますが、「一人当たりGDP」を見ると日本は3万4555ドルで世界の中で37位に位置しています。それに対し、1位のルクセンブルクは14万308ドルとなっており、日本はルクセンブルクと比較して10万ドル以上、約4倍もの差があります。日本の一人当たりのGDPランキングは、かつて1988年と2000年には2位でしたが、この20年余りで37位まで急落しています。この結果からも、諸外国の勢いとは裏腹に日本は衰退していることが分かります。
私たちを取り巻く環境は、まさに今変わりつつあります。終身雇用や年功序列といった旧来の考えは消え、多様化する働き方に合わせた雇用形態へと変化しています。さらに、AIなどの新たな技術を使いこなすことが求められる今、自分自身で成長していく必要があります。
しかし、「失われた30年」を経て日本の成長が停滞する中で、アグレッシブに何かに挑戦する機運が減少していると感じています。何を目標に掲げるべきか、どのように成長意欲を掻き立てるべきか、その術を知らない人が多くいます。これは、日本が成長していた時代の考え方が引き継がれていないことが大きな原因です。そのため、仕事とは何か、どのように成長意欲を高めるべきかといった、新しい時代を生き抜くための知識や心構えを引き継いでいく必要があります。そうした思いから、次世代を担う人材を育成するためのスチューデントアカデミーを立ち上げました。
――学生にとって、経験豊富な鈴木会長と交流する機会は貴重だと思います。スチューデントアカデミーに参加する学生の反応はいかがでしょうか。
意外と学生は、第一線で活躍する社会人に出会う機会が少ないのではないかと感じています。最近の学生は大学在学中にインターンシップなどを通じて就職活動に非常に意欲的です。それにもかかわらず、私が代表を務める会社のインターンシップに参加している学生に話を聞くと、「これから働くときのイメージがわかない」という声をよく聞きます。
私の学生時代と比較すると、現在の学生はインターンシップを通じて実際に仕事を体験しているにもかかわらず、なぜそのような声が多いのか不思議に思います。考えてみると、インターンシップは作られたプログラムであり、人事部門が主導しています。そのため、学生は現場の第一線で活躍している社会人と触れ合う機会が少ないのではないかと思いました。特に、憧れるようなできる社会人に出会う機会が少ないとも感じています。
日本オムニチャネル協会には、第一線で活躍する「できる社会人」が多く在籍しています。このような社会人と交流する機会は、学生にとって将来への貴重な財産になると考えています。そして、会長の私がスチューデントアカデミーに直接関わることで、日本オムニチャネル協会が目指す年代の壁を越えることを体現できるのではないかと思います。
――スチューデントアカデミーでは「できる社会人の心構えを伝承し、次世代人材を育成する」をテーマに掲げています。「できる」とは具体的に何を指しているのでしょうか?
自分の信念を持ち、周囲を動かす力を持つ人が「できる」社会人だと考えます。
ちなみに、経済産業省が公表した「デジタルスキル標準」によると、次世代に求められるスキルは「デジタルスキル」、「ビジネス変革スキル」、「パーソナルスキル」だといいます。「できる社会人」はこれら3つのスキルを併せて持つべきですが、何より重要なのは「パーソナルスキル」です。
「パーソナルスキル」とは、自分自身が備える人間的側面のスキルを指します。個人としてどんな経験を積んだのか、どんな壁にぶつかり、どのように乗り越えてきたのか。さらには仕事に対してどんな姿勢で臨んでいるのかなど、過去から学んだ糧こそがパーソナルスキルの土台となります。こうしたスキルを磨き続けない限り、「できる」社会人にはなれません。
スチューデントアカデミーでは「デジタル」や「ビジネス変革」を学ぶことよりも、まずは「パーソナルスキル」の大切さを理解し、どう磨くべきかを学生に考えてもらうようにしています。つまり、自分自身を成長させる心構えを身に付けてもらうことに主眼を置いているのです。成長するための心構えを学生時から大切に育むことで、「できる社会人」になる礎を築けるのではと考えます。
――パーソナルスキルの重要性は高まっているのですね。
私はコンサルティング会社の代表を務めていますが、当社でも採用時にパーソナルスキルを身に付けているかどうかを重視しています。とはいえ、多くの学生がパーソナルスキルを意識していませんし、そもそも身に付けていません。しかし、これでは遅すぎます。学生時から自分はどう成長すべきか、どんな社会人になるべきかを明確に意識した人材が育たない限り、いつまで経っても日本と諸外国との差は埋まらないでしょう。パーソナルスキルを強く意識した学生を世に送り出す仕組みが、日本の競争力を引き上げるのです。
パーソナルスキルは、個々が初めから身に付けている能力ではありません。意識して生活したり仕事に取り組んだりすることで自然と身に付くものです。もちろん誰でも養えます。大切なのは、「自身のパーソナルスキルを磨こう」という姿勢です。常に成長しようと前向きに努力したり、高い壁に挑んだりといった日々の取り組みがパーソナルスキルを磨き続けてくれるのです。
――スチューデントアカデミーの活動内容を教えてください。
様々な「できる社会人」をゲストに招き、社会人の処世術を学ぶ機会を講演という形で提供しています。私とゲストやサブリーダーとの対談も実施し、登壇者のいろいろな考え方や社会人としての心得を引き出すようにしています。私自身の著書である「仕事の心得」や「成長の心得」をもとに、私の言葉で「できる社会人」の心得を伝承する機会も設けています。
私は、仕事こそが人間ができる唯一の社会貢献だと考えています。そのため、仕事を楽しむことや、一所懸命に取り組む姿勢こそが非常に重要だと考えます。そこで、自分自身も上司や先輩から学び、受け継いできた心得を引き継ぎたいとの思いから「仕事の心得」を書きました。
さらに、人は生涯を通じて「成長」とともに歩み続けなければなりません。特に先行きが不透明な現代を生き抜くためには、成長し続けることが必須です。成長は自分を支えてくれます。その中で忘れてはならない考え方や姿勢をまとめたものが「成長の心得」です。
実は二作に続いて「リーダーの心得」を書籍化しようと考えています。人は一人では何も成し遂げられませんし、一人で成功して喜んでも、誰かの役に立ったとは言えません。自分がきっかけとなって多くの人が結果を出したときに、皆で喜ぶことができるのです。そのように周囲を巻き込む能力を持った人がリーダーだと考えています。そのための心構えをまとめようとしています。この3つの心得は現代のビジネスパーソンすべてに必要な、仕事をする上で忘れてはならない基盤となるものとなります。 多くの経営者とお話しする中で、彼らが共通して求めているのは、3つの心得を持った人材です。
講演は限られた時間の中で行われるため、全てを伝えることは難しいですが、これから社会人としての一歩を踏み出す学生に向けて、できる社会人になるための心得を教えています。心得を意識して仕事や勉強に取り組むことで、将来の役に立つ経験やスキルが身についていくことでしょう。就職活動の入社面接テクニックを勉強するよりも、価値のあるものを提供していきたいと考えています。さらに、学生の質問や悩みをディスカッションして解決する質疑応答の時間や、ゲストを含めた活躍中の社会人との交流会も実施しています。
“――スチューデントアカデミーをどのような場にしていきたいと考えていますか。
スチューデントアカデミーは、「教える」より「育てる」を大切にする場にしたいと考えています。
教育は一般的に、「教える」と「育てる」に分けられます。「教える」は知識を伝えることを指しますが、対して「育てる」は、理解させることに加えて成長を促すように伝えるという意味を内包しています。この「育てる」に特化した環境こそがスチューデントアカデミーです。どう成長したいのか、どんなキャリアを描きたいのかを学生自身で考えられるようになってもらえれば幸いです。
スチューデントアカデミーを通じて、普段学生生活で出会えないような人に会うことや、話を聴くことで、「そういう考え方の人がいるんだ」「こういう人が輝いているんだ」といった新たな気づきを得ることができます。自らの気づきが、成長を促すきっかけになると信じています。そしてスチューデントアカデミーを継続して活動する中で、学んだことをご縁に一緒に仕事ができたり、年数を重ねて先輩など縦の交流が増えたりすると良いですね。
参加者の声
『スチューデントアカデミーに参加して良かったことは、多様な経験を持つ社会人から「できる社会人に共通する心構え」を学び、自分の理想とする社会人像を模索する機会を得たことです。また、志高い同世代との交流を通じて、新たな視点を取り入れ、視野を広げることができました。』
『スチューデントアカデミーでは、社会人とは何か、どんなことをするか、どうすればいいのかなど曖昧で不安だった将来を、楽しみなものに変えてくれるアカデミーです。社会人は、学生とは違い失敗できないようなイメージがありました。しかし、講演を通じて失敗することは、むしろ良いことであることを学び挑戦することの大切さを学びました。スチューデントアカデミーで学ぶことは、社会人になって大切なだけでなく、学生の自分達にも必要で、役立つ知識が多々あります。それを先取りして学べることにとても感謝しています。』
編集後記
記事を読んでいただきありがとうございます。日本オムニチャネル協会の取り組みやビジョンを深く知る連載企画を通して活動を推進するリーダーの方々にインタビューをさせて頂きました。各リーダーが行う業務やこれまでの経験は全く異なります。しかし協会が目指す共創の場の創造によってイノベーションを起こす次世代人材を育成していこうという共通の思いがありました。上から何かを教えるのではなく、まさに鈴木会長が語る「育てる」環境を提供しています。周りを巻き込みイノベーションを起こす人材になるためには特別なテクニックが重要ではありません。鈴木会長が仰る仕事の心得のようなパーソナルスキルが重要なのです。そのためには他人から言われて動くのではなく、自分で気づき挑戦することが重要だと分かりました。挑戦できる場は日本オムニチャネル協会にあります。
執筆:小松由奈
一般社団法人日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/