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高品質や高精度が代名詞の日本のモノづくり。世界で高い評価を受け続ける裏側では、地道な検査や試験、測定や計量といった取り組みが下支えしているのは言うまでもありません。しかし今、人手不足を背景にこうした検査業務の負荷が増しつつあり、測定業務の効率化に取り組む動きも加速しています。長野県で精密部品を製造・加工するニシキ精機もそんな一社。一体どんな手段で測定業務の効率化に踏み切ったのか。ニシキ精機の業務効率化を支援するテクロック 代表取締役社長 原田健太郎氏に話を聞きました。
――ニシキ精機は測定業務にどんな課題を抱えていたのでしょうか。
原田:ニシキ精機をはじめとする多くの製造業は、製品が一定の品質を満たしているかを確認するために検査を実施します。仕様書に沿った長さや厚さ、重さ、深さかどうか、図面通りのサイズかどうかといった具合に、製造物を測定します。生産ラインから任意の製品を取り出して抜き打ち検査することがあれば、専任の品質保証部門が別室で念入りに測定することもあります。こうした検査を繰り返すことで、日本のモノづくりの強みである品質は保持されているのです。
しかし現場では、測定した結果を紙に書き止めるケースが大半です。製品や部品ごと、生産ラインや設備機器ごと、さらには工場ごとに測定結果を紙に記載し、それらを収集して保管しているのです。紙に書いた測定結果をExcelに転記し直すといった手間をかけるケースも珍しくありません。製造業の人手不足が深刻化する中、こうした手間が課題として顕在化しつつあります。
――検査時の測定作業はどれくらいの頻度で実施するものなのでしょうか。
原田:企業や検査対象によって異なります。1日1回、抜き打ちで検査するケースがあれば、製造を下請けする企業の中には、受託先のニーズを厳守するために4~5回実施することもあります。取り扱う製品の種類が多ければそれだけ検査回数は増えるし、生産ライン数や製造拠点数にも比例して増えることになります。
――こうした業務の効率化を支援しているのがテクロックというわけですね。具体的にどのような解決方法を提案しているのでしょうか。
原田:当社では測定のDX化を打ち出しています。つまり、測定結果を紙に記載する手間をなくし、データとしてPCなどに取り込むためのソリューションを提供しています。それが「SmartMeasure」です。測定器とソフトウエアで構成し、測定器で測った結果をソフトウエアへリアルタイムに送信します。測定器にBluetoothモジュールを内蔵し、PCやタブレットなどに無線で送信することが可能です。測定結果を紙に手書きしたり、PCへ入力したりする手間を省けるほか、複数の測定結果を容易に一元化できます。ソフトウエアの機能はクラウドサービスとしても提供し、海外に散在する製造拠点の測定結果も労せずに集約できます。
――企業の中には工場内にWi-Fiなどのインターネット環境を整備していないケースもあります。こうした企業はクラウド経由で測定結果を収集できないのではないでしょうか。
原田:インターネット環境のない場所で利用することを想定した「SmartMeasure Lite」も用意します。複数拠点の測定結果を一元化できないものの、近くのPCにデータを送信することができます。測定作業が一部の生産ラインに限られたり、小規模な工場で測定したりといったニーズに向きます。その他、セキュリティを理由にクラウドを導入できない企業向けにオンプレミス版「SmartMeasure Server」も用意します。クラウド版と同等の機能を備えます。
ちなみに、通信規格にBluetoothを採用したのは、工場内のさまざまな設備機器の干渉を受けにくい電波特性を持っているためです。大規模な工場で利用する場合、データ伝送距離が短いBluetoothは不向きと言われることがあります。しかし例えば、Wi-Fiを使えば設備機器に干渉し、データを正確に送信できなくなる恐れがあります。データを確実に送信することを優先し、デメリットとなるデータ伝送距離はゲートウェイ機器を設置することで解消するようにしています。利用環境によって異なりますが、数十メートルの距離ならゲートウェイ機器を1台設置するだけでデータを問題なく送信することが可能です。20台のほどの測定器に対し、ゲートウェイ機器を1台設置する運用実績もあります。
――収集した測定データは、ソフトウエアでどのように活用できるのでしょうか。
原田:「SmartMeasure」のソフトウエアでは、リアルタイムに収集した測定データをグラフで可視化できます。日次や週次、月次などの単位で測定結果に異常がないか、工場別や生産ライン別、部品別に異常がないかをグラフで視覚的に確認できます。
なお、ソフトウエアは当社が自社開発しています。そのため、顧客のニーズに応じたカスタマイズにも柔軟に対応します。顧客が導入する帳票作成システムと連携したいというニーズに対し、ソフトウエアと帳票作成システムを連携する仕組みを開発した実績もあります。BIシステムとAPIで連携する実績もあります。さまざまな用途で使える柔軟さが、顧客から評価されていると自負します。もっとも、カスタマイズせずに測定データをcsvファイルでエクスポートできるため、他システムと容易に連携することが可能です。さらに「SmartMeasure Lite」では、取得した測定データをExcelで直接読み取るダイレクトインプットと呼ぶ機能を装備。csvファイルを準備する手間なく、Excelで測定データを分析できます。
――Bluetooth対応の測定器にはどんな種類があるのでしょうか。
原田:当社では約100種類の測定器を取り扱い、順次Bluetooth化への対応を進めています。類似する競合製品の中には、既存の測定器にアダプタや送信機を取り付けてBluetooth化する動きがありますが、当社では使いやすさに配慮し、Bluetoothモジュールを内蔵する測定器の開発にこだわっています。測定現場の担当者が便利で使いやすい測定器を作り出すことが、測定器メーカーの役割だと考えます。
なお、Bluetooth対応測定器の中には、穴の深さを調べるデプスゲージや対象物の厚さを調べるシックネスゲージなど、さまざまな測定が可能な測定器を揃えています。何ミクロンといった精度で測定可能な測定器もあります。
――Bluetooth対応測定器は市場でどう評価されていますか。
原田:多くの製造業が紙を使って測定結果を書き止めているのが現状で、測定のデジタル化はまさにこれからという状況です。そんな中「SmartMeasure」を提案すると、導入に前向きな声を多くもらえるようになりました。人手不足や人件費の高騰を背景に、2023年ごろから経営者の理解が深まったと感じます。「多少のコストを投じても測定業務を見直すべき」という機運は徐々に高まっています。
――ニシキ精機では具体的にどのような用途で「SmartMeasure」を使っているのでしょうか。
原田:切削加工技術に強みを持つニシキ精機では、新たな部品の製造依頼が少なくありません。このようなケースでは何度も切削加工機器を微調整し、仕様書や図面通りのサイズの部品を製造しなければなりません。しかし、「SmartMeasure」を使って測定データを手間なく収集、分析できるようになったことで、新たな部品を完成するまでのリードタイムを短縮しました。職人の経験と勘に頼って微調整を繰り返していたこれまでの製造工程を見直せるようになったのです。プロトタイプを製造する期間も短縮しました。
――テクロックが掲げる「測定DX」。今後は製造業のどんな課題をデジタルで解消しようと考えていますか。今後の計画やビジョンがあれば教えてください。
原田:当社では現在、「SmartMeasure」をBIツールと連携する仕組みを開発中です。さらにAIの活用も視野に入れます。「SmartMeasure」を使って収集した大量の測定データをもとに、生産ラインの異常を検知する機能を追加予定です。測定データの傾向をAIで読み取り、異常を検知した際に生産ラインを停止させる機能を実装できればと考えます。
一方、当社のもう1つの柱である、ゴムの硬さを測る「硬度計」を揃える「SmartTester」シリーズも、ラインナップ拡充を計画しています。2024年の夏以降は、Bluetoothを搭載した新製品「Bluetoothデジタル硬度計」の開発を進めており、より多角的に「測定DX」を強化していく予定です。
デジタル化の本質をきちんと訴求することにも注力します。多くの製造業は、測定業務をデジタル化すればいいと考えがちです。しかし、紙への記録をデジタル化して終わりではありません。収集したデータをどう活用するか、分析結果からどんなアクションを導き出すのか、これらの取り組みを進めてビジネスをどう変革するかこそが本質です。デジタル化してどんな未来を描くのかまでを含めて、製造業のDX化を一気通貫で支援したいと考えます。
製造業にとって重要な指標となる「Quality(品質)」「Cost(コスト)」「Delivery(納期)」。当社はこれからも、これらを最適化する取り組みと徹底的に向き合っていきたいと考えます。測定業務のDXを後押しし、日本のモノづくりが世界でさらに飛躍する一助として貢献できれば幸いです。