現役ドッグトレーナーが「しつけを始めるタイミング」を徹底解説!

【仔犬のしつけ 時期】などで検索すると、実にたくさんの情報が出てきます。

『おうちに迎えたときからしつけを始めましょう』『お迎えして1.2ヵ月は好きにさせてあげて下さい』など、情報によって言っていることが違う、どうしたらいいの?と混乱した経験はないでしょうか?

それもその筈…仔犬期のしつけは犬と人両方の社会化(自分以外の個体・環境に対して情緒的に懐いていくこと)を考えなくてはならず、教えるべきことが沢山あります。

その反面、あれもこれもと教えるにはあまりにも幼い月齢です。  

加えて、仔犬の経験値や性格、飼い主様が犬との生活に求める内容によって、どのくらいのタイミングで何をするのか変わってきます。

それもまた、しつけをいつから始めるべきか?という問題を難しくしています。

ここまで読まれて、しつけってそんなに複雑なの…?と不安になった方がいらっしゃるかもしれません。

大丈夫、ご安心下さい。

しつけが必要なことはどの子も同じ。

しつけを始めるタイミングは犬のコンディションとしつけを行う事、このどちらを優先するか?を知っておけばそれほど難しくありません。

今回はまず、【しつけそのもの】についてお伝えします。

その後、【仔犬期の心理状態の変化】から犬のコンデションがどのように変わるのか見ていきます。

最後に、仔犬の月齢や生い立ちからしつけが必要になる時期の見極め方についてお伝えしていきます。

そもそもしつけとは何か?

辞書引用:しつけ【躾】

日常生活での礼儀作法や生活習慣の型を身に着けさせること

犬のしつけとは【犬が人と一緒に暮らすために必要なルールを、人側が主導となり教えること】を指します。

こんな風に聞くとしつけは〝新しく何かを教えること〟と思われがちですが、それだけではありません。

実は、しつけには【犬の望ましくない部分を出現させないように制御する】という役目もあります。

これは、人と一緒に暮らす上で問題となる要素を手放すよう犬に教え、新しいルールに導くということ。

以上から分かるように、しつけは問題行動を矯正する為だけではなく、そういった行動が出ないように予防する為の手段として取り入れるものでもあるのです。

しつけを行う時は人が犬に合わせる姿勢も必要

犬のしつけは人が主導になるとはいえ、犬に求めるだけではいけません。

これは人の赤ちゃんと接する時と同じです。

赤ちゃんがどれだけ泣いても、叱って泣かないように教えることはできませんよね。

その場合、その子はなぜ泣いているのか?原因を探し、欲求を満たしてあげようとする筈です。

それと同じで、仔犬のしつけ(生後3ケ月頃まで)の場合は、対応・環境を整えてあげるなど人側が犬に合わせる姿勢が必要です。

しつけはどんなにお利口な子でも必要

しつけは【犬が人と一緒に暮らすために必要なルールを教えること】だとお伝えしました。

犬は昔から人との生活に適応できた数少ない動物です。

しかし、そもそもの生態が違う為、どんなにお利口な犬でもしつけなくして、人側のルールを理解するには限界があります。

そもそもしつけをしていないのに〝お利口〟と判断できるのは、飼い主様の許容範囲が広いことも要因の一つ。

犬は対応できない状況に陥った時、嚙んだり吠えたり元々持つコミュニケーション方法を人に用いる可能性が高くなります。

外の世界に出れば、その子がおうちと同じようにお利口でいられるとは限らないのです。

そうならない為には、客観的に愛犬と向き合うことが大事。

日本は犬がどれだけ可愛くて賢い生き物でも、人が優先される国です。

おうち以外での社会化が出来ていないと、犬の立場が危うくなります。

その証拠に、【クレートに入れない・吠えるなどで災害時に避難が難しくなった】【散歩中に近づいてきた人を噛み咬傷事故として扱われた】というような不測の事態に犬を守れない状況が沢山報告されています。

例え、自分の手が離れることになっても、問題なく他の人にお世話してもらえるか?というところまで考えると、しつけはどんな子でも必須です。

【おうちでのルール】はもちろん【おうち以外でのルール】も意識して教えておきましょう。

しつけは犬にとってストレスに。でもそのストレスが心身を強くしてくれる

実は、しつけによって掛かるストレスはその子の心身を鍛えることに繋がります。

海外の研究では、仔犬の時期からある程度のストレスを与えられた場合、そうでない仔犬に比べ、活発で探索好きな行動をする傾向が高くなることが判明しています。

加えて、それ以降に与えられるストレスにも強くなり、癌などの病気に対する抗体力も上昇していました。

私自身も、このことについて日々実感しています。

例えば、他の犬や人に対して警戒心が強く、散歩に連れていけなかった元野犬のトレーニングを行っていた時。

初めその子は、引きこもりたい一身で外に連れ出そうとする私に対して歯を剥き出しにし、抵抗していました。

ところが、トレーニングを重ねるにつれ、引きこもれないストレスに潰れるどころか、活発に動き回るようになったのです。

今では全くできなかった散歩もできるようになり、飼い主さんの元で楽しく過ごしています。

しつけはその子に合わせた負荷に調節して行います。

乗り越えられるだけの適切なストレスを掛けることで上記のような良い作用を引き出します。

日頃から心身共に強くしておけば、不測の事態など大きすぎるストレスが掛かることになっても潰れてしまう程のダメージはありません。

何が起こるかわからない未来に備え、愛犬を守るためにもしつけを取り入れましょう。

以上のことから、しつけが犬にとって必要なことであるとお分かりいただけたと思います。

当然ですが、必要な事とはいえ、しつけ方法を間違えると犬に大きな負荷が掛かってしまいます。

例え適切なしつけを行っても、犬のコンディションが良好でない時期に行ってしまうと、これもまた負荷に耐えられず悪い結果に繋がってしまいます。

では、仔犬のコンディションが良好でないのはどのような時なのでしょうか?

仔犬が生まれてから大きくなるまでの流れを確認してみましょう。

目まぐるしく変化する仔犬期の心理状態とコンディション

~2ヵ月齢

生まれたばかりの仔犬は母犬や兄弟犬に囲まれ育ちます。

家族と過ごす中で、犬同士が暮らすために必要な社会規範(コミュニケーション方法やルール)を学んでいきます。

同時期に人と接しておくことも非常に重要です。

2ヵ月齢までに人と接したことがない犬は、しつけはおろか、人慣れすることが難しくなります。保護された野犬などに多いです。

2ヵ月齢~3ヵ月齢

新しい環境や人、他の犬などに対して興味がどんどん広がっていきます。

この時期から自分を取りまくもの以外に別の個体、集団があることを知ります。

それと同時に警戒心も高まりやすくなります。

こうした興味と恐怖を乗り越える中で、それらのストレスをどう処理するのか学んでいきます。

仔犬はこの辺りからストレスを乗り越え、たくましく成長し始めるわけです。

つまり、外部から与えられるストレスを乗り越える力はこの頃から付いてきますので、犬種やその子の性格によっては、しつけを始めることが可能です。

しかし、まだまだ不安定な時期である為、できれば3ケ月齢を過ぎるまでは元の環境から離さない、十分に兄弟犬たちと交流させる経験をさせてあげることが望ましいとされています。

そうすることで、自然と必要なことを適切なストレスで学ぶことができます。

仔犬のコンディションが良好かどうかは生まれた時の環境次第

以上で述べたように、仔犬が健康で元気に過ごせるのは生まれ育った環境が大きく関係します。

本来いるべき環境から早い段階で切り離されてしまった仔犬は情緒が不安定になりやすく、ストレスを乗り越える力も弱まります。

ですので、コンディションが整っていないタイミングで仔犬にしつけを行うことは非常に酷な事です。

一般的に、仔犬は2ヵ月齢以降から市場に出されてしまうため、上記のような問題を抱えた状態で皆様との生活を始めることになります。

その場合の仔犬の状態を考えると、しつけを始めるよりも、環境に適応できることを優先した方がいいと判断できます。

しつけをスタートする時期は生い立ちを含めた仔犬のコンデションを考慮する

【画像:5イメージ画像】

これまで見てきた内容をまとめると、しつけを始める時期は仔犬の生い立ちを含んで考える事が必須です。

生後3か月まで親兄弟と一緒に過ごした仔犬の場合

まず、生後3ケ月まで親兄弟犬と過ごし、人と犬への社会化が十分できている子であれば、

しつけは生後4ヶ月頃から検討してもよいでしょう。

先述したように、生後2ヵ月から3ケ月の仔犬は外への興味が高まる一方で、警戒心も強くなる不安定な時期です。

引き続き親兄弟犬の中で経験を積ませてあげれば、変動が激しい中でも自然と必要なことを適切な負担で学ぶことができます。

ブリーダーさんから引き取る場合など、親元を離れる時期をコントロールできるのであれば、3ケ月齢以降におうちに迎えることをお勧めします。

生後2ヵ月以降に親兄弟犬から離れた仔犬の場合

これはペットショップに多い傾向です。

若ければ若いほど市場価値が上がるため、ペットショップに卸すブリーダーは8週齢になるとすぐに手放します。

この場合、仔犬は皆様のおうちにやってくるまでに親兄弟犬たちとの環境→ペットショップと目まぐるしい環境の変化を経験しています。

店舗間移動などがあればもっと多くなります。

不安定な時期に加え、環境の変化などによるストレスが加わりますので落ち着く時間を多く取ってあげることが大切です。

この場合も上記同様に、しつけを始めるのは4ヶ月齢頃まで待ってあげた方がよいでしょう。

こうしてみると、しつけを始める時期に違いはないじゃないか?と思われるかもしれません。

違いが出る理由はここからです。

仔犬のコンディションよりもしつけを優先する場合とは?

生後2ヵ月齢以降に元居た環境から離された仔犬の場合、しつけによって掛かる負荷は大きくなってしまいます。

加えて、本来学べるはずだったことが早めに中断される為、仔犬の情緒は不安定かつ未成熟に。

そうした要因から、吠えや嚙みつきなど“しつけを始めた方がいい行動が早い段階”で見られやすくなってしまいます。

そうなると、未熟な状態の仔犬にしつけを行っていかなくてはならなくなります。

しつけにも段階がありますのである程度教えたいことの調節はできますが…。

いっぱいいっぱいの仔犬に、今取っている行動を手放すことと、人と暮らすための新しいルールを教えていくことになるのです。

これは小学校へ入学したての子供に、いきなり詰め込んだ授業をするようなもの。

その為、早い段階でのしつけは仔犬に掛かる負荷を出来る限り少なくすべく、細かい調節が求められます。

繊細さが求められるので、適切な時期にしつけを始めるよりも格段に失敗しやすくなります。

こうした失敗のし易さが「若い段階でしつけはしないほうがいい」と言われる理由でもあります。

上記のようなケースでは、プロにしつけをお願いした方がよいでしょう。

ただし!先述したように早い段階でのしつけは細かい調節が必要です。

引き出しが多く、細やかに対応できるトレーナーはそう多くありません。

プロを選ぶ際にも充分気をつけて下さい。

必要なしつけとは?

ここからは、しつけの開始時期とは関係なく、教えておきたいしつけ内容についてお伝えしていきます。

しつけの内容を理解できていれば、プロの見極めにも役立ちます。

今回述べるもの以外でも必要なことはあるのですが、ここでは最低限教えたいことに絞ってお伝えします。

クレートトレーニング

犬のしつけを始める前から問題が起きやすい理由は犬を〝自由にさせ過ぎる〟こと。

『犬がかわいそうだから…』とずっとフリーで飼ってしまう方が本当に多いです。

狭いところに何時間も居るよう求めることは、人から見れば可哀想に感じるかもしれません。

ですが、クレートなどの程よく狭い空間は犬にとって落ち着ける場所なのです。

むしろ、家全体がその子の生活スペースになると、おうちで起こる音や動きに反応しやすくなります。

そうなると犬は常に気が張ってしまい、中々休むことができません。

縄張り意識が付くと、来客の度に警戒心も持たなくてはならないので大変です。

本当に可哀想なのは、フリーが当たり前となっていたのに、いきなりクレートに入ることを強いられた時です。

クレートで落ち着くという経験がないまま、行動を制限されるわけですから、当然ストレスも大きくなります。

ここで誤解してほしくないのは、自由にさせることはもちろん構いません。

問題なのは、クレートに入ることができない状態のまま、フリーにしていることです。

必要な時にクレートに入れられる、犬もフリーとクレートで過ごす時間をどっちも受け入れることができる状態であれば、特にクレートに入れる必要はありません。

マテ

犬のしつけにおいて、一番重要なのは〝マテ〟を教えることと言っても過言ではありません。

何故なら、マテには犬の衝動性を止め、落ち着くように教えられる効果がある為です。

冒頭でお伝えしたように【しつけ=望まない要素を抑制していくこと】の殆どを、このマテが担います。

フセ

犬にとって取りたくない姿勢の一つである〝フセ〟

伏せは何かあった時、咄嗟に逃げにくい姿勢です。

フセが指示できるということは、伏せをする=犬が伏せを指示した人に気を許している、言うことを聞く相手だと認識しているということ。

フセは飼い主様と愛犬の関係性を表すバロメーターになります。

フセができることでマテも教えやすくなりますので、これも教えておきたい事の1つです。

以上が最低限教えておきたいしつけの内容になります。

実は、これらの用途を広げていくと他のしつけにも通じますので、ぜひ取り組まれてみて下さい。

(例えば犬のしつけでよく取り上げられるアイコンタクト、これは待てを教える中で身に付けられます)

まとめ

仔犬のしつけの適齢期はその子の状態によって変わります。

仔犬を迎える時は、その子がどの様な環境を経ておうちにやってきたのか把握しておきましょう。

仔犬を迎えてからしつけが必要になるまでの理想の流れを下記に纏めました。

理想のしつけの流れ


1.仔犬を3ケ月齢以降で迎える

2.4ヶ月齢まではしつけによって縛りすぎない

  • 遊びをしっかりさせてあげる
  • 遊びの中で止めた方がいい行動については止めていく(詳しくは別記事【仔犬の遊びしつけとの線引きとは?】をご覧下さい)
  • 自由にさせてもいいが、クレート(サークル)トレーニングは始めておくこと

3.4ヶ月齢辺りから、問題行動が定着する前に教えておきたいしつけ(マテやフセ)を教えて始める


お迎えする時期が早い場合も4ヶ月齢辺りまではあまりしつけで縛らず、仔犬が環境に慣れ安定するまで、自由に過ごさせてあげます。

ただし、不安定な時期なので、早めにしつけが必要になることも知っておくこと。

早い時期でのしつけは繊細に進めていく必要があるので、プロにお願いすることをお勧めします。

人がしつけをどのように始めたらいいのか迷うように、仔犬もまた迷いやすい時期です。

飼い主様の方向性が定まらず、情報に振り回されることが両者にとって一番危険です。

自由にさせるところと、しつけによって線引きする所を、自分の中である程度決められるようになりましょう。

それができれば、情報に踊らされることなく、飼い主様とその子に合った解決策を見つけられるようになります。


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情報提供元: わんちゃんホンポ
記事名:「 「仔犬のしつけを始めるのは何カ月齢から?」現役ドッグトレーナーがしつけを始めるタイミングを徹底解説!