- 週間ランキング
では上記の研究とは違う方向から、報酬が予測していたのとは違う価値の低いものに突然変わった場合はどうなのでしょうか。
アルゼンチンのブエノスアイレス大学医療研究所と、ハンガリーのエトヴェシュ・ロラーンド大学の動物行動学の研究チームが、報酬の価値が下がった時に犬の行動はどのように変化するのかについて調査を行ない、その結果が報告されました。
調査のための行動テストには33頭の家庭犬が参加しました。犬たちは2つのグループに分けられ、ひとつのグループはテストの際の報酬として常にドライフードを与えられました。
もうひとつのグループは、最初に調理したレバーを与えられ、テストの途中でドライフードに切り替え、その後に報酬は再度レバーに切り替えられました。
犬にとっては調理したレバーが価値の高い報酬で、ドライフードは価値の低い報酬という位置付けになります。
どちらのグループの犬たちも2種類の行動テストを受けました。1つめのテストは、2つの器を前にして実験者がどちらかの器を指差し、犬が指差された器を選ぶと実験者から報酬が与えられるというものです。
これは犬にとって、実験者という自分以外の者が関わっているという社会的な状況で、報酬を得るには実験者の手を借りる必要があります。
2つめのテストは市販の知育玩具を使ったもので、犬は箱型の知育玩具の蓋を開けて中の報酬を得ます。これは犬にとって非社会的な状況で、単独で問題を解決できるものです。
2つの行動テストの結果は興味深いものでした。社会的課題である指差しテストでは、報酬がドッグフードに格下げされると犬たちはテストに消極的になり、行動の速度が遅くなりました。ドッグフードだけを与えられていたグループではテストの途中で行動の変化は見られませんでした。
一方、非社会的課題である知育玩具を使ったテストでは、途中で報酬の価値が変えられるグループと、報酬は常にドライフードのグループの間で行動の違いは見られませんでした。
ある状況では、報酬の質が下がることに否定的な反応を示すが、他の状況ではそうではないという結果でした。これによって他の動物と比較して、動機づけに使われるトリーツの質がパフォーマンスに強い影響を与えないという点で、犬はユニークであることが確認されました。
研究者はこの点について、家庭犬は人間からちょっとしたトリーツを受け取る時に、報酬の価値が頻繁に変化することに慣れている可能性、また家庭犬の日常生活においては、価値の高い報酬がひんぱんに入手可能であるという特性から来ているのかもしれないと述べています。
2種類の行動テストの結果から、報酬の価値が突然下がった時に犬は必ずしも毎回ストレスを感じたり、パフォーマンスを低下させるわけではないという報告をご紹介しました。
2種類のテストの「社会的」「非社会的」という点が、犬の感情や行動に影響を及ぼしているのかもしれません。知育玩具を使ったテストでは犬は自主的に報酬を得ることができるので、その達成感が報酬の価値が下がったことの失望を補っているとも考えられます。
「自主的」「犬が自分で選択できる」というのは、犬のモチベーションにとって大きな影響をあたえる要素です。家庭でゲームやトレーニングをする際にも、飼い主さんがコントロールする状況ではちょっと良いトリーツを選ぶという配慮をすると良いかもしれません。
《参考URL》
https://doi.org/10.1016/j.jveb.2023.12.009
https://www.eurekalert.org/news-releases/1031335