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前回の爬虫類のイベントに続きまして、今回は鉄道のイベント「軽便祭」についてレポートいたします。
しかし、せっかくのイベントにカメラを忘れるという大ボケをかましてしまいましたので、写真はスマートフォンで撮影しています。写りが良くないものも多いですがご容赦ください。
ところで、「軽便」という単語だけでは鉄道と結びつかないですよね。鉄道には「軽便鉄道」というおぼろげな分類があるのです。そもそもの由来は、1910年(明治43年)に施行された「軽便鉄道法」という法律で、軌間(レールの幅のこと)、設備などを簡易なものでよいとした、一種の規制緩和です。この法律に基づいて、鉄道省-国鉄が採用している軌間1067mmより狭い軌間による鉄道が多数生まれました。多くは小規模な私鉄でしたが、鉄道省による軽便線も存在しました。この法律は1919年(大正8年)の地方鉄道法施行により廃止されますが、1067mm未満の狭い軌間、「ナローゲージ」と呼ばれる軌間を採用した鉄道を、「軽便鉄道」と呼び慣らしています。
「軽便祭」はそうした「小さい鉄道」のお祭で、地方鉄道の枠にとどまらず、同じようにナローゲージを採用することが多かった森林鉄道(木材の運搬用)、鉱山鉄道、土木工事用の軌道(近年では、首都高新宿線の工事にも使われています)、北海道の簡易軌道、果ては商店の荷物運搬用トロッコなどもその対象としています。しかしなにぶん現存しているナローゲージの営業鉄道は近鉄内部・八王子線と三岐鉄道北勢線、黒部峡谷鉄道だけしかありません。鉱山鉄道はまだちらほらありますが目にすることはほとんど無いでしょう。そんなわけでメインは「鉄道模型で再現した軽便鉄道」ということで開催されています。イベントとして、現役の軽便鉄道に訪問した方々による当時の写真の紹介などもありました。
さて会場を見て回りましょう。まずは模型メーカーから。
メーカー参加は十数社です。鉄道趣味の中でもマイナーな分野なので、参加メーカーも少数です。規模も小さく、一人~数人で切り盛りされているメーカーがほとんどです。
こちらはワタシのツボをついた製品を多く出されるモデルワーゲンさんの井笠鉄道北川駅のジオラマです(走行できるので細かいことを言えば「レイアウト」です)。井笠鉄道は岡山県に存在した私鉄で、笠岡~井原間のほかいくつかの路線を有していました。車両はすべて井笠鉄道に存在した車両です。縮尺は1/87です。写真写りの関係でジオラマの一部しかご紹介できませんが、車両製品も多数搬入されています。
軽便鉄道・ナローゲージの鉄道は、個性的な車両が多かったことでも知られています。ここでご紹介するのはワールド工芸さんの製品の中でも特に個性的な面々です。
まずは「根室拓殖鉄道の銀竜号」。銀色と水色は時代の違いで、同じ車両です。この車両だけで2時間くらい語れる個性的な車両です。元設計はトラックで、最初は貨物用として導入したけれども旅客用に改造したものと言われています。トラック流用なこともあり運転台は片側にしかありません。根室拓殖鉄道には3両しか旅客車両はなく、お客が多くて貨車に乗客を乗せている写真も残っています。
次は花巻電鉄デハ5。クリームと朱色で、なにやら竿のようなものを上げている車輌です。花巻電鉄は岩手県の花巻にあった鉄道で、花巻温泉、鉛温泉へと伸びていました。このデハ5、ものすごく幅の狭い電車です。要するに狭いところを通るための対応ですが、車内幅1360mmしかなかったと記録に残っています。ちなみに現在製造されている向かい合わせ席のピッチが1,500mmです。普通に座っていてて対面の人と膝がぶつかるレベルですが、さらに二列のつり革が付いていたというすごい電車です。現在、似た形態のデハ3が保存されています。
デハ5の一段上に写っている派手な装いの電車は、兵庫県にあった明延鉱山の電車、赤金号です。鉱石輸送のための鉄道ですが従業員・家族はもちろん一般の人の添乗も可能でした。一般の人は10円、従業員・家族は1円だったため、1円電車として取り上げられることがありました。ここでは主役は鉱石であり人の輸送はオマケであったのでそんな運賃だったのでしょう。写真のような小さな個性的な電車が使われていました。しかしこのような本当にマイナーなものまで製品になる時代になったんだなぁと感慨があります。
こちらはぐっとサイズの大きな1/48、Oゲージナローの草軽電鉄の電気機関車です。草軽電鉄は長野県~群馬県に、軽井沢と草津温泉の間、55kmを結んでいた鉄道です。この不思議な形の機関車は元々は鉱山・工事用のため背が低く、パンタグラフを高くかかげて高さを補っていました。現在でも軽井沢に1両保存されており、実見するとこんな小さな機関車で55kmも運転していたのかと驚かされます。さらに草軽電鉄は山岳路線にもかかわらずトンネルは全くなく、非常に曲線の多い路線でした。55kmを2時間半から3時間かけて走ったとのことですから、平均速度は20km/h程度。しかしそれが軽便鉄道というものなのです。
続いて1/48のグランビー貨車です。グランビー貨車とは、鉱石などを積み、車体を傾ける装置により、積荷をシューターへと落とすことができる車両です。主な活躍場所は鉱山ですが、現在でもトンネル工事を中心に土木工事で使われることがあります。こちらは道楽ぼーずさんの製品で、実物と同じ「車体を傾ける装置」により、積荷を落とすことが出来るようになっています。
過去に、動作しない模型は製品化されましたが、動作まで忠実に再現したのは道楽ぼーずさんが初めてだと思います。ほぼスケール通りで脱輪・脱線しないのはお見事としか言いようがありません。動きの仕組みなどくわしくは道楽ぼーずさんのサイトでどうぞ。
クリッターとは「小動物」の事なのですが、アメリカでは小型機関車のことをクリッターと呼んでいます。写真のとおり小型機関車の工作を楽しんでいるクラブです。スケールモデルからパロディの効いたものまで個性的な車両たちが並びます。
こちらは具体的な鉄道を想定し、その沿線風景と車両を作成する軽便モジュール倶楽部のレイアウトです。作りこまれた情景はまさに惚れ惚れします。この倶楽部の方々のレベルの高さは本当にすごいです。信号が点いたり、電車の音がしたりとギミックも見事でした。
2フィート=610mmゲージの鉄道を1/48に縮尺したOn2と呼ばれる模型を楽しむ方々のクラブです。クレーンで砂利をすくって貨車に積むというギミックがありましたが故障中でした。砂利がレールの隙間に入り込んでしまうのが悩みのようでした。
このほかに講演もあり、ちょっと手狭な会場は人でいっぱいでした。しかし懸念されるのは平均年齢の高いこと。もう実物を体験した人は60代以上です(多くのナローゲージの鉄道は、昭和40年代までに廃止されてしまいました)ので当たり前といえば当たり前なのですが、価格的にも趣味的にも「大人の趣味」どころか「老人の趣味」と見られないように、今後の世代の取り込みが必要だなぁと感じました。
ナローゲージの魅力は、その「特殊性」にあると思います。小規模な鉄道ゆえの個性、用途に特化したことによるアクの強さ、予算の少なさに由来する無理やりな改造など、特殊性の宝庫なのです。かといって三倍速いとかではない。むしろ数倍遅いです。そんな、型にはまらない、量産されない良さを、受け取っていただければ幸いでございます。
(文・写真:エドガー)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By おたくま経済新聞編集部 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/6144742.html