世界はこんなに曖昧で、美しい 美大生が作った「視力が低い写真集」に共感の声
眼鏡やコンタクトレンズを外した瞬間、世界が輪郭を失い、光と色の滲みに変わる……そんな「視力が低い人」だけが見ている景色を、疑似体験できる作品がXで注目を集めています、その名も「視力が低い写真集」。
投稿に添えられた写真には、冊子を開いた様子が写っていますが、そこに印刷されている写真はどれもこれも強烈にボケていて、被写体をはっきりと認識できません。そのはずなのに、どこか情緒的で、味わい深い……なんとも風情のある仕上がりです。
電光掲示板の文字は光の塊となり、森の木々は緑のモヤに。添えられたキャプションも「あの人も」「読めないかも」「猫かも」と、ぼかされており、対象が何なのか確信が持てない不安げな様子が、作品の魅力を一層引き立てています。
■ 作者の視力は0.04 見えない不便さを作品に昇華
このユニークな写真集を制作したのは、美術大学に通うジビ江さん。学校の課題で「本を作る」ことになり、自身のコンプレックスでもあった「視力」をテーマに選んだそうです。
ジビ江さんの視力は両目ともに0.04、さらに右目に乱視が入っているため、メガネ、コンタクトなしでは生活が不可能な状態。この不便さによる不満を、作品に昇華してしまうとは……さすがは現役の美大生です。
ちなみにジビ江さんによると、「裸眼だとこの本よりぼやけて見えます!」とのこと。筆者も同じくメガネなしでは生活できないので、この訴えには非常に共感できます。
■ 「見えなくてもいいかも」に込められた思い
しかし、この写真集は単なる「不便さの再現」だけでは終わりません。夜の街のネオンが滲んで幻想的なイルミネーションのように見えるページには、こんな言葉が添えられています。
「見えなくてもいいかも」
制作においてこだわった点についてたずねると、「近視の世界の曖昧さを感じてもらうために、あえてブレてる写真を使ったり、文字も読めるギリギリまでぼかしています」とジビ江さん。その上で、作品を通じて伝えたかったことについてこう語ります。
「視力が低いと不便なことや怖いことばかりで嫌になるけど、虫を退治するときはあえてメガネを外したり、ふと一瞬だけ夜景が幻想的に見えたり、まあたまには良いこともあるかもしれない、と思っていただけたら嬉しいです」
本作はあくまで習作として制作されたものですが、今回の反響を受け、来年度に少部数での販売を検討中とのこと。
高性能のテレビやカメラといった物理的な解像度にとどまらず、人の思いや繋がりが良くも悪くも“見えすぎる”、SNS全盛の現代社会において、この写真集で表現された、曖昧で美しい世界は、ある種の「逃げ場所」や「癒やし」にもなり得るのかもしれません。
<記事化協力>
ジビ江さん(@_gibier_)
(山口弘剛)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 山口 弘剛 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025121508.html-2