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江崎グリコ株式会社は、世界的にも食塩摂取量が多い日本人の食生活問題を解決するため、現行商品における食塩相当量を見直すと宣言しました。
世界保健機関(WHO)提唱の摂取量基準「1日あたり5g未満」を目安として、「1食あたり1.5g以下」を基準に商品開発を行っていくと発表。今回、報道関係者に向けて行われた発表・試食会を取材。減塩とおいしさを両立する新たなメニューを体験してきました。
発表会では最初に、江崎グリコ株式会社 執行役員の木村幸生さんが挨拶。
薬屋を営んでいた創業者・江崎利一氏が牡蠣の煮汁に含まれる栄養素・グリコーゲンに着目し、「予防こそ治療にまさる」という考えから、薬ではなくお菓子として世に送り出そうと「ビスコ」「グリコ」を発売したことに触れ、人々の健康に取り組む同社の姿勢を説明しました。
続いて木村さんは、今回の取り組みの背景について紹介。2022年の調査によると、日本人における1日あたりの塩分摂取量は男性10.5g、女性9.0gと高く、WHOが推奨する塩分摂取量の約2倍にものぼるのだそうです。
「アメリカ、イギリスにおける1日あたりの平均塩分摂取量がそれぞれ9.0g、8.6gであるのに対して、日本人の摂取量は10.0gと、世界的に見ても高い水準にある」と木村さん。その背景には、日本独特の食文化が関係しているといいます。
「和食は欧米などの食事に比べると脂質が少ない一方、味噌や醤油といった伝統的な調味料や、漬物、干物などの保存食に塩を多く使用する家庭料理が多いことが理由であると考えられます」(木村さん)
加えて、食の多様化とともに日本人の食塩摂取量はゆるやかに低下しているものの、まだまだ世界基準の目標量よりも多い状況が続いているといい、「塩分は生命維持に不可欠な栄養素である一方、とり過ぎは脳卒中や心臓病など、さまざまな病気のリスクにつながる」と強調しました。
「20歳以上の男性で1日あたり7.5g未満、女性で6.5g未満」とする厚生労働省の目標よりもさらに厳しい世界保健機関(WHO)提唱の摂取量基準「1日あたり5g未満」を目安として、「1食あたり1.5g以下」を基準に商品開発を行っていくとのこと。
具体的な取り組みの内容について木村さんは、「既存商品に『減塩バージョン』を用意するのではなく、現在発売しているメイン商品すべての塩分を減らしていく」とコメント。同時に「美味しくなければ(減塩の取り組みは)続かない」とし、「素材そのものから本来の美味しさを感じられる商品作りを進めていきたい」と語りました。
この取り組みに合わせて同社では、11月28日から俳優の滝藤賢一さんを起用したWEB広告を展開。
同社のカレールウ「ZEPPIN」を手にして「こいつは塩分量が(1食あたり)1.5gに減って、ブイヨンの旨味が際立って美味しい!」と語る滝藤さんが、「でも万が一『物足りないわぁ』なんて言われたら……!」と悩むも、「美味しい」と笑顔で食べる家族を前にホッと胸をなでおろすというコミカルな内容が紹介されました。
続いて、商品レシピ設計を担当している同社 健康イノベーション事業本部 商品開発部の池田紀子さんが登壇。食塩相当量を減らした商品ラインアップを紹介しつつ、開発の中で苦労した点や注力したポイントについて説明しました。
今回、池田さんは、「クレアおばさんのシチュー」とカレールウ「プレミアム熟」、カレー・シチュールウ「ZEPPIN」、炊き込みご飯の素「炊き込み御膳」の4シリーズを紹介。いずれも現在店頭で販売されています。
「クレアおばさんのシチュー」では、じっくり煮込んで素材の美味しさを丁寧に抽出したブイヨンを使用することで、優しい味わいを出しながら、美味しく塩分をマイルドに仕上げているのが特徴と話します。
「プレミアム熟」では、熟成したブイヨンとスパイスを利かせることで、塩分を減らしながらも満足感のある味わいを実現。
「ZEPPIN」は、40数種類のスパイスと、肉、野菜を丁寧に煮込んだブイヨンの2層構造になっており、濃厚なコクと豊かな味わいの両方を追求した、本格的な仕上がりになっています。
「炊き込み御膳」は「具沢山の炊き込みご飯の素」をコンセプトとしており、具材と出汁を別々の包装にすることで、人参やゴボウなどの具材本来の味わいと炊き上がりの鮮やかさを感じられるのが特徴。昨年秋に出汁の改良を行ったのに加え、今年秋には具材を増量して旨味と食べごたえをアップさせているということです。
池田さんいわく、約2年に及んだ開発期間は、さまざまな困難との戦いだったそう。まずは商品の塩味を減らすところからスタートしたものの、味のバランスが崩れてしまったほか、香りも落ちてしまう事態に直面してしまいました。
その一方で、塩味を減らすと素材の風味を感じやすくなることに着目。「素材のおいしさを引き出す」という方針に転換し、出汁や香味野菜、香辛料を組み合わせて旨味と香りを強化することで、新しい美味しさにたどり着くことができたといいます。
池田さんは、それぞれの商品において実施したレシピの変更ポイントについても詳しく解説。「クレアおばさんのシチュー」では、原料を3段階に分けて煮込むことで、素材の味わいを効果的に引き出したほか、香味野菜や香辛料を増量することで、華やかな味わいを作っているということです。
「プレミアム熟」「ZEPPIN」では、ブイヨンをチキンベースからポークベースに変えて旨味を強化し、トマトやオニオンなどの香味野菜や香辛料を増量し、甘味や旨味、酸味のバランスをより鮮明に。
「炊き込み御膳」では、昆布、鰹節、枯鯖節、うるめ鰹節といった4つの国産素材の合わせ出汁で旨味を高め、具材の増量で満足感を向上させたと語りました。
発表会後半はトークセッション。木村さん、池田さんに加え、ミシュランガイド二つ星の実績を持つ料理人で麻布の日本料理店「和敬」店主を務める竹村竜二さんが登壇しました。
和食の味づくりにおいて重要な役割を占める、出汁。池田さんの発表では、塩分を減らしながら美味しさを担保するための方法として出汁の活用が挙げられていましたが、料理人の目線ではどのように捉えられているのでしょうか。竹村さんは次のように語ります。
「日本料理にとって出汁は重要ですが、必ずしもそれだけで100点を目指すものではありません。出汁の比率が70%だとしたら、残りの30%は魚介や野菜などから出てくる旨味を引き込む余白がなければいけない。とり五目ごはんなら出汁と具材、お米すべてが合わさって味を作ると考えています」(竹村さん)
これを横で聞いていた池田さんは、「商品開発の際にも同じことを感じた」と、激しく共感の様子。
「味にパンチをつけることは大事ですが、そのせいでもともとあった美味しさが失われてしまうのは良くないと思っていて。お互いの味で相乗効果を発揮する組み合わせを常に考えています」(池田さん)
トークセッションでは、「炊き込み御膳 とり五目」「クレアおばさんのビーフシチュー」の2品を竹村さんが試食。木村さん、池田さんが緊張の面持ちを見せる中、料理人の目線でコメントします。
まずは「炊き込み御膳 とり五目」から。竹村さんは皿を顔に近づけて香りを味わい、「いい匂いですね」と一言。その後、じっくり味わうように箸を進めます。
「すごく優しい味、もっとたくさん食べたいなと思いました! もう少し味が強く来るのかな、という印象で食べたんですが、すごくお米の味を感じますね」(竹村さん)
続いて竹村さんは「クレアおばさんのビーフシチュー」を試食。さらに顔をほころばせると、先程にも増してスプーンを動かし、夢中の表情で完食しました。
「素材の風味をすごく感じます。スパイスの香りもそうなんですが、食べていく中で『コクがしっかりあるな』と。まるで母親が作ってくれたような味わいです」(竹村さん)
「母親の料理のよう」と称賛する竹村さんに、池田さんは思わず「胸がいっぱいです!」と感激。「塩味を減らした分、素材の旨味が表に出てくるようになりました」としたうえで、「焼きや煮込みの香りをより強く出したブイヨンを新しく配合することで、コクの部分を補強しました」と語ります。
「ハーブについても工夫していて、より香りの高いものを多く配合することでパンチを出しています。さらにこだわり素材の3段仕込みチキンブイヨンや香味野菜なども増量し、味のバランスを整えながら美味しく仕上げることができたと思っています」(池田さん)
「僕たちも料理を作るとき『こういった料理を作りたい』というイメージがあって、知識を活かしながら落とし込んでいくのですが、(グリコも)まったく同じことを考えていらっしゃるな、と。僕たちの場合は少量ですが、大量生産レベルでこれだけのクオリティを実現させるという大変さは、本当に脱帽しかないですね」(竹村さん)
木村さんも竹村さんの“絶賛”を受けて、満面の笑みを浮かべます。
「こういう会話がご家庭でも生まれたら嬉しいですね。『美味しいな』という言葉は魔法の言葉、これ以上にまさるものはありません。毎日『美味しいな』と言ってもらえる食卓を作っていきたいですね」(木村さん)
締めくくりに木村さんは、「グリコでは今回の塩分調整をはじめ、抗酸化や糖尿病対策などの取り組みをもって、健康寿命を延伸していく取り組みを行っています」と挨拶。「(健康に配慮した料理を作るうえでの)面倒なことは私たちがやりますので、どうぞお任せください」と呼びかけました。
トークセッションの後は、参加者を交えて試食会。記者も「炊き込み御膳 とり五目」「プレミアム熟カレー 中辛」「クレアおばさんのビーフシチュー」の3商品を試食しました。
「炊き込み御膳 とり五目」は、食べて一口、お米のほのかな甘さが前面に出てくるのにびっくり。たっぷり入ったこんにゃくや野菜などの具材の味もはっきりと感じられる一方、控えめながらもしっかり出汁が旨味を引き出しているのを感じました。
「プレミアム熟カレー 中辛」「クレアおばさんのビーフシチュー」は、同シリーズの減塩前の商品と比較する形で試食。「プレミアム熟」は、よりスパイスの味わいがはっきりと出ていて、シャープな味に仕上がっていました。それでいて満足感も抜群。一口、また一口と食べ進みたくなる味わいでした。
そして「クレアおばさんのビーフシチュー」は、スプーンを口に入れた瞬間、はじけるように開く豊かな香りと深いコク、やさしい口当たりに、思わず「おぉ」と声を上げてしまうほど。竹村さんが「母親の味のよう」と絶賛するのも納得です。減塩であるということすらも忘れて、「これまでに食べたことのない美味しさだ!」と感じました。
「減塩」というキーワードに対して、これまで慣れ親しんできた味をどこかで我慢しなければいけないような先入観を持っていたのですが、今回の発表会でその価値観が大きく変わりました。これまでの食事の“代わり”ではなく、「新しい美味しさ」に出会えるきっかけになりそうです。
取材協力:江崎グリコ株式会社
(取材:天谷窓大)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 天谷窓大 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2024112905.html