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明治維新直前におきたファフロツキーズ怪事件。「ファフロツキーズ」とは、別名「怪雨」とも呼ばれ、その場にあるはずのないものが降ってくる現象だ。
1867年12月15日、京都御所の周辺で「空から全裸の女性が降ってきた」と大騒ぎになった事件がある。
この怪事件を記録したのは、岡田建文である。日本初のオカルトライターともいわれる彼は、あの日本民俗学の祖・柳田國男の盟友でもあった。
岡田の記録によれば、1867年12月15日、背中に大きな瓢箪を背負った坊主が現れて、なんとか酒をめぐんでほしいと、酒屋の主人に言った。
酒を一杯のませてやると、今度は酒瓶がわりの瓢箪にも酒を満たしてほしいという。少々ㇺッとしたが坊さんの言うことだしと思い、主人は酒を満たしてやった。すると坊主はたいそう喜んで「この家にはまだ嫁がないようだが、近いうちに世話しよう」といって、どこかへ立ち去っていった。
そして12月26日の夕方、突然、酒蔵横の池に何かが落ちる音がした。目撃者によれば、空中からすっと裸の若い女性が現れて池に落ちてきた。驚いた酒屋の者らは、とにかく服を着せ、食事を与えて彼女をいたわった。
「空から裸娘が降ってきた」と京都中が大騒ぎ。酒屋の主人は、家族の迎えが来るまで娘を世話してやり、元気になった娘は酒屋を手伝った。
酒屋の主人は、あの酒坊主が「嫁を世話する」といったのは、このことではないかと思い、娘と、その後迎えにきた家族に結婚を申し込み、約1年後、二人はめでたく結婚した。酒屋で働く者たちは、あの酒坊主は、天狗か神の化身ではなかったかと祭壇を立てて感謝した。また空から降ってきた嫁を見ようと押しかける人々によって、酒屋は大変繁盛したという。
岡田建文は「空中から降ってきた裸乙女」というタイトルで「妖怪眞話」という本に、この話を記録している。
児童文学の名作「はれときどきぶた」や、アニメ映画「天空の城ラピュタ」は、ある意味でファフロツキーズ現象を扱った作品といえる。あの「親方!空から女の子が!」という有名なセリフも150年ほど前の京都の酒屋ではリアルなことだったのかもしれない。それにしても降らされる側にはなりたくない。どうか皆さんもご注意ください。
<参考>
岡田建文「妖怪眞話」モナス、1936年
【寄稿 波勢邦生 プロフィール】
キリスト教の研究者。研究テーマは近代日本の心霊学、キリスト教、死後の世界。京都大学非常勤講師など。(note:https://note.com/wwwww/)