バンダイナムコの家庭用ゲーム「テイルズ オブ アライズ」の舞台化作品、「テイルズ オブ アライズ オンラインシアター リベレイターズ -希望を託されし開放者たち-」が、2022年3月26日・27日にオンライン配信で上演されました。

 劇場ではなく、バンダイナムコの「MIRAIKEN studio(未来研スタジオ)」から、さまざまな技術を駆使して舞台劇とドラマ、ゲーム世界を融合させた意欲的な作品。この現場での様子を、公演後のインタビューで語られたキャストコメント交えてレポートします。

 上演会場となった「MIRAIKEN studio(未来研スタジオ)」は、バンダイナムコ未来研究所内に開設された、次世代エンターテンメントを創造・発信するスタジオ。

 最大の特徴は壁面と床面に埋め込まれたLEDで、様々な映像を投影し出演者と映像が一体化したような演出が可能になっていること。これについて主人公のアルフェン役、本田響矢さんは公演後のインタビューで「まったく未知の世界」と語り「みんなが意見を出し合って、協力しながら進めていったんですけど、その中で助け合って進めていけたのが素晴らしい経験でした」との感想を述べていました。

 今回は、通常の演劇でいうところの背景(書き割り)にあたる舞台装置を投影。この映像は、ゲームで使われている背景データがそのまま使われている部分もあるとのことで、よりゲームとの整合性が図られることになります。

 背景だけでなく、各キャストが着用する衣装やメイクもゲームのイメージそのまま、といった印象。どうしてもグラフィックを実体化させると違和感が残りがちですが、今回の衣装とメイクはゲームの背景と一緒になっても自然に馴染む感じです。


 ステージ全体が常に見える一般の舞台公演と違い、配信を前提としたフォーマットのため、演出にはテレビドラマや映画のようなカット割があるのも特色。アップのカットや、エフェクトを合成して見せることで、ゲームとの違和感も少なくなっています。

 アルフェンが使う「炎の剣」は刀身から炎を発し、振るうたびに炎の嵐を発生させます。このシーンでは背景の炎と合わせ、アルフェンの前にも炎のエフェクトを追加し、剣のすさまじい威力によって周囲が炎に包まれる様子を表現。


 ストーリーはゲーム中にある「野営」でのスキットを軸に、アルフェンが回想する形で各キャラクターに焦点を当てて深掘りしていくようなものとなりました。ゲームの進行上語られなかった部分も描かれ、キャラクターへの理解がより深まるストーリーといっていいでしょう。

 特にクローズアップされているのが、ロウとその父ジルファ、キサラとその兄ミキゥダ、それぞれの肉親関係です。

 ロウは抵抗組織「紅の鴉」を率いる父ジルファと離れ、レナの警察組織「蛇の目」に身を投じていますが、アルフェンらのパーティに加わるきっかけとなる、ジルファの処刑シーンは大きな見どころです。ジルファ役の小笠原健さんは「今回はロウとの親子関係が描かれていて、自分自身もジルファと同じく1児の父なので、父親らしさというものを意識しながら演じました」と話していました。


 同じく、キサラとミキゥダの兄妹。どちらもメナンシアを支配するテュオハリムとの関係がありますが、立場は大きく違います。キサラは近衛師団の兵士ということもあり、鎧とともに剣と盾を手にするという点でキサラ役の横田ひかるさんは「両手がふさがっているので、殺陣の動きに苦労しました」とのこと。

 ミキゥダは命を賭して、テュオハリムに「メナンシアのダナ人に起きていること」の真相を訴えます。忠実なる部下と思っていたケルザレクの仕業と知り、テュオハリムは大きな衝撃を受けることに。


 そして兄を失ったキサラも、テュオハリムとともにアルフェンらのパーティに合流。これらのエピソードが描かれることで、キャラクターそれぞれが胸に秘めた思いをより深く理解できます。再度ゲームをプレイすると、また違った感じ方になるかもしれません。

 このほかにも、リンウェルが救援を求めてカラグリアの「紅の鴉」にやってきた際の場面も、キャラクターそれぞれが舞台上にいるため、それぞれの感情や立ち位置などが分かりやすく、ゲームとは違った感覚で見ることができます。この作品が初舞台となったリンウェル役の和内璃乃さんは「とても仕草が可愛らしいので、歩き方や立ち方などで“リンウェルらしさ”を意識して演じました」と語っています。

 終盤にはガナスハロスを支配するヴォルラーンが登場し、アルフェンらと交戦。「セリフが少ないので表情や仕草に気を配り、ゲームのシーンとシーンの間を感じさせられるように演じました」と語るヴォルラーン役・堀海斗さんの華麗な殺陣とともに、その中で圧倒的な実力の差を感じさせる存在感は注目です。


 全体的に、ゲームの作品世界を立体的に捉えることができ、プレイ済みの人からすると「このキャラクターのセリフの時、ほかの人はこういう反応だったんだ」と新たな視点に驚くことも多いと思います。未プレイの人にとっても、より世界やキャラクターを理解した上でプレイできるので、初めから深く楽しめるかも。

 終盤に用意された「野営」のシーンは、各公演ごとに違った展開が用意されています。ここはキャスト側からの意見も取り入れ、脚本が練り上げられているとのこと。1日目の昼公演ではアルフェンとシオンのみが登場する形になっており、シオン役の飯窪春菜さんも「この回だけ2人なので、是非見てください」と話していました。

 もちろん、舞台は生き物なので、ほかのシーンでもそれぞれの回ごとに動きや台詞回し、カット割が微妙に違っていて、それを見比べる楽しみもありそう。実は2日目の昼公演でロウ役太平峻也さんが「ケルザレク」の名前を盛大に噛んでしまい、ご本人も「この回をご覧になった方には本当に申し訳ないんですが、もはや逆に、この噛むところもアーカイブ配信で見ていただけたら」と苦笑混じりにコメントしていました。

 劇場のステージではなく、初めから配信することを前提とした舞台作品というのは非常に珍しく、さらに「MIRAIKEN studio」ならではの設備や技術を駆使した演出は、非常に斬新なもの。舞台演劇とゲーム世界、そして映画的なものが一体化したハイブリッド・エンターテインメントの魅力を味わえる作品でした。


 2日間、全4公演の様子はASOBISTAGEで2022年4月27日までアーカイブ配信される予定です。単体視聴チケットの「ゴールドパック」「ダイヤモンドパック」、全公演視聴チケットの「プレミアムパック」のうち、ダイヤモンドパックとプレミアムパックでは、終演後のキャストによるアフタートークも視聴可能。各チケットや公演についての詳細は公式サイトに掲載されています。

取材協力:株式会社バンダイナムコエンターテインメント

(取材・撮影:咲村珠樹)

情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 ゲームとリアルが融合 ハイブリッド舞台「テイルズ オブ アライズ」レポート