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こんにちは、深水英一郎です。
本日、著者の倉本圭造さんに紹介していただくのは2月9日に発売されたばかりの「日本人のための議論と対話の教科書」という新書です。意味のある議論をすすめる前提となる考え方について語った本、といえばよいでしょうか。
この本が執筆された背景や、この本が目指したことについて、倉本さんにききます。
【著者 倉本圭造さんプロフィール】
1978年生まれ。京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む「新しい経済思想」の必要性を痛感。その探求のため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、カルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働く、社会の「上から下まで全部見る」フィールドワークの後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングで「10年で150万円平均給与を上げる」などの成果をだす一方、文通を通じた「個人の人生戦略コンサルティング」の中で幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。
https://twitter.com/keizokuramoto【今回紹介していただいた本】
「日本人のための議論と対話の教科書 -『ベタ正義感』より『メタ正義感』で立ち向かえ-」 (倉本圭造著、ワニブックスPLUS新書= 2022年2月9日
——本日はよろしくお願いいたします。冒頭、自分の正義を無理やり押し通す「論破」では前に進むことはできない、とあり、なるほどなと思いました。
【倉本さん】
時間がなくて急いでいる時や小規模な成功で良い時には「論破」が必要だし有効な時もありますが、それ以上のものを求めるならば「論破」はあまり有効なことではありません。
第一に、「黙らせてやった敵」が恨みを溜め込んでしまって後々全力であなたのやることを邪魔しようとしにきてしまう……という単純な理由がまずあります。ある程度以上に「大きな」範囲の人や物事を巻き込む必要があるような成功はそれでは不可能になってしまいます。
そしてより本質的な理由を言えば、「自分のベタな正義」に足りていない視点を「相手のベタな正義」は教えてくれるヒントになっている事があります。そこでその「相手のベタな正義の本質的存在意義」にさかのぼって自分の意見を改善できれば、単に「相手に邪魔されない」というだけ以上の大きな成果に繋がるでしょう。
「平均年収を150万円も上げるほどの改善」をするには、方針を決めて進み始めた後ぶつかる課題を一個や二個解決すればそれでいいわけではありません。むしろ毎日のように次々と起きる課題を解決し続けていかなくては変わることができない。
いちいち「ベタな正義」どうしで罵り合いをしているような環境では、一瞬「論破してやったという快感」は味わえても、本当に組織や社会が大きく変わるような成果に繋げるのは難しいでしょう。
あなたの周りにも「改革するぞ!抵抗勢力を黙らせろ!」という掛け声ばかり勇ましく、結局10年たっても何も変わっていない組織……というのが珍しくないのではないでしょうか。
——この書籍全編に「ベタ正義」と「メタ正義」という言葉がでてきますが、これが何なのか教えてください!
「ベタな正義とメタな正義」については、まずあなたが持っている「こうしたい」という意見があったとして、対立する意見を持つ「敵」とぶつかり合いになって物事が進まなくなってしまった状況を想像してみてください。
その時に、「相手がそういう事を言う理由」にまでこちらから迎えに行く議論をし、「相手にとっても受け入れ可能な、少なくとも強く拒否できない」ゴールを目指すリーダーシップを取っていく姿勢が「メタな正義」です。
そうではなく、「相手側がそういう事を言う理由(相手側のベタな正義)」に向き合わず全否定するだけで、自分側の「正義」だけを押し立てていこうとする姿勢が「ベタな正義」だと言えます。
——ありがとうございます。もともと、この本を執筆されたきっかけについて教えてください。
この本は、ある「保守系メディア」の編集者だった女性から、社会の中で目立つ議論はすべて「いかに論敵を華麗に攻撃してみせるか」ばかり考えていて、何も発展的な議論が行われないままジリジリと衰退してしまう今の日本をなんとかしたい……といった切実な問題意識から依頼されたものです。
——いわゆる「論破」は、刹那的な華麗さに向かってしまい発展的じゃないですね。
「グローバル」な視点と、日本の中小企業のような「ローカル」の視点に両方触れながらコンサルティング事業をやりつつ、たまにウェブメディアへの寄稿や本を書いて提言もしている私のバックグラウンドから、「全部相手のせいにして攻撃するだけで終わる議論」を超えていくための方法を書いてほしいということでした。
結果として、私のクライアントで10年で150万円給与を引き上げることができた事例のように「具体的」なところから、日本経済全体の転換、またコロナ禍への対処といった社会問題の解決にいたるまで、幅広く「議論という名の罵り合い」に陥りがちな昨今の日本を超えていくために気をつけるべき点についてまとめることができました。
——この本の第1章でお話されている内容ですね。倉本さんのクライアントさんの中で、実際極端な意見の衝突があって合意しながら議論を進められる状態になっていなかった会社があった、ということですね。それを解決することができた。
はい、読者から送られた感想の中には、本で紹介した「メタ正義」的な発想に基づいて、ウチのどうしようもない上司との関係をどう考えたらいいのか?について考え始めた、というような声もいただいています。
そういう「普段の仕事や生活」レベルの話から、社会問題のような大きな話まで、「無意味な罵り合いにならずに有意義な議論に持っていく方法」について書いた本ということになります。
——大きな成果を得られた、ということは、なにかドラマチックな出来事が起きてるに違いない、という気がしますけど、どんな事があったのでしょう?
「150万円も給与を上げられる改革が起こせたなら、それだけ大きなドラマがあったでしょう。それを詳しく書いてください」と執筆中に編集者に言われたのですね。
それで気づいたのですが、実際には「大きな改革」は実現しているけど、ドラマに出てくるような「全力でぶつかりあう激論」みたいなのは全然なかったんですよ。世の中の人は「大きく変わる」には「激論のドラマ」が必要だと思いすぎているのではないかと。
——なるほど、激論のドラマは不要と。
むしろ「大声でぶつかりあうような激論がかわされる」はるか手前の時点で、私の言葉で言うと「ベタな正義」でなく「メタな正義」に人々の気持ちを吸い上げていく配慮をすることが一番大事なんですね。
この本ではそういう私のクライアントの事例から説き起こしつつ、徐々に「日本経済全体の話」「コロナ対策をスムーズに行うための議論のあるべき姿」などの大きな話題に広げていきながら、いかに「無意味な罵り合い」に陥ってしまわないようにするかについて知っていただくことができる本になっていると思います。
——よりよい議論をする、その前提や環境について考えるということですね。どうすればそのような議論の環境が作れるでしょうか?
誤解されやすいのですが、この本は「みんな仲良く話し合いましょう」というような事を言っている本ではありません。
むしろ「本来仲間になれるはずの人」と無意味な罵り合いになることを避けることによって、「一緒に解決する気などなくただ文句を言いたいだけの人」のような「困った存在」ばかりが社会の中でのさばってしまうような現状を変えていく方法を示す事を目的としています。
その「方法」については簡単にまとめることは難しいですが一言だけ言えば、「モンスター化する人は放置してモンスター化させてしまえば、いずれ自滅していく」という真理を利用した方法ということになります。
詳しくはぜひこの本の後半部分をお読みください。単に「仲良くしましょう」という曖昧な道徳を語っている本ではなく、日本に山積する課題を本当に解決するための方法が書かれていて“痛快”だった……という感想をよくいただいています。
——今後もひきつづきこのような問題解決に関する本を執筆していく予定でしょうか?
この本はあくまで「導入編」で、今の日本には具体的な細部のスレ違いを調整して、前向きに時代に合わせて変えていかないといけない問題が山積みです。「昭和末期の経済大国の遺産」で食いつなぐのもそろそろ限界に来ていますし、罵り合いばっかりしていないでちゃんと変えていくところは変えていかなきゃいけない。
今後は日本の皆さんと、色々な課題について「メタ正義的」に、「罵り合いでなく解決を」志向する議論ができるような、いわゆる“ファシリテーター”のような役割を果たしていければと思っています。
——確かに今必要なのは、大きな視点をもって良質な議論をすすめられるファシリテーターなのかも……。
「社会の逆側の立場にいる人への想像力」を持って考えていかないと、「全部逆側のあいつらのせい」にしていても前に進めません。これが今の日本の課題だと思います。
しかし、普通の意味で優秀な職業人の方などは、人生の時間の大半をご自身の専門分野でキャリアを積まれてきているので、なかなか「逆側の世界」に思いを馳せるのが難しい部分もあるでしょう。
そういう点で、私のような多少変な人生を歩んでいる人間が、対立する議論を解きほぐして、「ちゃんと変えられる国」にしていく議論をサポートしていければと思っています。
——ご活躍期待しています、本日はありがとうございました!
(了)
【ききて・深水英一郎 プロフィール】
作った人自身に作品を紹介してもらう「きいてみる」を企画中 https://kiitemiru.com/
個人作り手によるアウトプットの拡大とそれがもたらす世の中の変化に興味があります。
ネット黎明期にインターネットの本屋さん「まぐまぐ」を個人で発案、開発運営し「メルマガの父」と呼ばれる。Web of the Yearで日本一となり3年連続入賞。新しいマーケティング方式を確立したとしてWebクリエーション・アウォード受賞。元未来検索ブラジル社代表で、ニュースサイト「ガジェット通信」を創刊、「ネット流行語大賞」や日本初のMCN「ガジェクリ」立ち上げ。スタートアップのお手伝いをしながらメディアへの寄稿をおこなう。シュークリームが大好き。