さくらに続いて、りんごの園に。
今年、2016年の6月29日にプレオープン、7月1日から開業した、保護猫カフェ「ネコリパブリック」の中野店。東京都内では2店目となるこちらは「りんご猫」と呼ばれる保護猫だけが集まる、新しいコンセプトのお店です。
りんご猫とは、ネコリパブリックが提唱する猫の呼び名で、「猫エイズ(猫後天性免疫不全症候群)」のキャリアとなっている猫を指します。おそらく国内では初めてとなる、りんご猫専門の保護猫カフェの目指すところについて、ネコリパブリックの河瀬麻花首相と徳永有可さんにお話を伺いました。
りんご猫の由来とは?
りんご猫の由来は、ヒトのエイズ(後天性免疫不全症候群)への理解と支援の象徴として用いられている「レッドリボン」にヒントを得たものとのこと。エイズ猫の理解と支援の象徴を考えたときに「赤色でインパクトのあるものは?」というアイデアから生まれたのが、赤いりんごと猫の組み合わせでした。
「りんごと猫が組み合わされば、何でもかわいくなってしまうので、エイズウイルスキャリアの猫をりんご猫と名付けることで、(誤解によって)怖がられないようになってほしいと思っています」(河瀬さん)
以前は、猫白血病ウイルスのキャリアも含めての名称でしたが、そちらの猫にはまた別の名称を考えているとのことです。
既存のネコリパブリックでは、岐阜店と江南店にりんご猫専用の部屋があり、りんご猫の譲渡実績もあるものの、プロフィールに「陽性」とあるだけで里親の元へもらわれにくくなってしまう現状がありました。そこで部屋を分けているとなかなか譲渡が進まないから、いっそ「『りんご猫専門店』を作ればいいのでは?」とのアイデアから、この中野店が生まれました。
ちなみに「さくら猫」は、去勢避妊を施された地域猫のこと。避妊去勢手術の目標として耳にV字のカットが、さくらの花びらの形に似ているところから、そのように呼ばれています。ネコリパブリックのお店には、そんなさくら猫がたくさんいます。
りんご猫に対する最大の誤解
ネコリパブリック中野店を訪れる人へ、お店のスタッフからりんご猫についての解説をすると、猫エイズに関する認知や理解はまだほとんど広がっていないことを実感するといいます。尋ねられるなかで多いのは「人間に感染するの?」「すぐ亡くなってしまうの?」といった疑問だそうです。
猫の感染症やウイルス学などの研究を続けられている石田卓夫氏のWebサイトの解説によれば、猫免疫不全ウイルス(Feline immunodeficiency virus: FIV)は猫固有のウイルスで、人間には感染しないものです。また、ヒトのエイズと似た病気を発症した猫がいたことからこのウイルスの存在が確認されたため、猫のエイズウイルスと呼ばれるようになりましたが、
その後の研究で、HIVとは別のウイルスであることがわかり、また感染した猫は全部がエイズになるわけでもないことがわかりました。したがって、このウイルスに感染した猫をすべて「猫エイズ」と呼ぶのは不適切ですし、ましては「エイズが移る」などといって感染した猫を捨ててしまうなどもってのほかです。
とあるように、感染したら発症するとは限らないものです。「発病せずに天寿をまっとうする猫も少なくありません。正しいケアをしてあげれば長生きもできますし、ウイルスの感染力も低く、通常の飼い方ならば、同居する猫に感染する危険もほとんどないといわれています」(徳永さん)
猫エイズウイルスの感染力については、石田卓夫氏のWebサイトにも言及されており「猫の体外では非常に不安定で、室温では数分から数時間で感染力を失ってしまいます」とあります。また「ただし排泄物などで湿った敷物などでは、やや長く感染力を保つこともあります」ともあることから、猫トイレや猫のいる環境の清浄を保てば、感染は防げるわけです。
それはりんご猫だけに行う特別なことではなく、猫飼育時の一般的な配慮と同じだという事実を知ってほしいと、河瀬さんと徳永さんは語ってくれました。
りんご猫にはどんな子が多い?
りんご猫ならではの特徴や、ケアすべき点はあるのでしょうか? と伺ったところ「中野店には人懐っこい猫が多いです。優しいというか、性格がいいタイプも多いです。その裏返しで、あえてケアする点は、ストレス対策ですね。優しいのとデリケートなのが表裏一体なのかもしれません」(徳永さん)
人間などと同様、ストレスの感じ方は猫によって異なるためか、同様の環境のなかでりんご猫だけ体調を崩すこともあるそうです。何に対してストレスを感じるかを観察して理解するのも、猫に対する一般的な配慮と同じ。他の猫よりもちょっと早めに対策をとるのが、りんご猫向けのケアといえそうです。
店内にはかわいい「りんご猫グッズ」も
「猫エイズキャリア=りんご猫」との認知、そして、一般の猫と同じような配慮で共に暮らせる事実を広めるために生まれたこのお店では「りんご」の名称にちなんだグッズや食品も販売されています。100%果汁のりんご猫ジュースや、アップルティーのティーバッグなど、かわいらしいデザインのりんご猫グッズを使ったり食したりするだけでも、支援につながります。
取材の時点では8匹のりんご猫が在籍し、うち1匹は譲渡準備のトライアル中とのこと。都内では「ペット1匹だけOK」という物件も多いため、そのような物件に住んでいる里親希望者にりんご猫を勧めるケースもあるといいます。
最後に河瀨さんと徳永さんは次のように語ってくれました。
「猫エイズという病気があることを知らない人が、今はほとんど。世界中にりんご猫の認知が広がって、ゆくゆくはりんご猫飼い主同士のコミュニティーができるようになればと思っています。それとともに、譲渡対象として差別されてしまう現状が変わってほしいです」(河瀨さん)
「若い人のなかには、ヒトのエイズも知らない人もいて、『人間にも同じような病があって…』というところから、猫エイズの説明をしています。猫エイズだけでなく、ヒトのエイズについての認知も高めて、人や猫のエイズキャリアに対する差別がなくなるよう願っています」(徳永さん)
今回取材を行った中野店に続き、都内3店舗目となる「ネコリパブリック 東京池袋店」が9月12日にオープン予定(9月2日からプレオープン)。そして、河瀬さんによれば、今後、大阪でのりんご猫専用の猫カフェ計画中や、「猫エイズ」よりも感染力が強く、譲渡が難しい猫白血病キャリアの猫を保護するシェルターも検討されているそうです。
誤解による恐怖から起こってしまう不幸を減らすべく活動を始めた、りんご猫専用の保護猫カフェ。正しい知識に基づく理解によって、里親の元で暮らせるりんご猫が1匹でも増えるよう、猫ジャーナルとしても願っております。誠に微力ではありますが、猫ジャーナル手ぬぐいを中野店に寄付いたしまして、売上を保護猫活動に充てていただけるようお願いして参りました。お近くに立ち寄った際には、手にとって購入いただけると幸いです。
情報提供元: 猫ジャーナル