致死率の高い『猫伝染性腹膜炎(FIP)』とは?症状や治療法など最新情報
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)感染によって引き起こされる病気です。
ウイルスは、感染猫の糞便や体液などから経口感染します。
毒性の強い猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)は、FCoVに感染した猫の体内でFCoVが突然変異してFIPを発症しますが、FIPVに変異したウイルスは猫同士で感染はしません。
FIPの初期には、以下のような一般的な症状がみられます。
- 発熱
- 食欲不振
- 嘔吐
- 痩身
- 下痢
そして、次第に悪化すると衰弱して死に至る危険性があります。
- 腹部の張り(腹水)
- 貧血による衰弱
- 黄疸
- 眼振
日本では猫の6〜7割がコロナウイルスを保有しているといわれていますが、そのうちFIPを発症するのは、その中の1割程度だと考えられてきました。
キプロスでの新型FIPの発生
ところが、2023年にキプロスで起きた大流行したFIPでは、発症率が4割以上という従来のFIPVと比べ感染力が極めて強いものでした。
世界最古のネコ科動物の遺骨が発見されたことで知られる地中海の島国・キプロス共和国は、古くから人と猫が共存している島国です。
もともと国内に猫の多いキプロスでしたが、2013年に起きた経済危機(キプロス・ショック)の頃から、野良猫の避妊に関する費用が削減され、いまでは100万匹以上の野良猫が暮らしています。
そこへ、2023年1月以降、猫伝染性腹膜炎とみられる症状で死亡する個体が急増しました。
当初、地元の動物愛護団体CAT P.A.W.S Cyprusの報告では、島内猫の約3割にあたる30万匹近くの猫が死亡したとされましたが、地元の獣医師団体により死亡個体は約8千匹と修正されています。
状況を重くみたキプロス政府は2023年8月、新型コロナウイルスの治療薬である「モルヌピラビル」を使用することを認めました。
また、これまでFIP治療に注目されていた「GS-441524」、そしてGS-441524をもとに新型コロナウイルス治療用に改変された「レムデシビル」の投与により、FIP発症個体の寛解が報告されています。
ただし、キプロスには多くの野良猫がいるため、人の手による治療に至らなかった猫たちも決して少なくなかっただろうといわれています。
新型コロナウイルス治療薬を使用した猫伝染性腹膜炎の治療は日本の獣医療での治療方法としては、まだ一般的ではありません。
新型コロナ治療薬によるFIP治療の可能性
キプロスでの流行で発見された新型猫コロナウイルス(FCoV–23)は、2023年11月に英国でも発見されました。キプロスからの猫の輸入によるものです。
英国獣医師協会によると、すでに治療されており、今後の感染拡大のリスクは非常に低いのことです。
FIPの治療薬においては、日本の動物病院でも獣医師による試行錯誤が行われてきました。
これまで、FIPの治療には、GS-441524やその模造薬MUTIANを使用されていましたが、キプロス大流行以降、レムデシビルなどを使用する動物病院が出てきました。認可薬ということから使用に前向きな獣医師も多いようです。
費用は10万~30万と高額ですが、致死率の高いFIPに対し、治療の選択肢ができたことは飼い主にとっても大きな希望の光となるでしょう。
まとめ
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、非常に致死率の高い感染症です。主な症状は、発熱や食欲不振、下痢、嘔吐です。
かつては不治の病とされ、獣医学書にも安楽死の検討を促す旨が書かれていた時代もありました。
2023年、キプロスで異常な感染拡大が起きたことは、新型コロナウイルスのパンデミックを再想起させる状況でしたが、新型コロナ治療薬を流用することでFIP治療の有効性が示され、さらなる感染拡大を食い止めることができました。
FIPの発症は免疫力の低い若い猫や高齢猫に多い傾向がありますが、猫の年齢に関係なく発症するリスクがあります。猫がコロナウイルスに感染していれば、どんな猫でも免疫力の弱まったタイミングで発症する可能性があるのです。
まだまだ治療方法が確立されておらず、致死率の高いFIPですが、少しずつ早期発見と適切な治療により回復する可能性がわずかでも期待できる病気になりました。猫に異変が見られたら速やかに獣医師に相談し、治療の機会を逃さないことが重要です。
また、現在では国内で認可のとれているFIP治療薬は存在しません。国外からそれぞれ個人で輸入した海外の治療薬を使用している病院がほとんどです。
動物病院によっても治療方針は異なるため、FIPであることがわかったら、どのような治療方針をとるのか、そして治療費用はどの程度になるのかということを事前に確認することをおすすめします。
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