誰しも、「今朝はぐっすり眠れたから、調子がいい」と感じることがあるでしょう。

また友人や会社の同僚が「最近、よく眠れていなくて…」と話しているのを聞いたことがあるかもしれまえん。

では、この「よく眠れた」「全然寝た気がしない」という感覚は、実際にはどれくらい正しいのでしょうか。

筑波大学に所属する柳沢正史氏ら研究チームは、自宅で簡単に脳波を測定できるデバイスを使い、人々の睡眠感覚と実際の睡眠状態のズレを明らかにしました。

この研究は、2025年1月16日付の学術誌『Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)』に掲載されています。

目次

  • 客観的な睡眠評価が必要
  • 多くの人が自分の睡眠の時間や質に誤った評価を下している

客観的な睡眠評価が必要

自分では「よく眠れている」と感じても、実際のところはわからない / Credit:Canva

私たちは自分の睡眠に対して、自分の感覚だけで評価してしまうことがほとんどです

そして睡眠に関する問題の発見や治療は、多くの場合、本人の自覚的な評価に基づいて進められています。

しかし、睡眠中の記憶はほとんど残らないため、正確な睡眠状態を本人の訴えだけで把握するのは簡単ではありません。

例えば、実際はある程度眠れているのに、「自分は不眠症だ」と主張し、その必要がないにも関わらず、眠るための治療を受けている人がいると考えられます。

一方で、「よく眠れている」と感じていながらも、実は「睡眠時無呼吸症候群」であり、睡眠の質に問題を抱えていた、なんてこともあるでしょう。

このような自分の睡眠に対する認識のズレは、医師が睡眠障害を診断したり、適切な治療を提供したりする際に大きな問題となります。

とはいっても、人々が睡眠の時間や質に関して、客観的な評価を得ることは簡単ではありません。

一般的な睡眠評価方法である終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を行うには、入院が必要だからです。

また、多数のセンサーを装着しなければならないため、患者にとって負担が大きく、日常環境での睡眠状態を検査できないという限界もあります。

そこで今回、柳沢氏ら研究チームは「インソムノグラフ」というデバイスを用いて、人々の自覚的な睡眠評価と、客観的な睡眠評価がどの程度異なるのか調査することにしました。

このデバイスは、郵送で簡単にやり取りでき、被験者が自分で装着可能な使いやすい設計となっています。

従来のPSGに匹敵する精度を持ちながら、日常生活環境での測定が可能なのです。

多くの人が自分の睡眠の時間や質に誤った評価を下している

421名の睡眠データを分析。客観的な評価と主観的評価を比較 / Credit:Canva

研究チームは、日本在住の20~79歳の421名を対象に、最大6晩にわたり詳細な睡眠データを収集しました。

自宅で使用できるデバイス「インソムノグラフ」を用い、脳波と血中酸素飽和度を測定しています。

脳波データは、睡眠の深さや睡眠ステージ(ノンレム睡眠、レム睡眠)を判別するための最も信頼できる指標です。

覚醒頻度や深い睡眠(N3)の割合を測定することで、睡眠の質や回復度を評価できます。

血中酸素飽和度データは、睡眠中の酸素レベルの変動を示したもので、無呼吸や低酸素症のリスクを特定できるため、特に睡眠時無呼吸症候群を発見するのに役立ちます。

そして、これらインソムノグラフで得られたデータを医師が分析し、客観的な睡眠評価を下しました。

加えて、被験者には睡眠に関する質問票を記入してもらい、これらの主観的評価と客観的評価を比較しました。

これにより、自覚的な睡眠感覚が客観的指標とどの程度一致しているのかが分析されました。

研究の概要。研究の結果、自覚している睡眠の時間や質は当てにならないと判明 / Credit:柳沢正史(筑波大学)_自覚している睡眠時間や睡眠の質は「当てにならない」

その結果、睡眠の不調を訴えた人の66%は、客観的な不眠はなく、問題が見つかりませんでした。

「寝付きが悪い」「よく目が覚めてしまう」と、眠れないことで悩んでいる人の7割近くが、実は「よく眠れていた」のです。

一方で、「十分な時間眠れている」と感じている人の45%は、客観的には睡眠不足が疑われると分かりました。

「十分寝ている」と主張する人の約半数は、実際は寝不足だったのです。

さらに、「睡眠の質が良い」と感じているグループと、「睡眠の質が悪い」と感じているグループでは、中等症以上の睡眠時無呼吸症候群の有リスク者の割合がほとんど変わらないことも分かりました。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の質を大きく低下させますが、主観的な睡眠評価では、このリスクが見過ごされやすいと分かります。

これらの結果は、主観的な睡眠評価だけでは不十分であることを示しており、脳波や酸素飽和度といった客観的データの重要性を明らかにしました。

また、今回の研究では、自宅で測定可能なインソムノグラフのようなデバイスが普及するなら、そうした客観的な睡眠データが得られやすくなることも示しています。

私たちの睡眠の時間や質に関する感覚は当てになりません。

だからこそ、誰もが一度は、自分の睡眠に関して専門家から客観的な評価を下してもらう必要があるのかもしれません。

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参考文献

自覚している睡眠時間や睡眠の質は「当てにならない」
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250117141500.html

元論文

Discrepancies between subjective and objective sleep assessments revealed by in-home electroencephalography during real-world sleep
https://doi.org/10.1073/pnas.2412895121

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 「ああよく寝た!」この感覚、実は当てにならないと判明