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加えて、当時は銀を病気の治療に使用することも普通でした。
微細な銀粒子を液体に混ぜた「コロイド状銀」がさまざまな病気を治療するための内服薬として用いられていたのです(抗菌作用などから現代でも使用されますが、医療の現場では慎重に利用されています)。
そうした医学的知識不足の背景からか、銀皮症は現代よりも19世紀から20世紀にかけてよく見られました。
ただ1940年代には、コロイド状銀の服用による銀皮症の危険性が認知されて世界的な使用が減少し、現在ではむしろ銀皮症は稀な症例となっています。
では、銀を大量に摂取するとどうして皮膚が青色になるのでしょうか?
まずもって、体内に混入した銀は長い時間をかけて徐々に皮膚の表面へと蓄積されていきます。
銀の感光性が写真撮影に利用されているように、皮膚に蓄積された銀の粒子は日光にさらされることで特定の光の波長を反射する働きをします。
これが青色や青みがかった灰色なのです。
こうした皮膚の変色は永続的なものであり、時間の経過とともに色が薄くなることは原則としてありません。
皮膚の真皮層は新陳代謝が非常に遅いため、一度沈着した銀を自然に排出することはほぼ不可能なのです。
青色の濃さが銀の摂取量や蓄積した期間によって大なり小なり異なることはありますが、銀皮症の患者は「青色の肌」が普通の状態となってしまうため、心理的な苦痛を経験することがあります。
銀皮症への有効な治療法も今のところほぼ存在しておらず、唯一、レーザー治療によって皮膚の色を改善することが可能ですが、それでも完全な治癒は期待できません。
ただ不幸中の幸いというべきか、銀皮症が直ちに命に関わることはないとされています。
銀の摂取量によって腹痛や頭痛、腎障害などが起きるケースもありますが、銀は人体において毒性が低いため、直接的に生命を脅かすような症状を起こさないのです(一度に大量の銀を摂取した場合は除く)。
では最後に、銀皮症を発症した患者として最も有名な男性を見てみましょう。
かつてアメリカに住んでいたポール・キャラソン(Paul Karason)は、メディア上で「世界一有名なブルーマン(The most famous “blue man”)」として多くの話題を集めた男性です。
キャラソンは1950年11月14日にワシントン州ベリンハムに生まれ、若い頃までは色白で健康的な肌をしていました。
しかしキャラソンは1990年代に慢性的な皮膚炎や副鼻腔炎、関節炎を治すため、自家製のコロイド状銀を服用し、さらには銀製剤を皮膚に塗り始めたのです。
それからしばらくした後、彼の皮膚は全身に至るまで真っ青に変色しました。
実際の写真がこちら。
彼は2007年頃にメディアに報道されたことで、世界的な有名人となりました。
当時の取材でキャラソンは何年にもわたって毎週1ガロン(約3.78リットル)のコロイド状銀を飲んでいたと話しています。
最終的にキャラソンは2013年に肺炎と重度の脳卒中を引き起こし、それに続く心臓発作の後で亡くなりました。
これが銀皮症のためかどうかは不明ですが、キャラソンは死に至るまでコロイド状銀を飲み続けていたといいます。
コロイド状銀は現在でも入手可能な医薬品であり、インターネットでも市販されています。
もし服用している方がいれば、過剰な摂取は控えるべきでしょう。
摂取量を気にすることなく、ガンガン飲み続けていれば、ある日、あなたの皮膚が真っ青になっているかもしれません。
参考文献
Argyria: The rare disease that turns people blue
https://www.livescience.com/health/viruses-infections-disease/argyria-the-rare-disease-that-turns-people-blue
Internet Sensation ‘Papa Smurf’Dies;Other Blue People Live On
https://abcnews.go.com/Health/internet-sensation-papa-smurf-dies-blue-people-live/story?id=20368758
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部