野球のスタジアムで、スタンドのお客さんが一斉にウェーブを作ることがありますよね。


ウェーブは一人一人が協調してこそ作れる人間特有の大きな運動ですが、実はウェーブができるのは私たちだけではありません。


この動画に見られるように、ある種のミツバチは巣の仲間たちと協調して、人間より高度なウェーブを繰り返し作ることができるのです。


ではミツバチは一体何の目的でウェーブを作るのでしょう?


また互いに言葉も交わせないミツバチがどうやってウェーブを作っているのでしょうか?




目次



  • ウェーブは天敵「スズメバチ」への威嚇行動
  • ウェーブの作り方が凄い!またウェーブが通じないときの「奥の手」も

ウェーブは天敵「スズメバチ」への威嚇行動


この驚くべきウェーブを作り出しているのは、主に東南アジアを生息地とする「オオミツバチ(学名: Apis dorsata)」です。


オオミツバチはその名の通り、日本にいるような一般的なミツバチよりも一回り大きく、それでいてスズメバチに匹敵するほど獰猛な性格をしています。


また彼らが作る巣も規格外で、大きなものだと幅2メートル、高さ1.5メートルにも達するのです。


さらに他のミツバチの巣と大きく違うのは、巣を覆う外壁のようなものがなく、中身が剥き出しになっていることです。


そのため、一堂に群がった何千匹ものオオミツバチが外に向かって思いっきり丸出しになっています。


オオミツバチの剥き出しになった巣/ Credit: Sajesh Vijayan et al., Journal of Experimental Biology(2022)

丸出しということは、天敵や何らかの環境刺激から物理的に守られていないことを意味します。


ではオオミツバチはどうやって巣を守っているのかというと、その一番の方法がウェーブなのです。


オオミツバチのウェーブは専門的には「揺らぎ(shimmering)」と呼ばれています。


特にオオミツバチの最大の天敵は、彼らよりも凶暴で攻撃力の高いスズメバチです。


これまでの研究で、スズメバチが巣を襲撃しようと接近してきたときに、オオミツバチはウェーブを作り出して威嚇することがわかっています(Journal of Experimental Biology, 2022)。


ウェーブを繰り返すオオミツバチ/ Credit: Sajesh Vijayan et al., Journal of Experimental Biology(2022)

1回のウェーブはわずか数百ミリ秒しか続かない非常に短いものですが、オオミツバチたちはこれを何度も繰り返すことで、まるで巣全体が巨大な生き物のごとく波打っているように見せるのです。


実際に実験観察では、オオミツバチのウェーブに直面したスズメバチはそれに困惑して、襲撃することなく進路を変えることが確認されています。


では、オオミツバチたちはどのようにしてウェーブを作り出しているのでしょうか?


ウェーブの作り方が凄い!またウェーブが通じないときの「奥の手」も


研究者たちがオオミツバチの巣を観察したところ、ハチたちは面白い方法でウェーブを作り出していました。


1匹1匹の動きを見ると、彼らは黒いお腹の部分を一瞬だけ上下動させていたのです。


私たちで例えるなら、腕立て伏せの状態から一瞬だけお尻を浮かして、すぐに元の位置まで下げるようなイメージです。


さらに研究者によると、オオミツバチたちは隣にいる仲間の上下動の動きに瞬時に反応して、自らも上下動を開始することがわかりました。


しかし瞬時に反応したとしても、隣のハチの動きとはわずかな誤差が生じます。


この誤差のおかげで、巣全体にウェーブが伝播していくように見えていたのです。


こちらはスズメバチを威嚇する様子を近くで見たもので、速すぎて目がなかなか追いつきませんが、個々のオオミツバチがお腹を上下動させているのが伺えます。



研究によれば、ウェーブは巣に接近してくるスズメバチに視覚的に気づいたハチから始められると考えられています。


危険なスズメバチを目視したハチは本能的にお腹の上下動を開始し、それが周囲のハチへと高速に伝播していき、ウェーブが発生するのです。


またスズメバチに気づくハチが複数いれば、巣の各所で同時多発的にウェーブが発生することもあります。


ただ問題はウェーブがスズメバチに通用しない場合があることです。


しかしオオミツバチの方も性格が獰猛なので、決してスズメバチから逃げることなく、ウェーブが効かなければ実力行使に打って出ます。


戦闘要員のミツバチたちが一斉にスズメバチに襲いかかり、「窒息スクラム」と呼ばれる攻撃を仕掛けます。


これはミツバチの群れが四方八方からスズメバチに覆いかぶさることで、中心にいるスズメバチを圧死させる恐ろしい方法です。


ただその過程で、スズメバチに最も近い場所にいる内側のミツバチも死んでしまうことがあります。


オオミツバチたちは自らの命を賭しても、仲間を守ろうとする義理堅い生き物なのです。


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参考文献

Here’s what triggers giant honeybees to do the wave
https://www.sciencenews.org/article/giant-honeybee-shimmering-nest-behavior-defense

元論文

Defensive shimmering responses in Apis dorsata are triggered by dark stimuli moving against a bright background
https://doi.org/10.1242/jeb.244716

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【昆虫の集団行動の謎】訓練も無しに数千匹でウェーブをするミツバチ