オスが必死にアピールしても、全く関心を示さないメス。

婚活が厳しいのは、なにも人間だけではありません。

クジャクの世界でも、明確な恋愛の勝ち組と負け組がおり、不器用なオスはまるで婚活がうまくいかないようです。

しかし私たちの目には、モテるクジャクと、非モテのクジャクの違いはよくわかりません。

彼らは一体どういう理屈で相手の魅力を図っているのでしょうか?

目次

  • クジャクの婚活は厳しい
  • メスのクジャクはどこを見ている?

クジャクの婚活は厳しい

このXの投稿では、クジャクの婚活模様が明らかになっています。

オスは綺麗な羽を立てて、メスに見てもらおうと必死にアピールを続けています。

ところがメスは全く反応しません。

むしろ、しつこくアピールしてくるオスを迷惑がっているように見えます。

この様子を見ていると、悲しくなる男性も多いことでしょう。

華やかに見えるクジャクたちであっても、人間と同様に婚活は厳しいのでしょうか。

クジャクの求愛と交尾について考えてみましょう。

クジャクはキジ科の鳥類であり、中国から東南アジア、南アジアに分布しています。

オスは大きくて鮮やかな「飾り羽」を持っており、これを扇状に開いてメスに求愛することで有名です。

飾り羽自体は全長1.5mであり、飾り羽を含むオスの体長は1.8~2.5mになります。

またオスの飾り羽は、メスにアピールするための羽であり、繁殖期(3月~7月)が終わると抜けていき、その下の褐色の尾羽が見えるようになります。

ちなみに、メスもオスも羽を使って比較的短い距離を飛ぶことができますが、アピール用の飾り羽が生えているオスは、より短い距離しか飛ぶことができません。

つまり、オスにとって飾り羽は、求愛するためだけに準備した「究極のアピールポイント」なのです。

繁殖期間中、オスは、メスに対して鳴き声や飾り羽を使って必死にアピールし続け、なんとか振り向いてもらおうとします。

このアピールは非常に体力を使うため、繁殖期が終わるころには体重が激減するオスの個体もいます。

モテるオスはとことん交尾でき、モテないオスは全く交尾できない / Credit:Canva

では、これほど必死な求愛の成功率は、どれくらいなのでしょうか。

ある動物園では、放し飼いされている約50羽のクジャクのうち、年間で母親になるメスがたったの4~5羽しかいませんでした。

これはクジャクの婚活が非常に厳しいことを示唆しています。

また、ピエール・マリー・キュリー大学(UPMC,2018年まで運営)の2005年の研究では、34羽のクジャクを約5週間にわたり観察したところ、交尾回数が一部のオスに大きく偏っていることが分かりました。

34羽のうち、12羽の異なるオスが合計24回交尾していました

最もモテた1羽のオスは9回交尾しており、次にモテた1羽のオスは3回、その次は2羽のオスが2回、そして8羽のオスは何とか1回だけできました。

そして悲しいことに、それ以外の多くのオスは交尾できませんでした。

メスとの交尾は一部のオスたちに偏っており、その他多くのオスは必死にアピールしても、誰にも振り向かれず終わってしまいます。

「婚活のシビアさ」「特定のオスばかりモテるという事実」は、まるで人間の社会を見ているかのようです。

では、どうしてここまで大きな差が生じるのでしょうか。

クジャクのメスたちは、いったいどこを見てオスを選んでいるのでしょうか。

メスのクジャクはどこを見ている?

美しい飾り羽はアピールポイントの1つ / Credit:Canva

オスのクジャクのアピールポイントといえば、彼らが持つ美しい飾り羽です。

この羽は鮮やかな色をしていますが、この色は、一般的な色(色素が特定の色以外を吸収することで色がつく)とは異なり、構造色によるものです。

構造色では、物物体表面の微細な構造によって、特定の波長の光が反射され、発色しています。

そして飾り羽にある目玉のような模様は、メスにとって魅力的であり、目玉の明るさや数が、交尾の成功と相関関係にあることが確認されています。

とはいえ、クジャクのメスが注目する部位は、私たち人間が注目する部位と異なります。

アメリカのパデュー大学(Purdue University)の2013年の研究では、メスのクジャク12匹の頭部に小型カメラを取り付け、彼女たちの視線を追跡しました。

その結果、メスのクジャクは、近くで求愛行動を取っているオスの「飾り羽の下部」を主に見ていると分かりました。

メスのクジャクの視線。下部に偏っている / Credit:Purdue University

研究チームも、「メスの視線がクジャクの頭や頭より上に向くことは滅多にありませんでした」と述べています。

このことは、メスのクジャクが、遠くにいるオスの飾り羽全体を見て近づき、近距離では飾り羽の下部で評価していることを示唆しています。

人間の女性も、まず遠くから男性のシルエットやスタイル、醸し出す雰囲気を見て大まかに判断し、近づいた後は目や指、肌などの細かい部分で評価することがあります。

もしかしたらメスのクジャクも、そのようにして相手を見定めているのかもしれません。

また同じ研究では、オスとメスが近づいた後、オスが求愛ダンスをして飾り羽を小刻みに震わせ、振動音を鳴らすことで、メスの注意を引こうしていることも分かりました。

メスへのアピールで重要なのは、見た目だけではありません。

鳴き声を上げたり、羽の振動音を出したりして、自分にできる限りのアピールをすることが大切だったのです。

まさに「全力の求愛」です。繫殖期が終わるころにオスが痩せてしまうのも納得できますね。

それでも、全てのオスがメスと交尾できるわけではありません。

動画に映っている光景は、実は日常茶飯事でした。

そんな厳しい婚活の戦いを勝ち抜いた猛者だけが、パートナーとの幸せをつかむのです。

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参考文献

Beauty is more than skin deep
https://www.sunshinecoast.qld.gov.au/environment/education-resources-and-events/environment-resources-and-publications/native-animals/beauty-is-more-than-skin-deep

My eyespots are up here: Expert says peacocks’legs, lower feathers and dance attract most attention during courtship
https://www.purdue.edu/newsroom/archive/releases/2014/Q1/my-eyespots-are-up-here-expert-says-peacocks-legs,-lower-feathers-and-dance-attract-most-attention-during-courtship.html

元論文

Through their eyes: selective attention in peahens during courtship
https://doi.org/10.1242/jeb.087338

Intra- and Intersexual Selection for Multiple Traits in the Peacock (Pavo cristatus)
https://doi.org/10.1111/j.1439-0310.2005.01091.x

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 【厳しいクジャクの婚活】アイツが9回交尾している間にオレは0回