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ところがその一方で、真菌には植物や動物に感染して、病気を引き起こす種も少なくありません。
中でもアリやクモなどの無脊椎動物をターゲットに感染するものが「昆虫病原糸状菌(Entomopathogenic fungus)」です。
彼らは「胞子」と呼ばれる微細な粒子を飛ばして、アリやクモに付着するのを狙います。
ターゲットに付着した胞子はそこから増殖を開始し、宿主の体をどんどん蝕んで、体内の組織を食べていくのです。
さらにそれで終わりではなく、真菌は宿主の体を完全に乗っ取って、普段では取らないような行動をさせます。
真菌は特殊な化学物質を分泌することで昆虫の神経系を制御し、それによって宿主の体を自在に動かすことができるのです。
自分の意思とは関係なくユラユラと動くその姿は、まさしく「ゾンビ」に例えられます。
最初に紹介した謎のクリーチャーも真菌に感染したクモであり、菌が全身を覆うまでに増殖したことで青白い見た目に変化してしまったのです。
そして感染されたクモに意識はすでになく、真菌によって勝手に動かされている状態と見られます。
では、真菌たちはクモをどこに運んでいるのでしょうか?
真菌たちはクモに感染して、その体内を十分に食べ尽くすと、次なる感染を狙ってクモを移動させます。
彼らが目的地とするのは「天井」のような高い場所です。
真菌は胞子を効果的に散布できる場所に陣取って、新たな感染拡大を狙います。
そこでクモを天井まで移動させて、そこに固定しておくことで、無数の胞子を撒き散らし、下にいる他のクモに胞子が付着する確率を高めているのです。
こちらはまさに天井まで運ばれて固定されたクモの画像となっています。
That’s a spider infected by fungi.
As the fungus develops, it produces compounds that alter spider behaviour. Eventually, the afflicted spider is pushed to crawl to a high place, where it usually dies. From there, the fungus explodes from the spider’s body, producing spores that… pic.twitter.com/NvQSuex60O
— Global Statistics (@Globalstats11) January 2, 2025
そのため、最初の動画に見られたクモは、次なる感染拡大を目指す真菌によって天井に運ばれている最中だと見られます。
天井に固定されると宿主のクモは完全に死に、あとは胞子を撒き散らすための道具となるだけです。
話を聞くだけでも恐ろしい存在ですが、幸いなことに、昆虫をゾンビ化させる真菌は私たち人間には無害となっています。
なので、これらの真菌が体に付着してもゾンビ化することはありません。
ただし今後の真菌の進化次第では、私たちも感染のターゲットにされる可能性はゼロではないでしょう。
参考文献
The Curse of the Zombie Spiders!
https://www.uksafari.com/curse_of_the_zombie_spiders.htm#google_vignette
Fungal Spider Pathogens
https://growwild.kew.org/blog/fungal-spider-pathogens
Insect Destroyers: Close Encounters with the Zombie Fungus
https://roundglasssustain.com/photo-stories/zombie-fungus
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部