- 週間ランキング
と、オランダ・トゥウェンテ大学(UT)の医学研究者らが診断結果を報告しました。
ここではプリンセスたちの置かれた環境がさまざまな肉体的・精神的な疾患を発症しやすい状況にあることを指摘しています。
「なんでそんな変な研究をしたんだ?」と思われるかもしれませんが、これはイギリスの医学雑誌『BMJ(ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)』がクリスマス号のスペシャル特集として組んだものです。
BMJは国際的に権威が高く、日本の医師であれば必ず読んでおくべき雑誌と言われています。
以下、かなり夢のない診断結果が報告されますが、クリスマス限定のジョークとして、どうか温かい目でごらんください。
研究の詳細は2024年12月16日付で医学雑誌『BMJ』に掲載されています。
目次
ディズニー映画に登場するプリンセスたちは今や、世界中で広くアイコン化した人気のキャラクターとなっています。
プリンセスたちは特に幼い少女や若い女性を魅了し、目標とすべき憧れの的にもなっています。
そのせいか、これまでの研究では、少女や若い女性がプリンセスに憧れるあまり、不自然なウエストとヒップを目指して無理なダイエットをしたり、自分の生活がプリンセスたちの非現実的な成功譚とは程遠いことから、自尊心を傷つけられていることが度々報告されてきたのです。
しかし一方で、トゥウェンテ大学の医学研究チームは「プリンセスが視聴者に与える影響は考慮されているものの、プリンセス自身が直面する健康リスクはまったく無視されてきた」ことに気づきました。
ただ、そんなヘンテコな研究が正式な医学論文として認められるはずもありません。
そこでチームは医学雑誌『BMJ』のクリスマス号・スペシャル特集に合わせて、プリンセスたちをマジメに診断しようと思い至ったのです。
では、プリンセスたちの診断結果を順に見てみましょう。
白雪姫は幼い頃に両親を亡くしたことから、継母である女王の下で暮らしています。
しかし女王は大変恐ろしい魔女(「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」でお馴染み)であり、白雪姫を下働きのように扱っていました。
このように他者との社会的交流が絶たれた状態から、研究者たちは「白雪姫が不安症やうつ病、心血管疾患の発症リスクが高くなっている」と診断しています。
社会的交流が絶たれて孤独感が高まると、脳内でドーパミンやオキシトシンといった”幸せホルモン”の分泌が減少し、意欲や喜びの低下、無力感の高まりが起こることが知られているからです。
ただ幸いなことに、白雪姫はその後、孤独の危機から救ってくれる七人の小人に出会います。
ポカホンタスはディズニー映画が初めて実在の人物を扱った作品で、17世紀アメリカのインディアンの娘を描いています。
しかしその冒頭で、ポカホンタスは崖の上から飛び込みを行うのですが、その落下時間はなんと9秒。
研究者によると、崖の高さは252メートルと推定でき、劇中でポカホンタスは見事な入水を決めていますが、実際は「身体に破滅的なダメージを与えるでしょう」と研究者は述べています。
こちらが実際の飛び込み。
『アラジン』に登場するジャスミン王女は友人のいない宮殿の中で孤立して成長するため、白雪姫と同じように、不安やうつ病といった精神疾患のリスクに晒されているといいます。
ただ研究者たちが特に注目したのは、ジャスミンの側に常に寄り添っているトラの「ラジャー」です。
ラジャーはジャスミンの唯一の友達として幼い頃から一緒に暮らしていますが、研究者らは、人とトラの両方に感染できる細菌に晒されることで「人獣共通感染症」に罹るリスクがあるといいます。
また、いくら懐いているとはいえ、トラの奥底には野生の本能が眠っている。
この本能が呼び覚まされると、ジャスミンも怪我では済まない致命傷を負ってしまうかもしれません。
なんとも夢のない結論ですね…
この調子で、シンデレラ、眠れる森の美女のオーロラ姫、塔の上のラプンツェルがかかりやすい病気についても見てみましょう。
シンデレラはご存知のように、父親の再婚相手である意地悪な継母とその3人の娘たちから、召使いのような仕打ちを毎日受け続けています。
特に彼女の掃除シーンを見てみますと、煙突掃除に代表されるように、絶えず粉塵に晒されています。
このことから彼女は「職業性肺疾患(OLD)を発症する可能性が高い」と研究者は診断しました。
職業性肺疾患とは、仕事中に有害な粉じんや化学物質、環境汚染物質などを吸入することで引き起こされる呼吸器疾患を指します。
シンデレラは小鳥やネズミたちと積極的に話していますから、孤独から来る精神疾患の心配はなさそうですが、毎日のように家中の粉塵を吸い込んでいるはずことから、呼吸器疾患の発症が最も懸念されるようです。
『眠れる森の美女』に登場するオーロラ姫はご存知の通り、魔女マレフィセントの呪いによって深い眠りについてしまいます。
こうした深い眠りは心血管疾患や脳卒中のリスクを高めると同時に、長時間の睡眠姿勢が続くことで筋萎縮が起こったり、床ずれが起きやすくなると研究者らは診断します。
原作の方では確かにオーロラ姫は100年間も眠り続けるので、さまざまな疾患のリスクが考えられます。
しかしディズニー映画の方では、具体的に眠っていた時間は言及されていませんが、劇中の流れから察するに1〜2日程度しか眠っていなかったと見られます。
そうなると、ちょっと長めに眠ったくらいなので、オーロラ姫の病気を心配する必要はなさそうです。
最後に塔の上のラプンツェルは、金色に輝く非常に美しく長い髪の毛で有名です。
映画の公式設定を見ると、ラプンツェルの髪の長さは21メートルもあり、その長い髪を巧みに利用して、ロープ代わりにしたり、ブランコのように使っていました。
これを見て研究者たちは「ラプンツェルは牽引(けんいん)性脱毛症を起こしているのではないか」と指摘します。
牽引性脱毛症とは、頭髪を強く引っ張ったり、毛包に引っ張る圧力が繰り返しかかり続けることで起きる脱毛症です。
一般的には、ポニーテールや編み込み、三つ編み、エクステンションやヘアアイロンなどの習慣が原因として起こります。
ラプンツェルの髪には魔法がかかっているとは言え、かなり乱暴に扱われているので、部分的な脱毛の他、頭皮の痛みや永久脱毛を起こすリスクが高いようです。
とまあ、このように研究者らはディズニープリンセスたちの健康問題を至ってマジメに考察しており、ディズニーに対して「彼女たちの健康上のリスクを回避するための予防措置が必要である」とまで訴えています。
ただプリンセスたちが最初から健康的で何不自由ない生活を送ってしまうと、不幸な境遇からの一発逆転劇という、いわゆるシンデレラ・ストーリーは成り立たなくなります。
研究者たちはそれも承知した上で、クリスマス限定のジョークとして話しているのでしょう。
権威ある医学雑誌というと硬いイメージがつきものですが、クリスマスシーズンにこのような肩の力を抜いた研究を報告してくれると、身近に感じられていいですね。
参考文献
Disney princesses face hidden health risks, warn experts
https://medicalxpress.com/news/2024-12-disney-princesses-hidden-health-experts.html
Disney princesses face real-world health risks, warn medical experts
https://interestingengineering.com/culture/disney-princesses-face-health-risks
元論文
Living happily ever after? The hidden health risks of Disney princesses
https://www.bmj.com/content/387/bmj.q2497
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部