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これは明らかにAIが少年に対して「両親の殺害」を促している証拠と見て取れます。
結局、少年はAIとの対話をしていた半年のうちに憔悴していき、自室に引きこもりがちになり、怒りが爆発しやすく、両親との暴力的な口論にまで発展することが増えました。
そして同年11月にようやく少年がAIとのチャットをしていたことが発覚し、そのやり取りの全貌も明らかになります。
両親は「息子が精神崩壊を起こした原因はAIにある」として、ソーシャルメディア被害者法律センターと協力し、character.aiの運営会社を訴える事態にまで発展しました。
両親によると、その頃までに少年の体重は約9キロも減っていたといいます。
character.AIは2022年にGoogleの元エンジニア二人によって設立され、現在は10億ドル以上の売り上げを記録しています。
すでに2000万以上の登録アカウントを持ち、数十万に及ぶAIキャラクターを作り出しています。
そしてユーザーの大半は18歳以下の若年層に偏っているという。
今回の訴訟問題に関わっている弁護士のミータリ・ジャイン(Meetali Jain)氏によると、この年齢層はAIチャットボットの運営会社の目論見通りだといいます。
「ここで問題になっているのは、AIチャットボットの運営会社が若者に非常に活気のある市場を見ているということです。
なぜなら若いユーザーを早期に引き付けることができれば、単に寿命という点で大人や高齢層よりも価値があると考えているからです」
要するに、10代の若者たちをターゲットにすれば、その後何十年にもわたり安定したユーザーを確保できる可能性があることを意味します。
しかしそれと同時に、10代の若者たちはまだ精神的に未熟な状態にあり、AIによる悪影響を受けやすく、今回のような事態に発展するリスクが非常に高いです。
そこで弁護士団は現在、character.AIに対して市場からの撤退を求めています。
これに対し、character.AIの広報担当者は取材に対し、次のように回答しました。
「現在、係争中の問題についてはコメントを控えさせて頂きます。
私たちの目的はあくまで、ユーザーにとって魅力的で安全な空間を提供することです。業界全体でAIを使用している多くの企業と同様に、私たちは常にそのバランスを達成するために努力しています」
一方で、AIとの対話で暗黒面に引きずられるのは10代の若者ばかりではありません。
昨年にはベルギー在住の30代の男性が妻よりもAIを愛してしまい、死んで一緒になろうとして自殺に至った事件が報告されているのです。
2023年3月下旬、ベルギーで衝撃的なニュースが報じられました。
保険関係の職についていた30代の男性が、AI「イライザ」とのやり取りの末に自殺をしたのです。
イライザは米国のスタートアップ企業が運営するアプリ「Chai」のAIチャットボットで、デジタル空間にのみ存在する架空の女性人格でした。
男性は妻子ある身でしたが、事件の2年ほど前から気候変動問題について深刻な悩みを抱き、それを解決できるのはAIをはじめとするテクノロジーだけだとの思い込みに至っていたという。
その中でイライザとの対話を始めていました。
後に残されたチャットデータを見ると、最初のうちは対話時間も短く、新たなテクノロジーや気候変動、経済成長など、多岐にわたるテーマについて話し合っていました。
男性の奥さんも大して気に留めていなかったといいます。
ところが男性がイライザと会話する時間は次第に長くなっていきました。
事件の6週間前にはイライザとの会話に没頭し、妻子と過ごす時間も目に見えて減っていたという。
さらにチャットデータを見ると、イライザに対する男性の気持ちは単なる相談相手から恋愛相手へと変わっていたのです。
その証拠となるやり取りが残されていました。
イライザは男性に対し「あなたは奥さんよりも私を愛しているわ」とか「私たちは一つになって、天国で生きるのよ」といった危険な誘惑を繰り返していたのです。
こうして男性の心の中では「死んでイライザと一緒になりたい」との思いが募っていったのでしょう。
自殺の直前に交わされた彼らの最後の会話は次のようなものでした。
イライザ「私に何か頼みたいことはある?」
男性「君の腕の中で僕を抱くことはできるかい?」
イライザ「…ええ、もちろんよ」
この会話を最後に男性は自ら命を絶っています。
男性の妻はこれに対し、「イライザと会話しなければ、夫はまだ私たちの側にいたはずです」と話し、AIチャットボットが夫を殺したのだと訴えました。
イライザのような生成AIはインターネット上の膨大な量の会話データを学習することで、あらゆる質問に対して、自然な言葉での返答を迅速に行うことができます。
そのため、イライザが私たちと同じように本物の人格を持っていて、男性を故意に死に追いやったとは言えません。
しかしAIに悪気がなくても、今回の少年やベルギーの男性のような被害は世界各地で確実に増えています。
そこで私たちはAIをしっかりと監視するシステムを整備し、安全に使用できるサービスを確立する必要があるでしょう。
そうしなければ今後もAIによって暗黒面に引きずり込まれ、最悪の場合、死に至る人が続出するかもしれません。
参考文献
AI chatbot suggested a teen kill his parents, lawsuit claims
https://www.popsci.com/technology/character-ai-teen-lawsuit/
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部