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多種多様な生物、微生物から巨大な動物まで観察していると、「地球にはどれくらいの生物や細胞が存在しているのだろう?」と考えるかもしれません。
この疑問の答えを明らかにすることには、私たちの好奇心を満たす以上の意味があります。
科学者たちにとって、生命の基本単位である「細胞の数」を知ることは、地球の生命維持のメカニズムや将来の限界を理解する上で重要なのです。
このような細胞の定量化の必要性は、「パズル」や「家計簿」に例えて考えられるかもしれません。
地球を巨大な生命のパズルに例えると、細胞は1つのピースです。
ピースの総数を知っているなら、パズルを完成させるために必要な時間を計算できるでしょう。
同様に、地球に存在する細胞の数を知ることで、生態系全体の仕組みや炭素の流れを正確に理解できるかもしれません。
あるいは、細胞の数を正確に知ることを、家計簿をつけることにも例えられるかもしれません。
家計簿では、収入と支出のバランスを知ることで、どのくらい貯金ができるのか、どれだけ生活費が必要か計算できます。
地球上に置き換えた場合は、これは生物が利用している炭素やエネルギー量を指すことになります。
家計簿で無駄遣いを発見できるように、細胞の定量化によって、生態系の中で効率的に炭素を使っている部分やそうでない部分を特定することも可能になるかもしれません。
どんな研究にも言えることですが、そこに含まれる総数を推定することは、現実の状況をイメージするための基盤になります。
例えば地球上に存在する砂粒の数を推定してみましょう。
これに関する報告ではGPSデータなどを元に地球に砂の存在する場所の面積、そこに存在する砂の体積などが計算されています。
砂粒のサイズは一般的に細かい砂だと0.06mm、荒い砂だと2mmとされているので、こうしたデータを下に地球に存在する砂の数を推定した報告では \(7.5×10^{21}\) 個(約75垓個)だとされています。
また宇宙にある星の数を推定した研究が2003年の国際天文学会で発表されています。
この研究では遠くの銀河が含む星の数を銀河の明るさから推定しており、地球から3億光年以内の銀河で実際に観測して調べています。そして、その結果を全天に適応して宇宙の星の数を推定しました。
それによると、宇宙の星の数は \(7×10^{22}\) 個(約700垓個)と推定されています。ただ、宇宙はこの研究の推定より遥かに広大なため、もっと膨大な数の星が存在すると考えられます。
では、地球上に存在する生物の細胞数を把握するにはどうしたら良いのでしょうか?
クロックフォード氏ら研究チームは、生態学における「生産性」に着目しました。
生産性とは、生態系における「ある期間あたりの生物生産の量」のことです。
その中でも、二酸化炭素や水といった無機物から新しく有機物が合成されることを「一次生産(基礎生産)」と言います。
例えば、二酸化炭素から糖類などを合成する光合成がこれに該当します。
一次生産は生物の基盤であり、これが無ければ食物連鎖も炭素循環も存在しなかったでしょう。
研究チームは、この一次生産がどのように変化してきたかを理解するために、様々な科学文献を調査し、様々な時点における光合成生物の数と種類、およびそれらが生産した有機物の量を推定しました。
そして、この計算により現代の細胞の一次生産を把握。そこから細胞数を推測できました。
その結果、現在地球上で生きている細胞の総数は、1030個以上だと推定されました。
この数字は、宇宙の星の数の100万倍に相当する可能性があります。
あるいは、「地球上にある砂粒の総数の1兆倍」にあたる可能性があるようです。
ちなみにこの細胞数の大部分を占めるのはシアノバクテリアでした。
また研究チームは、生命の誕生から今日に至るまでの重要な出来事を特定しました。
今から約20億年前、最初の光合成物であるシアノバクテリアが登場し、太陽を利用して酸素を生成し始めました。
そして約8億年前には、藻類が登場し、シアノバクテリアの生産性を追い越しました。
さらに約4億5千万年前には、陸上植物が登場。その生産性は藻類をはるかに上回り、炭素循環と地球全体の生物量が大幅に増加しました。
こうした出来事の特定から、研究チームは、これまでに1039~1040個の細胞が存在してきたと推定しています。
加えて、彼らの計算によると、地球上の生命は、「地球上の炭素をこれまで100回循環させてきた」という。
しかし、「限界が近づいている」ことも指摘しています。
研究者によると、「地球には1041個超える細胞を支える資源がない」のです。
この数字を越えると、生命が炭素を利用する能力が限界に達する可能性があります。
クロックフォード氏は、将来についても触れています。
太陽の進化に伴い、今後数十億年の間に、地球の気候が変化したり、大気中の二酸化炭素濃度が徐々に減少したりすると予測しているのです。
約10億年後には、二酸化炭素濃度が光合成に必要な量を下回り、植物や海洋生物が生存できなるかもしれません。
これは地球の生命活動の停止を意味します。
では、このようなことは本当に生じるのでしょうか。
この研究は生態学における様々な疑問も呼び起こしてり、正確に把握していくためには、今後より多くの調査が必要でしょう。
しかし、イタリアの森林生態学者アレッシオ・コラルティ氏は、この論文で示される数字は、「合理的かつ現実的」だと主張しています。
そして彼は、この論文を「地球上の生命が、その始まりからどのように発展してきたかを描いた、1つの映画のようだ」とも続けています。
この映画がどのような結末をたどるのかは私たちには分かりませんが、様々な研究がパズルのピースを埋めていくように、いずれ全体像を把握できる時がくるのかもしれません。
参考文献
New calculations say there are more living cells than grains of sand or stars in the sky
https://www.science.org/content/article/new-calculations-say-there-are-more-living-cells-grains-sand-or-stars-sky
Mind-Blowing Calculation Shows Living Cells Outnumber All the Stars and Grains of Sand — By far
https://www.zmescience.com/science/news-science/mind-blowing-calculation-shows-living-cells-outnumber-all-the-stars-and-grains-of-sand-by-far/
宇宙には星はいくつあるの?
https://official.rikanenpyo.jp/posts/5950?utm_source=chatgpt.com
元論文
The geologic history of primary productivity
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.09.040
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部