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しかしバッファロー大学で生体音響学を研究するエドゥアルド・メルカド3世(Eduardo Mercado III)氏は新たな調査で、この仮説が正しいものではない可能性を見出しました。
メルカド氏は元々、ザトウクジラの歌を研究しており、その流れでげっ歯類の超音波発声(USV)に関心を向けています。
同氏がげっ歯類のUSVに関する既存の研究を集めてメタ分析を行ったところ、オス個体がSUVを使ってもメス個体との繁殖成功にはつながっていないことを発見したのです。
これは従来いわれてきた「超音波発声=潜在的なパートナーへの求愛表現」の仮説とは矛盾するものでした。
その一方でメルカド氏らは、超音波を発するマウスの観察研究で興味深い行動パターンを発見します。
それはマウスが超音波を出した直後、ほぼ必ずといっていいほど、すぐに「鼻をすすっている」ことでした。
これはSUVが嗅覚と何らかの関係を持っていることを暗示しています。
そこでメルカド氏らは「超音波の物理的特性」と「マウスの嗅覚」という2つのポイント考え合わせた末に、「マウスは超音波発声で空中の粒子を動かし、クラスター化させている」という説にたどり着いたのです。
一体どういうことでしょうか。また、そうすることに何のメリットがあるのでしょう?
音響学に関するこれまでの知見では、超音波を使うことで空気中の粒子を動かし、クラスター化(複数の粒子が集まって集合体を形成すること)できることが十分に知られています。
超音波は特定の周波数や強度で空気中を伝わる際に、粒子に力を加えることで粒子を動かしたり、集めたりできるのです。
メルカド氏は「超音波を使って粒子を操作する技術が音響学の分野で使われていることを知っていたので、これはマウスにも使えるかもしれないとすぐに思いました」と話します。
そしてメルカド氏は、マウスが超音波発声で空中のニオイ分子をクラスター化させることで、鼻で簡単に拾いやすくし、その匂いの発信源の情報をより検出しやすくしているのではないか、と考えたのです。
その中には例えば、親しい仲間や家族あるいは天敵、食料、それから潜在的なパートナーが残したフェロモンなどが含まれるでしょう。
つまり、マウスは超音波で口説き文句を話しているわけではなく、ニオイ分子を集めて嗅覚を高めている可能性があるのです。
このような能力はどの生物でも未だかつて観察されたことも推測されたこともありません。
仮説を提唱した当のメルカド氏も「これは私たちが従来知っていることとはあまりにもかけ離れている」と説明。
その上で「そのような能力はまさに魔法のようであり、私たちは”ジェダイ”のようなネズミを観察していることになる」と話しました。
SF映画の金字塔『スター・ウォーズ』に登場する戦士ジェダイはフォースという特殊な力を使って、モノに触れることなく空中に持ち上げることができます。
また空中に持ち上げた無数のモノを一箇所にまとめて相手に投げつけることも可能です。
これはまさしく、この仮説で主張されているマウスの能力と一致します。
ただ普通より大きなニオイ分子の固まりが鼻に入ると、多少の違和感を感じることが予想されます。
それゆえに、超音波を発したマウスは必ずといっていいほど、鼻をすする行動を取っているのかもしれません。
しかし一方で、この大胆な仮説はまだ概念として提示している段階で、実験的には確認されていません。
そこでチームは次なるステップとして、マウスが本当にジェダイのように超音波を使っているのかを確かめる予定です。
参考文献
‘Use the force,’ Mickey: Study suggests that ‘Jedi’ rodents remotely move matter using sound to enhance their sense of smell
https://www.buffalo.edu/news/releases/2024/10/rodents-sense-of-smell-nose.html
Rats use ultrasound to boost their sense of smell, suggests new study
https://newatlas.com/biology/rats-ultrasound-boost-smell/
元論文
Do rodents smell with sound?
https://doi.org/10.1016/j.neubiorev.2024.105908
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部