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人間の骨は、主に「皮質骨」と「海綿骨」の2層で構成されています。
皮質骨は表面の硬い部分であり、骨の強度を保つ役割を担っています。
一方、海綿骨は皮質骨の内側にあるスポンジのような網目構造になっており、その隙間には骨髄が詰まっています。
この海綿骨のスポンジ構造のおかげで、骨は軽量化されており、「軽くて丈夫な骨」を実現するのに役立っています。
今回、モイニ氏ら研究チームが着目したのは、表面の硬い部分である「皮質骨」の構造です。
海綿骨と比べると密度が高い皮質骨も、実はその内部に複雑な構造と空洞が含まれています。
図が示すように、皮質骨は、まるでバームクーヘンのような楕円形の管で構成されています。
この「バームクーヘンの集合」は、皮質骨に衝撃が加わった時に高い効果を発揮します。
衝撃によって生じた亀裂は、その進展が「バームクーヘン」の形に沿って周囲に逸れていくため、一気に骨が破損するようなことが無くなるのです。
つまり、皮質骨の内部にあるバームクーヘンのような構造が、破壊靭性(亀裂の進展や破壊に対する抵抗力)を高めています。
この構造を模倣するなら、従来の建材をはるかに強固なものにできるかもしれません。
建材として用いられるコンクリートブロックは、セメント(粘土や石灰石などを粉末にしたもの)に水と砂を加えて作られます。
ただし、このようなセメントだけのブロックではそこまで頑丈にならないため、多くのケースでは、「セメントに他の材料を追加することで強度を高める」という方法が取られてきました。
しかし今回研究チームは、このようなセメント系の建材に、何か別の材料を追加するのではなく、その構造を工夫することで強化したいと考えました。
具体的には、人間の骨の「皮質骨」に見られる構造を模倣することで、亀裂に強くしたのです。
新しく開発されたセメント系の建材は、その内側に皮質骨に見られるような楕円状の空洞がいくつも存在します。
一見、空洞が複数生まれた分、従来のブロックよりも脆くなっているように感じるかもしれません。
ところが、この無数の楕円形の空洞は衝撃が加わった際に発生する「亀裂」を逸らし、その進展を遅延させながら、衝撃エネルギーを分散させます。
結果として亀裂の進展が抑制され、一度に壊れてしまうのを防いでくれるのです。
従来のセメント系の建材は、小さな材料がぎっしりと詰まっている分、エネルギー吸収能力が限られており、破壊靭性(亀裂に対する抵抗力)が弱いという欠点がありました。
しかし、「人間の骨を模倣した建材」は、この弱点を構造によって補うことができています。
実際、破壊靭性を評価する試験では、従来のセメント系の建材と比べて、5.6倍も高い破壊靭性を示しました。
しかも、この新しい構造なら、建材を作るために必要なセメントの量を減らすこともできます。
現在、コンクリートに使用されるセメントは、その作成時に世界中の温室効果ガス排出量の3%を排出しているため、この新しい建材を用いることは環境にいくらか配慮することにも繋がります。
そして研究チームは、この人間の骨を模倣した構造を他の材料にも適用できると考えており、今後は、その可能性を探っていく予定です。
参考文献
Hollow concrete mimics human bones for 5x better toughness
https://newatlas.com/materials/concrete-hollow-tubes-bones-5x-tougher/
Tougher concrete, inspired by bone
https://engineering.princeton.edu/news/2024/09/16/toughen-cement-fill-it-full-holes
元論文
Tough Cortical Bone-Inspired Tubular Architected Cement-Based Material with Disorder
https://doi.org/10.1002/adma.202313904
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部