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そのためA地点とB地点の空間が量子もつれの状態にある場合、A地点の空間とB地点の空間の真空のエネルギーは離れていても運命が「連動」するようになります。
このときA地点に対して測定と同時にエネルギーを与えた場合、運命が連動しているB地点からは、A地点に入力したぶんだけエネルギーを取り出せるようになるのです。
エネルギーをお金、A地点とB地点がATM、そして空間のエネルギーが銀行、量子もつれをATM間を結ぶ口座情報だとすると、わかりやすいかもしれません。
異なる場所に置かれたATMでも口座の残金という運命によって繋がっています。
量子エネルギーテレポーテーションも同様に、量子もつれによってA地点とB地点が運命共同体となりA地点のゼロポイントエネルギーにエネルギーを追加し、B地点のゼロポイントエネルギーからそのぶんだけ引き出すのです。
量子エネルギーテレポーテーション理論はその難解さと奇抜さから、発表当初は現実では実現不可能であると考えられていました。
しかし2023年に行われた別々の2つの研究によって、量子エネルギーテレポーテーションの実証が成功しました。
1つ目の研究は有機分子内部の炭素間でのエネルギーテレポート、2つ目の研究では量子ビット間のエネルギーテレポートが実証されました。
これらの研究では空間的なA地点B地点というものを、有機分子内の2カ所の炭素原子や量子コンピューター内部の2カ所の量子ビットで代用されており、一方の炭素原子や量子ビットにエネルギーを注入した後、もう一方でテレポートと抽出ができることが示されています。
2つの実証実験が成功したことにより、量子エネルギーテレポーテーションは理論から現実的な技術へと大きく踏み出しました。
ただエネルギーのテレポート自体には成功したものの、そのエネルギーを保存することはできませんでした。
B地点から取り出したエネルギーは不安定で、すぐに周辺の空間に飛び散ってしまったからです。
エネルギーの注入、テレポート、エネルギーの抽出の3つが実現しても、そのエネルギーの保存ができなければ実用面において問題になります。
そこで新たな研究では、B地点から抽出したエネルギーを保存するための新たな方法が考案されました。
新たな研究は2023年に行われた2つ目の、量子ビットを用いた研究を拡張したものになります。
2023年の研究では2つの量子もつれ状態にある量子ビットAと量子ビットBが用意されました。
量子ビットはもつれ状態にあると同時に、エネルギー的に最も低い状態に置かれます。
これによって空間に存在するゼロポイントエネルギーに相当する状態になります。
また量子コンピューター内部では2つのビットは物理的に隔てられていました。
研究者たちは論文中にてこの状態を「準真空」と述べています。
次に量子ビットAだけに観測と同時にエネルギーが送られました。
そして量子ビットBに観測結果が送信され、情報に従って量子ビットBに対する操作を行いました。
すると量子ビットBでは量子ビットAに注いだぶんのエネルギーに応じた、エネルギーの抽出が実現したのです。
ビット間の情報伝達は光の速度以下のため、エネルギーの移動はアインシュタインの相対性理論に反しません。
ただ先にも述べたように、抽出されたエネルギーはすぐに空間に散逸してしまい、使える形で保存することはできませんでした。
そこで新たな研究では、保存用の量子Cを用意し、全体を3つのプロセスにわけて抽出されたエネルギーの保存を試みました。
また実験に当たってはIBMの量子コンピューターが使用されました。
最初の2つのステップは、以前の実験と同じように、量子ビットAと量子ビットBの間に量子もつれが作られ、量子ビットAに観察と同時にエネルギーの注入が行われました。
そして量子ビットBは送られてきた観察結果にもとづいて観測を行い、エネルギーの抽出を試みます。
ただ新たな研究では量子ビットBからエネルギー抽出を行う直前に量子ビットCを特定の方向に回転させておきます。
この操作により量子ビットCはエネルギーを蓄えられる状態に変化します。
そして最後に量子ビットBのエネルギーを収穫し、それを量子ビットCに伝達しました。
結果、量子ビットBに置いたままだとすぐに散逸してしまうエネルギーを、第3の量子ビットCへの保存に成功しました。
研究者たちは今後、同様のテストを量子ビットだけでなく炭素原子を使用して行っていくと述べています。
また将来的には蓄積されたエネルギーを使用して、化学反応を起こすことも目指すとのこと。
あるいは、量子ビットのエネルギーをテレポートさせることで量子ビットの冷却を行ったり、遠隔地にある機体や装置に搭載した量子ビットに外部からエネルギーを送れるようになるかもしれません。
(※ただし情報の通信はビット間にて光速以下で続ける必要があります)
理論を考案した堀田氏も現在、量子エネルギーテレポーテーションで抽出したエネルギーを電力の形で保存、運用する実験を行っており、20年代後半の実現を目指しています。
もし実現すれば、空間を導管として、発電所からエネルギーを車にテレポートさせる量子自動車が実現するかもしれません。
この量子自動車はバッテリーやガソリンの代りにもつれ状態の量子を蓄え、発電所からの情報を受信しつつ動くことになります。
もしかしたら未来のガソリンスタンドは、ハイオクとレギュラーにあたる量子もつれ状態の品質が看板に表示されているかもしれませんね。
元論文
Extracting and Storing Energy From a Quasi-Vacuum on a Quantum Computer
https://doi.org/10.48550/arXiv.2409.03973
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部