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そんなマリアナ海溝で2014年に奇妙な調査報告がなされました。
米オレゴン州立大学(OSU)の海洋学研究チームがマリアナ海溝の音響調査をしていたところ、研究者たちも聞いたことのない不気味な音声が録音されたのです。
この音声は研究者たちの間で「ビオトワング(biotwang)」と呼ばれています。
ビオトワングの実際の音声がこちら。音量に注意してご視聴ください。
ビオトワングは主に2つのパートに分けることができます。
1つは前半部のブオォ〜ンという波動が広がるような音。そしてそのすぐ後に強い振動音が続きます。
いずれも機械の出す音のようにも聞こえ、宇宙船の音と表現されたりもしました。
マリアナ海溝の底に宇宙船が沈んでいて、今も不思議な駆動音を出している、そんな空想も浮かんでしまいます。
とはいえ、常識的に考えれば何らかの海の生物が出している音であるはずです。
しかし、研究者たちは発見から今日に至るまで、この怪音の正体をつかめずにいました。
2016年に一度、シロナガスクジラやザトウクジラの声ではないかとの主張がなされますが、既知のクジラの鳴き声とは一致せず、未解決のまま10年の月日が過ぎています。
そんな中、NOAAの最新研究は、ついに音声の正体を明らかにしたのです。
NOAAの海洋学研究チームは今回、ビオトワングの正体を明らかにすべく、これまでに録音した膨大な数の音声を調査しました。
NOAAは2005年以来、マリアナ海溝を含む北太平洋エリアで録音調査を続けており、その音声データは全部で20万時間以上に達します。
研究主任のアン・アレン(Ann Allen)氏によると「この音声を一つずつ聴いていたら、すべてを聴き終わるまでに23年近くかかってしまう」という。
そこでチームはGoogleと協力し、AIを使って20万時間以上の音声データを聴かせてトレーニングさせ、機械学習アルゴリズムを用いて不要なノイズを除去。
その状態でビオトワングの音声データと一致するものを探した結果、ニタリクジラ(学名:Balaenoptera brydei)の鳴き声と見事に一致したのです。
ただし、世界中の海に分布するニタリクジラのすべてがビオトワングと同じ奇妙な鳴き声を出すわけではありませんでした。
研究者によると、マリアナ諸島の近くで録音された10頭のニタリクジラのうち、9頭の鳴き声だけがビオトワングの音声データと一致したのだといいます。
ニタリクジラは北緯40度と南緯40度にわたる水温20℃以上の海に広く分布していますが、ビオトワングを発していたのはマリアナ諸島にいた9頭のみでした。
このことから、ビオトワングのような独特な鳴き声はニタリクジラの中でも、マリアナ海溝付近に分布する集団に特有のものであることが推定されました。
アレン氏も「10頭中1〜2頭の鳴き声だけがビオトワングと一致すれば、それは偶然の可能性がありますが、9頭となるとビオトワングはニタリクジラの鳴き声と見てほぼ間違いない」と話しています。
しかし一方で、これまでの研究ではまだマリアナ海溝付近のニタリクジラの集団が固有の音(ビオトワング)を発する理由については明らかにされていません。
アレン氏は「ニタリクジラはお互いの位置を特定するためにビオトワングを使っている可能性がありますが、それを証明するにはさらなる調査が必要です」と話します。
やはりこの事件の裏には、まだ明らかにすべき謎が隠されているようです。
マリアナ海溝に特有の海洋環境がビオトワングのような鳴き声を発達させたのか、それともマリアナ海溝の奥底に眠る”何か”と交信するためにニタリクジラの集団が独特な鳴き声を出しているのか…
広大な海には私たちの知らない秘密がごまんと隠されているのでしょう。
参考文献
Hey, Google: Find this New Whale Sound
https://www.fisheries.noaa.gov/feature-story/hey-google-find-new-whale-sound
Creepy ‘biotwang’noises coming from the Mariana Trench finally explained after 10 years
https://www.livescience.com/animals/whales/mysterious-sound-coming-from-the-mariana-trench-has-finally-been-explained
元論文
Bryde’s whales produce Biotwang calls, which occur seasonally in long-term acoustic recordings from the central and western North Pacific
https://doi.org/10.3389/fmars.2024.1394695
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部