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ほとんどの人が、人生のどこかの段階で、自分の愛する人の死を経験します。
高齢の親が重い病気を抱えたり、兄弟や配偶者を交通事故で失ったりすることがあります。
また、幼い子供がアクシデントに巻き込まれたり、流産によって胎内の赤ちゃんを亡くしてしまったりするケースもあります。
そのようにして愛する家族が亡くなった直後では、強い衝撃と共に、死を受け入れられない感情が沸き起こります。
その後は長い期間、「自分を責める気持ち」や「寂しさ」、「故人のことばかり考えてしまう心理状態」が続くでしょう。
この時に受けるストレスは、「人生で最も大きい」と言われており、当然、体にも悪影響を及ぼします。
実際、過去の研究では、特定のライフステージで愛する人を亡くすことが健康や死亡リスクに悪影響を与えると分かっています。
例えば、幼少期に親または兄弟を失った人は、トラウマを抱え、精神状態が悪化したり、老後の死亡リスクが上昇したりすると分かっています。
しかしながら、「愛する家族を失う」ことは、幼少期だけでなく、人生の様々な段階で経験するものであり、そのような幅広い期間を扱った研究は多くありません。
そこで今回、アイエロ氏ら研究チームは、エピジェネティック・クロックと呼ばれるDNAマーカーを使用して、愛する人を失った経験と老化スピードの関係を調査しました。
このエピジェネティック・クロックとは、エピゲノム(どの遺伝子を使い、どの遺伝子を使わないかを決めるスイッチ)のうち、DNAメチル化のパターンを調べることで、細胞や組織の生物学的年齢を推定する技術のことです。
これらのパターンは時間と共に変化するため、生物学的年齢の指標として使うことができます。
この研究は、非常に長期にわたって実施されており、アメリカの3963人の対象者を1994年から2018年まで追跡し、5つの調査ウェーブを経て健康と行動の関係についてデータが収集されました。
この各ウェーブでは、家族の死を経験したかについても調査されており、結果、参加者の約40%が33~43歳の成人期に少なくとも1回は家族を失ったと分かりました。
当然と言えますが、親を失う経験は、幼少期や青年期(6%)に比べて成人期(27%)に多くみられました。
そして研究では家族の死という経験(ストレス)が、幼少期~青年期(18歳まで)と成人期(19~43歳)で、生物学的年齢にどのような影響をもたらすか調べられました。
そして多くの死を経験した参加者は、愛する人の死を経験をしなかった参加者と比べて、生物学的年齢が有意に高いと分かりました。
この生物学的年齢の影響については、高くなるほど慢性疾患を抱えやすくなったり、寿命自体が短くなると考らえれています。
これは愛する人の死(今回の場合家族)の経験が、生物学的な老化速度を加速させている可能性を示唆します。
特のこの影響は2回以上家族の死を経験した場合に顕著だったという。
単純に「家族を失ったことがあるか、ないか」だけでなく、その頻度が高いほど、影響は大きくなるようです。
実際、2回以上の流産を経験した母親は特に生物学的年齢が高く、その傾向は流産を1回経験した人や流産の経験がない人よりも強いものとなっていました。
また、家族を失うことでもたらされる健康リスクの増大は、どの年齢にも当てはまりますが、アイエロ氏らは、「幼少期や成人初期」など重要な発達期において、より深刻な影響を受ける可能性があると述べています。
18歳未満の場合、すぐに老化が生じることはありませんが、このときのストレスは人生全体にわたって長期的な影響を及ぼす可能性があり、今回の研究では後年の調査により成人後の老化速度を加速させていることが確認されています。
愛する人の死は、遅かれ早かれ、ほとんどの人が経験するものですが、そのタイミングや頻度によって、健康リスクが増大したり、老化が早まったりすると分かりますね。
アイエロ氏は、「今後の研究では、そのような人の悲しみを軽減する方法を見つけることに力を注ぐべきだ」と続けています。
参考文献
Losing a Loved One May Speed Up Aging, Study Finds
https://www.publichealth.columbia.edu/news/losing-loved-one-may-speed-aging-study-finds
元論文
Familial Loss of a Loved One and Biological Aging NIMHD Social Epigenomics Program
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2024.21869
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部