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独特な薬品のにおいや、「キーン」という機械の音、歯を削る時の振動などを不快に感じるからです。
最近、そんな歯医者嫌いの人々をさらに怯えさせるような報告がもたらされました。
アメリカの都市ボストンにある会社「Perceptive」が、全自動ロボット歯科医を開発し、人間の患者を対象に治療を行ったというのです。
自律型ロボットが自分の歯を削るなんて非常に恐ろしいですが、このロボットを用いると人間の歯科医の8倍早く処置を終えることができます。
目次
Perceptive社の創設者兼CEOであるクリス・シリエロ氏は、カナダで生まれ育ち、歯科大学を卒業後、カナダの田舎で働きました。
その時に彼が気づいたのは、「この地域には、すべての患者を治療できるほどの歯科医がいない」ということでした。
国や地域によっては歯科医が不足しており、今後、その傾向は加速するかもしれません。
シリエロ氏はこうした課題に対処するため、人間の代わりに素早く処置できるロボット歯科医の開発に取り組むことにしました。
そして彼のチームは実際に、高度な画像処理とAI、ロボット工学を活用したロボット歯科医を作り上げました。
ロボット歯科医を用いた治療は、いくつかのプロセスに分かれています。
まず光干渉断層撮影法(OCT)と呼ばれる「光の干渉性を利用した測定技術」により、歯、歯茎、歯の内部の神経を含む口の詳細な3Dモデルを作成します。
約90%の精度で空洞を自動的に検出し、初期の小さな虫歯だけでなく、奥歯の間の虫歯なども正確に見つけることができます。
この情報を元に、人間の歯科医と患者が話し合い、どのような治療を行うか決定されます。
そしてここからは、人間の歯科医とロボット歯科医がバトンタッチします。
実際に歯を削って治療するすべての作業をロボット歯科医が自律的に行うのです。
Perceptive社は、「ロボット歯科医は人間の歯科医が行う処置を完全自動で行える」と主張しています。
例えば、人工の歯をかぶせる「クラウン」の治療では、かぶせ物ができるよう元々の歯を削らなければいけません。
Perceptive社によると、人間の歯科医であればこうした歯の準備に2時間かかるため、患者は2回通院して、それぞれ1時間の処置を受けなければいけないそうです。
しかしロボット歯科医であれば、この2時間の作業を僅か15分で完了できるとのこと。
人間の歯科医よりも約8倍早く処置を終えられるのです。
当然、患者の通院は1回で済み、長時間口を開けたままにして疲れ果ててしまうこともありません。
また、システム自体の導入には費用がかかりますが、時間の節約になるため、結果として治療費が下がる可能性もあります。
そしてこの度、Perceptive社は、実際に「ロボット歯科医による人間を対象にした治療テストに成功した」と主張しました。
シリエロ氏も、「世界初の完全自動化ロボット歯科治療を成功させたことをうれしく思います」と語っています。
ただ、実験の参加者が同じような喜ばしい気持ちで治療を受けたのかは分かりません。
ほとんどの人は「ロボットが自分の歯をドリルで削る」という事実に恐怖を感じ、耐えられないことでしょう。
また、このロボットは現段階でアメリカ食品医薬品局(FDA)の承認を受けておらず、Perceptive社も導入のスケジュールを立てていません。
私たちが、「人間の歯科医の治療か、ロボット歯科医の治療を受けるかで悩む」のは、少なくとも数年以上は先のことになるでしょう。
参考文献
Fully-automatic robot dentist performs world’s first human procedure
https://newatlas.com/health-wellbeing/robot-dentist-world-first/
Meet modern dentistry.
https://www.perceptive.io/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部