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・週1回以上笑う(よく笑う)
・月に1回以上笑うが、1週間に1度は笑わない(たまに笑う)
・月に1回未満しか笑わない(ほとんど笑わない)
分析の結果、年齢、性別、高血圧や糖尿病の有無、喫煙習慣、飲酒習慣などを考慮して比較したところ、よく笑うグループに比べて、ほとんど笑わないグループの全死亡率(一定期間中に死亡した人の割合を比較したもの)がほぼ2倍(正確には1.95倍)も高いことが分かりました。
また、心血管疾患に関しては、よく笑うグループと比べて、たまにしか笑わないグループでは発症リスクが1.62倍高くなっていました。
こういった研究結果に基づき、研究グループは、「年齢、性別、喫煙、飲酒状況、高血圧、糖尿病などの一般的な危険因子の影響を調整しても、笑いの頻度が全死亡率および心血管疾患の発生率に関係する」と結論付けました。
ただ、上の心血管疾患の発症リスクに関する結果は、よく笑うグループと、たまにしか笑わないグループには差が出ていましたが、ほとんど笑わない人たちとよく笑う人たちの間には有意差がなかったと報告されています。
そのため笑えば笑うほど効果が高まるわけではない可能性が示唆されています。
ただ、笑いが健康上のリスクに対してある程度予防効果を持つ可能性は、他の研究でも論じられることのあるテーマであり、考えられる理由としては、笑いが免疫系(例えば、笑うことで体内のナチュラルキラー細胞の活性を高める)、血管機能、ストレスマーカーに好影響を与えることが挙げられています。
では今回の山形県の条例は、科学的な報告にしっかりと則したものなのでしょうか?
さて、ここで今回可決された条例を改めて見てみると、次の通り、県民に対して1日1回笑うことが求められています。
(県民の役割)
第5条
県民は、笑うことが健康にもたらす効果について理解を深めるとともに、1日1回は笑う等、笑いによる心身の健康づくりに取り組むよう努めるものとする。
今回の条例に関する論争のほとんどは、笑う頻度そのものが焦点ではありませんが、よく笑うグループでも、週1回以上の頻度なことを踏まえると、そもそも、そんなに毎日笑わなくても良いのではないでしょうか?
また先にも述べた通り、心血管疾患の発症リスクに関する結果は、ほとんど笑わない人たちと週に1回以上笑う人たちの間に有意差がなく、笑えば笑うほど効果が高まるわけではないことを示唆しています。
また、一言で「笑う」といっても、大声で笑う、小さな声で笑う、静かに笑うといった、声のボリュームでのカテゴリー分けに加え、思い出し笑い、一人笑い、照れ笑い、作り笑い、苦笑、冷笑など、違ったニュアンスがたくさんあります。
しかし、こういった笑いの種類の影響については本研究からはわかりませんし、条例を読んでも、どんな笑いを求めているのかは不明です。
これらを踏まえると、今回の騒動は、研究のエビデンスそのものと、それをもとに社会実装したものには、ギャップが生じることを私たちに教えてくれているのかもしれません。
最後に、この研究自体は、笑うことが全死亡率や心血管疾患の発症率から見た健康度にプラスに働くことを示した貴重な成果に違いありません。
高齢化社会が進む中で、国民一人一人の僅かな健康の差が国レベルでは大きな医療費の差を生むかもしれません。
条例の是非はさておき、多くの人が週に1回は大声で笑えるような世の中になるのであれば、それはきっと素晴らしいことでしょう。
みんなが心から、自然に笑える日がきますように。
参考文献
山形県笑いで健康づくり推進条例
https://www.pref.yamagata.jp/documents/5523/warai_jourei.pdf
山形県コホート研究通信 vol.9
https://www.id.yamagata-u.ac.jp/IPMSR/pdf/newsletter9.pdf
元論文
Associations of Frequency of Laughter With Risk of All-Cause Mortality and Cardiovascular Disease Incidence in a General Population: Findings From the Yamagata Study
https://doi.org/10.2188/jea.JE20180249
ライター
髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。