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しかし真に驚くべき秘密は骨壷のうちの1つに隠されていました。
それは外側の茶色い容器の中にガラス製の骨壷がすっぽりと納められている状態で、さらに骨壷の蓋を開けてみると、赤みを帯びた液体が入っていたのです。
また赤みを帯びた液体の中には男性の遺骨が浸されていました。
古代ローマにおいてワインは非常に象徴的な飲み物であり、埋葬の儀式とも密接に関連していた歴史が知られています。
したがって、この謎の液体の正体もワインである可能性がありました。
そこでチームは液体の化学分析を実施。結果、すべてのワインに含まれているポリフェノールやエタノールが確認されたのです。
さらにチームは、現在のアンダルシアで醸造されているモンティーリャ・モリレス、ヘレス、サンルーカルなどのワインと比較。
するとポリフェノールでは、モンティーリャ・モリレス、ヘレス、サンルーカルのワインにも存在する7つのポリフェノール種が見つかりました、
それに加えて、液体中にはシリング酸(赤ワインに含まれるマルビジンの分解産物)が存在しなかったことから、これは赤ワインではなく、白ワインであることが判明しています。
現在の赤みを帯びた色は2000年以上の経年劣化による酸化などが原因と考えられます。
以上の調査から、骨壷に納めらていた液体の正体は2000年以上前の白ワインであることが明らかになりました。
チームはこの結果に驚きを隠せませんでした。
なぜなら液体として現存するワインとして、これが世界最古となるからです。
今まで世界最古とされていたのは1867年に発見され、現在はドイツのプファルツ歴史博物館に保存されている西暦325年頃のボトルワインです。
そのため今回の白ワインは、これを2000年近く更新する古さとなりました。
しかし、もう一つの大きな謎が残されています。
それは「なぜ骨壷の中にワインを入れたのか?」という問題です。
研究者らは「遺骨がワインに浸っていたのは偶然でもなんでもなく、れっきとした理由がある」と話します。
古代ローマ社会においてワインは主に男性の飲み物であり、女性は長い間ワインを飲むことを禁じられていました。
これは家庭内の道徳や品位を守るためとされ、女性がワインを飲むことは不適切であると考えられていたからだといいます。
実際に紀元前2世紀の法律では、妻がワインを飲むのを見つけた場合、離婚の正当な理由になることもあったのです。
(※ この制約は時代が進むにつれて緩和され、特に上流階級の女性や祭事などの特別な場では、女性も広くワインを飲むようになります)
こうした背景から古代ローマ社会では、ワインが埋葬時に遺骨の性別を区分するための副葬品となっていきました。
例えば、遺骨をそのまま骨壷に入れるだけだと男女の区別がつきませんが、今回のように遺骨をワインと一緒に納めることで、男性の骨壷と判断できたのです。
またこの慣習は「故人が死後の世界でもワインを楽しめるように」との意味合いも込められていたと指摘されています。
これと対照的に、女性の遺骨がワインに浸されることはありませんでした。
今回の遺跡から見つかった骨壷の中にも女性の骨はありましたが、そこには一滴のワインも入っておらず、代わりに琥珀色の宝石が3個、シソ科の植物であるパチョリの香りのする香水の瓶、絹織物の残骸が入っていたという。
こうした理由から、男性の遺骨はワインに浸された状態で埋葬されたようです。
参考文献
A white wine over 2,000 years old, of Andalusian origin, is the oldest wine ever discovered.
https://www.uco.es/investigacion/ucci/es/noticias-ingles/item/4717-the-world-s-oldest-wine-discovered
元論文
New archaeochemical insights into Roman wine from Baetica
https://doi.org/10.1016/j.jasrep.2024.104636
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部