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自然界で道具を使える種はごく少数に限られており、ラッコがいかに賢いかが伺えます。
そんな中、米カリフォルニア大学サンタクルーズ校(UC Santa Cruz)の最新研究で、道具を使うラッコはオスよりメスの方が圧倒的に多いことが判明したのです。
一体どうしてでしょうか?
研究の詳細は2024年5月16日付で科学雑誌『Science』に掲載されています。
目次
ラッコは北太平洋の日本・千島列島〜北アメリカ西岸部に分布する海洋哺乳類です。
泳ぎが得意でないラッコはあまり動かない生物を餌にしており、特にウニやアワビを好物としています。
ウニやアワビは殻がそれほど硬くなかったり、身がすでに出ているため、一度手に入れたら苦労なく食べられます。
しかしウニやアワビは近年、漁業活動や海洋開発などで個体数が減少しつつあります。
そこでラッコたちはカニやハマグリ、ムール貝、巻貝といった他の餌も積極的に食べなければならなくなりました。
ところがこれらの餌はウニやアワビより殻がずっと硬く、無理に歯でこじ開けようとすると損傷する危険性があります。
そのため、ラッコたちにとっては道具の使用がますます有益となるはずです。
しかしながら、この急速に変化する海洋環境において、ラッコがどのように道具を使用しているかはほとんど知られていませんでした。
そこで研究チームは今回、米カリフォルニア州のモントレー湾に生息するラッコ196匹に無線タグを装着して、道具使用の実態を明らかにしようと考えました。
調査ではラッコが使った道具や食べた餌の種類に加え、歯の磨耗具合についても調べています。
その結果、道具を使用するラッコは道具を使わないラッコに比べて、カニやハマグリなど硬い殻を持つ種を含め、摂取する餌の多様性が高いことがわかりました。
また使用した道具としては石が最も多くみられましたが、他に貝殻や海洋ゴミ、ときにはボートの側壁を使うこともあったようです。
しかし予想外だったのは、道具を使うラッコがオスよりもメスの方が圧倒的に多かったことでした。
記録された道具使用の大半がメスであり、道具をよく使ったメスは道具を使わなかったオスに比べて、最大35%も硬い殻を持つ餌を摂取していました。
ラッコと言えばお腹の上で貝を割る姿が有名ですが、実際はメスばかりが道具を使っているというのはなぜなのでしょうか?
その理由について研究主任のクリス・ロー(Chris Law)氏は「メスのラッコは一般的にオスより頭が小さくて噛む力が弱い」と指摘。
それを踏まえると「この難点を克服するためにメスは道具をより頻繁に使用した可能性が高い」と説明しました。
これはメスのラッコが自らの歯を守る上でも有用です。
その証拠に、最も頻繁に道具を使ったメスは道具を使わないラッコたちに比べて、歯の損傷が少ないことが観察されています。
さらにメスのラッコは出産や子育てをするために多くのエネルギーが必要です。
そこでメスたちは道具を積極的に使用し、多種多様な栄養源を摂取することで効率的にエネルギーを補給していたのでしょう。
これまで、ラッコの道具使用については性差がないと考えられてきましたが、エネルギー補給においては意外にもメスの方が賢く立ち回っているのかもしれません。
参考文献
Sea otters use tools when feeding to survive a changing world
https://news.ucsc.edu/2024/05/sea-otters-tools.html
Female sea otters use tools more than males
https://www.popsci.com/environment/sea-otters-tools/
元論文
Tool use increases mechanical foraging success and tooth health in southern sea otters (Enhydra lutris nereis)
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj6608
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部