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現在、NASAの科学者たちは、FLOAT(Flexible Levitation on a Track)と呼ばれる輸送システムのプロジェクトを進めています。
このFLOATの興味深い部分は、レールが固定されない点にあります。
NASAによると、レールを固定せず、月の表面に直接敷設することで、月面での工事が最小限で済むというメリットがあるようです。
またこのレールは3層から成り立っており、コンセプトイメージを見ると、フィルムのように柔らかく、従来の線路とは大きく異なっているのが分かります。
そしてレールの1つの層には、グラファイト(炭素の結晶型)が追加されており、この上をロボットが浮上しながら移動するのだとか。
グラファイトには、反磁性(磁場をかけると反対方向に磁化され、反発する性質)があります。
例えば、鉛筆やシャープペンシルの芯の主成分はグラファイトであり、磁石を近づけると反磁性により逃げることでよく知られています。
グラファイトの塊を用いて磁石を浮かせることも可能です。
FLOATでもこの反磁性を利用しており、反磁性体を含むレールの上を磁気ロボットが浮上するのです。
また2つ目の層は、曲げたり変形させたりできる「フレックス回路」でできており、電流と磁場を利用してロボットを加速させることができます。
さらに3つ目の層は、ソーラーパネルとなっており、太陽光によってエネルギーを生成します。
この層が電力を供給するため、FLOATは外部エネルギーを必要とせず、過酷な月面でも継続的に稼働させられるようです。
加えて過酷な月面では、浮遊することがメリットとなります。
FLOATのレール上を浮いて走るロボットには、当然ながら車輪や足が存在せず、月面の塵による摩耗を最小限に抑えてくれるでしょう。
研究チームは、FLOATによって1日あたり100トンもの貨物を数キロメートル移動させられると見積もっています。
ちなみにFLOATは、NASAの革新的先進概念(NIAC)プログラムに含まれます。
NIACにはフェーズⅠ~Ⅲまでの3段階あり、FLOATはフェーズⅡに移行することができたわずか6つのプロジェクトうちの1つです。
FLOATプロジェクトにおけるフェーズⅡでは、プロジェクト継続のために60万ドル(約9300万円)が支給されており、月に類似した環境でテストするための縮小版FLOATの設計と製造が実施される予定です。
また月面の環境(温度、放射線、月面の塵など)がレールやロボットに及ぼす影響なども考慮されます。
この斬新なプロジェクトがどのように実現していくのか、今後の進展に期待したいところです。
NASAによると、2030年代にはFLOATが月面における重要なインフラとなる可能性もあるようです。
もしかしたら10年以内に月面に特殊なレールが敷かれ、その上を浮遊ロボットが走っているかもしれないのです。
参考文献
Flexible Levitation on a Track (FLOAT)
https://www.nasa.gov/directorates/stmd/niac/niac-studies/flexible-levitation-on-a-track-float/
The First Railway On The Moon Might Happen Next Decade
https://www.iflscience.com/the-first-railway-on-the-moon-might-happen-next-decade-74073
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。