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そして今回、NASAとESAを中心とする研究チームは、2021年12月25日に打ち上げられた赤外線観測用の「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」を使って、馬頭星雲を新たに撮影することにしました。
使用されたのはJWSTに搭載されている「中赤外線観測装置(MIRI)」と「近赤外線カメラ(NIRCam)」です。
チームは計23個のフィルターを組み合わせることで、直径20ナノメートル未満というごく微細な粒子からの発光も捉えることに成功し、これまでにない驚異的な解像度を達成しました。
特に今回の撮影でターゲットとしたのは、馬の頭の右上に当たる部分です。
こうして撮影されたのが以下の画像です。
馬の頭にズームインすることで、従来では見られなかった星雲の微細な構造や巻きひげのような形、それから細くたなびくフィラメント構造まで捉えられました。
これらはどれも馬頭星雲の中では初めて確認された構造です。
また、馬頭星雲は天文学的に見ると、「光解離領域(Photodissociation region:PDR)」に属するものとして知られています。
これは星間空間において、ある恒星からの強力な紫外線放射により、星間物質(分子状の塵やガスなど)から電子が弾き出され、通常とは異なる化学反応を起こしている領域を指します。
この光解離領域では塵やガスが混ざり合った非常に高温な状態になっています。
こうした光解離領域(PDR)は、新しい星が誕生する場所でよく見られるため、馬頭星雲の観察は恒星の形成プロセスを調べたり、あるいは星間物質が光の影響でどのように性質を変えるかを理解する上で、非常に重要なのです。
研究チームは今回の観測結果に関して、「まだほんの始まりに過ぎない」と話しています。
次なるステップとしてチームは、馬頭星雲から放出される光を詳細に分析し、塵とガスの化学的な組成や、光の散乱の仕方に基づいて塵の大きさやガスの流れを解明していく予定だと話しました。
こちらは馬頭星雲にズームインしていく様子を映像で再現したものです。
この映像を見ると、馬頭星雲の周りの様子や今回の撮影でどこにアプローチしたのかがよく分かります。
(※ 音量にご注意ください)
参考文献
JWST Captures Features of The Horsehead Nebula in Stunning Detail
https://www.sciencealert.com/jwst-captures-features-of-the-horsehead-nebula-in-stunning-detail
Webb captures iconic Horsehead Nebula in unprecedented detail
https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/Webb/Webb_captures_iconic_Horsehead_Nebula_in_unprecedented_detail
元論文
JWST observations of the Horsehead photon-dominated region I. First results from multi-band near- and mid-infrared imaging
https://doi.org/10.48550/arXiv.2404.15816
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。