- 週間ランキング
2008年、アルゼンチンのミシオネス州の運河近くで、警察官たちが8匹のヤマネコに囲まれた1歳の男児を発見しました。
なんと「ヤマネコたちが男児の体をなめてあげていた」というのです。
また自らが毛布のようになり、男児の上に乗って暖めてあげていました。
そして警察官たちが近づくと、ヤマネコたちは男児を守るかのように、攻撃的な姿勢を見せました。
さらに驚くことに、ヤマネコたちは男児のために残飯を持ってきてあげていたようです。
これは冬のエピソードであり、医師によると、「ヤマネコが男児を暖めてあげなければ、寒さでとっくに死んでいただろう」とのこと。
ちなみに、この男児は、ホームレスの父親がダンボール集めをしている最中にはぐれてしまったようです。
男児は、数日間ヤマネコと一緒に過ごした後、警察官の手を経て、無事父親と再会できました。
「野生児のエピソード」というほど過酷なものではなく、男児が受けた影響も大きくないでしょう。
だからこそ、父親が再び子供から目を離さないことを願うばかりです。
ディナ・サニチャー氏は、オオカミに育てられたインドの野生児です。
1872年、インドのウッタル・プラデーシュ州にあるジャングルの洞窟で、ハンターのグループは、オオカミの群れに混じっている6歳くらいの男児を発見しました。
ハンターたちは、この男児を救うため、洞窟内のオオカミを撃ち殺しました。
そして救出された男児は、ウッタル・プラデーシュ州の都市アーグラにある孤児院に連れていかれ、ディナ・サニチャーと名付けられました。
サニチャー氏は当初、「オオカミのように四つん這いで歩き、生肉を食べていた」と報告されています。
そして彼は20年以上人間社会で暮らし続けましたが、言語を話すことはなく、代わりに動物の鳴き声のような声を上げたという。
また人々の教育によって、二足歩行したり、服を着たり、カップと皿を使って食事したりすることも可能になりました。
しかし、それにもかかわらず、彼は四足歩行の方が上手で、裸を好み、食べる前にはニオイを嗅ぎ、肉を好んでいたようです。
サニチャー氏が人間の習慣の中で唯一好んだのは喫煙であり、ヘビースモーカーだったと言われています。
そんな彼は結核のため約34歳で亡くなりました。
サニチャー氏がどのような経緯でオオカミたちと過ごすようになったのかは分かりませんが、6歳までのその生活が彼を完全に野生児にしてしまいました。
サニチャー氏にとってオオカミたちに保護されたことは幸運だったのか、またその後、人間たちに保護されて連れてこられたことは幸運だったのか、野生動物のように過ごすことを望む彼の姿からそれを判断するのは簡単ではありません。
マリーナ・チャップマン氏は、5歳から10歳までサルに育てられたイギリス人女性です。
大人になった彼女は、現在イギリスに住んでおり、その様子からすると、とても野生児だったとは思えません。
しかし、彼女自身が語ることによると、壮絶な人生を歩んできたようです。
チャップマン氏は5歳の時に、おそらく身代金目的で誘拐されましたが、家に戻されることはなく、そのままコロンビアのジャングルに置き去りにされたのです。
そこで彼女は、幸運にもオマキザルの集団に迎え入れられました。
当初、チャップマン氏は木に登ることもできず、サルの方も彼女に興味を示すことはなかったようです。
しかし、一匹のサルが近づいてきたことをきっかけに、徐々にサルたちの一員になっていきました。
彼女はサルたちの真似をし、グルーミングしたり、四足歩行したり、サルのような鳴き声を発したりしました。
彼女はサルたちと同じように木の上で生活するようになり、ナッツや虫などを食べたようです。
ちなみに、チャップマン氏と共に過ごしたオマキザルは、道具を使うことができる賢いサルであり、表情も豊かでコミュニケーション機構が発達していることで知られています。
そんなサルだからこそ、チャップマン氏とサルたちは互いを受け入れて共に過ごすことができたのかもしれません。
そして10歳の時、チャップマン氏はハンターに見つかり、人間社会へと引き戻されました。
それでも売春宿や路上、ギャングの家での生活を転々としており、決して幸せな生活ではありませんでした。
しかし今では、いくつかの幸運が重なり、結婚して家族を築いています。
そんな彼女は、自身の経験を本にして出版しており、彼女を取材したドキュメンタリー番組なども発表されました。
ただし、多くの人々は彼女の話の真実性を疑っており、一部の研究者は、彼女が誤った記憶を述べてしまう「過誤記憶」ではないかと考えています。
一方、彼女の足の骨のX線写真によって、6歳から10歳ごろの間にひどい栄養失調だったことが分かっており、彼女の主張を補強するものとなっています。
彼女の主張がどこまで真実かを知るすべはありませんが、仮に事実だとすれば、野生児が幸せな将来をつかみ取った稀な例だと言えます。
ここまでで、動物の世話を受けた子供たちについて紹介してきました。
そしてこれら以外にも、多くの野生児のエピソードが存在しています。
それらの現実は、SNSで見かける「人間社会の中で見られる動物と子供の友情・愛」とは大きくかけ離れたものです。
連れ戻された野生児は、往々にして人間社会に溶け込むことが難しく、なんとも言えない結果になります。
もし、しばらく動物の世話を受けながら、問題なく人間社会に戻ることができた子供がいるなら、それは本当に稀で幸運なことなのです。
参考文献
Feral Children: Mind-Blowing Cases of Children Raised by Animals
https://www.zmescience.com/feature-post/culture/bizarre-stories/feral-children/
元論文
Feral children: Questioning the human-animal boundary from an anthropological perspective
http://dx.doi.org/10.13140/RG.2.2.19691.59682
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。