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結果の概要を、順を追ってみていきましょう。
年齢に関わらず、男性は女性よりシュガーリレーションシップを受け入れやすいことがわかりました。これは、伝統的な「男性が資源を提供し、女性がその資源の提供を基に男性を選ぶ」という力関係が、恋愛関係の好みにも影響する可能性を示しています。
いわゆる「カジュアルセックス」に前向きな人は、この関係を受け入れる傾向が強いこともわかりました。こうした人は、シュガーリレーションシップがカジュアルセックスの一形態と見なし、すでに受け入れている性的関係の範疇に含めているようです。
ナルシストやサイコパス、マキャベリスト(他人を利用することに長けている人)なども、こうした関係に前向きでした。
これら性格特性を持つ人々は、人間関係を「何かを得るためのもの」と捉える傾向があります。これは、シュガーリレーションシップという関係形態と合致すると考えられます。
集団主義的な社会では、シュガーリレーションシップへの受け入れが低い傾向にあります。社会の調和を重視し、非伝統的な関係を好まない文化的価値観が影響するようです。
性別不平等が大きく、社会福祉レベルが低い地域では、シュガーリレーションシップへの受け入れが高いこともわかりました。経済的圧力やジェンダーの力関係が、人々を援助交際に向かわせている可能性がありそうです。
一方で、貧困や経済的に遅れのあることが、直接的に援助交際に向かわせるわけでもなさそうです。研究では、「人間開発指数(国民ひとりあたりの所得や教育、平均寿命をもとに算出したその国の暮らしの豊かさ)」が高い国ほど、この関係性にオープンであることがわかりました。
つまり豊かな国ほど援助交際が社会の中で成立しやすくなると言えるのです。
この結果について研究者らは、「経済的必要性ではなく、より良い生活を求める欲求が、こうした関係の選択に関与している可能性がある」と分析しています。
なお、日本の人間開発指数(HDI: Human Development Index)は2021年の国連開発計画報告書によると世界(191か国)で19位でした。
今回の研究報告では、援助交際の受け入れやすさについて性格特性や経済状況とは別に、まったく関連性を感じない変わった条件があることも明らかになりました。
それが「寄生虫や病原体のストレスレベルが高いほど、シュガーリレーションシップを受け入れやすくなる」という結果です。
これは、寄生虫や病原体の蔓延する国や地域では、人々がお金や支援を得るための交際への抵抗が低くなることを示すものです。
個人レベルでも、「頻繁に感染する人」ほど、シュガーリレーションシップに対してより開放的である傾向がみられました。
この結果だけをみると、「寄生虫に感染すると、性的にオープンになっちゃうの?」と頭にハテナが浮かんでしまうかもしれませんね。
実際、「米国版2ちゃんねる」とも呼ばれるRedditには、「飼い猫にトキソプラズマ症を移された人たちが、金持ちのおっさんを探し回る姿を想像してしまう…」「寄生虫だらけの国の人々は、病気にかかるリスクを複数のパートナーに分散させているんだ」など、誤解コメントが並んでいます。
しかし、寄生虫が人を操るわけでも、人がリスク分散に走るわけでもなく、「感染症への不安が態度形成に影響し、結果として援助の関係にオープンになる」ということのようです。
これは、最近登場した「パラサイトストレス理論(Parasite-Stress Theory)」とも一致します。
パラサイトストレス理論とは、「寄生虫や病原体の脅威の高さが、その地域の文化や社会形成に影響する」という考え方です。
この考え方に従うと、寄生虫などへの感染リスクが高い地域では、人々は伝染の悪影響からお互いを守るために集団主義傾向が強くなります。これにより伝統的な性別役割を重視する傾向も強まります。
本研究の文脈では、「人々が健康への不安を軽減し、生存に必要な資源を確保するための戦略としてシュガーリレーションシップを受け入れやすくなる」と解釈できるというわけです。
日本も集団主義的な傾向が強く、また援助交際が幅広く社会で受け入れられている印象があります。
なぜ日本で援助交際が流行るのかという疑問について、今回の研究は一つの可能性を示しているかもしれません。
シュガーリレーションシップが一見魅力的に見える背後には、根深い不安が存在する可能性もあります。このような関係への態度は、個人の性格だけでなく、その人が置かれている状況から生じる心理状態によっても影響される点は、理解しておきたいところです。
研究者らは、とくに若者に対して、シュガーリレーションシップによって搾取的な関係に巻き込まれるリスクがあると警鐘を鳴らしています。
「こうした交際は、若者が経済的に自立する手段ではなく、被害者になるリスクが高いものだ」と強調しています。
参考文献
Psychological predictors of openness to sugar dating: Massive global study reveals key insights
https://www.psypost.org/psychological-predictors-of-openness-to-sugar-dating-massive-global-study-reveals-key-insights/
元論文
Exploring Attitudes Toward “Sugar Relationships” Across 87 Countries: A Global Perspective on Exchanges of Resources for Sex and Companionship | Archives of Sexual Behavior
https://link.springer.com/article/10.1007/s10508-023-02724-1
ライター
鶴屋蛙芽: (つるやかめ)大学院では組織行動論を専攻しました。心理学、動物、脳科学、そして生活に関することを科学的に解き明かしていく学問に、広く興味を持っています。情報を楽しく、わかりやすく、正確に伝えます。趣味は外国語学習、編み物、ヨガ、お散歩。犬が好き。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。