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「コストが安い」「短期間で建設できる」などのメリットから、3Dプリンター住宅を建ててみたいと考える人もいることでしょう。
そんな中、スイスのムレグンズ(Mulegns)にて、「世界で最も高い3Dプリントタワー」が建設中です。
高さ30mの「白い塔」は、合計900時間で印刷できると言われており、2024年6月にはオープンする予定です。
この新しいタワーは、3Dプリンター住宅の可能性を見極めるのに役立つことでしょう。
目次
現在、「世界で最も高い3Dプリントの建物」として注目されているのは、「トール・アルヴァ」という名前の白い塔です。
この印刷プロジェクトは、スイスにある小さな村「ムレグンズ(Mulegns)」にて現在進行中です。
トール・アルヴァは、5つのフロアを備えたタワーであり、各フロアは3Dプリントされた32本の芸術的な柱で支えられます。
タワーは直径6~8m、高さ30mであり、これほど高い3Dプリントの建物は、これまでに存在していません。
そして最上階の劇場ドームには、45人の来場者を収容できる座席とステージがあり、小規模なコンサートや劇場公演のために使用されます。
真っ白な外見、独特なデザインの柱、中央の螺旋階段などが、トール・アルヴァを神秘的に見せています。
夜には内部が明るく輝くようになっており、完成するならムレグンズ村のシンボルタワーとして機能することでしょう。
「3Dプリントタワー」であるトール・アルヴァは、どのように建設されるのでしょうか。
トール・アルヴァは、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)が開発したロボット3Dプリンターの「コンクリートの押出プロセス」によって、部品ごとに印刷します。
映像では、ロボット3Dプリンターのノズルが、柔らかいコンクリートの層を次々と重ねています。
材料はすぐに硬化していくため、層が高く積み重なっても崩れてしまうことはありません。
この方法には、従来のコンクリート建設とは異なり、型枠が必要ないというメリットがあります。
型枠を作る必要がないため、建築物のデザインデータをすぐに印刷したり、オーダーメイドの形状を容易に作ったりすることが可能です。
また型枠を使わないことで材料のロスもなくなるため、材料の使用量が大幅に削減されるのだとか。
加えてこのトール・アルヴァでは、水平方向と垂直方向の両方に鉄筋が挿入されて補強されるようです。
世界で最も高い3Dプリントタワーで気になるのは、やはり3Dプリントにおけるメリットです。
まずメリットの1つである工期は、トール・アルヴァの場合、すべての印刷に900時間かかると予想されています。
1日8時間稼働させた場合、約113日で印刷し終えることになりますね。
部品を組み合わせるためにさらに時間がかかる可能性もありますが、それでも従来の建設方法と比べると、短期間で建設できることになります。
通常30mの建物(オフィスビルで7~8階建て)の工期は、1年かそれ以上になることもあります。
もちろん、部品から作成する「デザイン性を求めたタワー」と「通常のビル」では、分野が大きく異なります。
それでも、新しいタワーにおいて、「工期か短い」という3Dプリントのメリットは十分に反映されていると言えます。
一方で、耐久性については、今回のプロジェクトでは多くのことは分からないでしょう。
トール・アルヴァは2024年6月にはオープンする予定ですが、5年後の2029年には解体されるからです。
また、仮にトール・アルヴァが5年間の使用に耐えたとしても、同じものが日本で活用できるとは限りません。
なぜなら災害が多い日本では、世界の中でも建築基準法が非常に厳しく、それをクリアしなければ3Dプリンター住宅が建つことはないからです。
仮に日本でトール・アルヴァのような3Dプリントタワーが建設されるとしても、それはかなり先のことになるでしょう。
そうした事情も考えると、5年以内にスイスに行く機会があるなら、「世界で最も高い3Dプリントタワー」は今だけの珍しい建築物として訪れる価値があるかもしれません。
参考文献
World’s tallest 3D-printed building will take 900 hours to layer up
https://newatlas.com/architecture/white-tower-3d-printed-eth-zurich/
TOR ALVA
https://dbt.arch.ethz.ch/project/tor-alva/
Tor Alva
https://www.tor-alva.ch/en/
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。