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殻として最も多く選ばれていたのは飲料用ボトルのキャップを代表とするプラスチック製のゴミで、全体の84.5%を占めています。
次いで金属とガラスのゴミがそれぞれ5.4%、電球の破片のような金属とガラスを組み合わせたゴミが4.7%でした。
また調査対象として確認された熱帯地域に分布する16種類の陸生ヤドカリのうち、多くを占める10種類で人工物を殻にしているヤドカリが確認されたことから、この現象は世界規模で起こっている可能性が高いと研究者は結論づけました。
ヤドカリは他の多くの甲殻類とは違い、全身が硬い外骨格に覆われているわけではありません。
特に腹部はとても柔らかく、天敵からの攻撃に対して脆弱であるため、手頃な貝殻を見つけると腹部を覆うようにして装着します。
この殻は腹部の保護だけでなく、体液の蒸発を防いだり、乾燥から身を守る役割も果たします。
そして体が成長して大きくなるごとに古い殻を脱ぎ捨てて、新しい殻に引越ししなければなりません。
その新たな引越し先として今や、人工物のゴミが世界的なトレンドとなりつつあるようです。
研究主任のマルタ・ズルキン(Marta Szulkin)氏は「最初にこれらの写真を見たときは胸が張り裂けそうでした」と述べつつも、「同時に地球の生態系はこれまでとは異なる時代に突入しており、ヤドカリたちは目の前にあって利用できるものを利用しているのでしょう」と話しました。
では、ヤドカリたちが人工物のごみを殻にするメリットはどこにあるのでしょうか?
研究者らはヤドカリが人工物を殻に選んでいる理由として、いくつかの要因を挙げています。
まず1つは、最も人気の高いプラスチック製のゴミは頑丈な上に自然の貝殻よりも軽いため、より実用性に優れている可能性が高いことです。
もう1つはゴミで汚染された環境下ではもはや、自然の殻よりもゴミを身につける方がカモフラージュに有利であることです。
ゴミだらけの場所ではゴミに隠れている方が天敵に見つかりにくくなると予想されます。
これに加えて、殻としての目新しさも関係している可能性があるという。
身につけている殻の形状や色調は異性へのアピールにも貢献するため、ライバルを出し抜くためにも色鮮やかだったり、奇妙な形の人工物を殻にしているとも考えられるそうです。
一方で、これらの仮説が正しいかどうかは今後の追加調査が必要になります。
さらにチームは、人工物の殻がヤドカリの健康や生態に何らかの害を与えているのか、それともまったく無害で利益しかないのかどうかも明らかにしていく予定です。
21世紀の現代は、人類の活動が地球の地質や生態系に大きな影響を与えている「人新世(Anthropocene)」に突入していると言われます。
人新世においてはヤドカリだけでなく、昆虫や海洋生物など、さまざまな生き物が人工物の多大な影響を受けながら暮らしています。
最近では、ブラジル沖の孤島でプラスチックを取り込んだ新種の岩石「プラスチストーン(plastistones)」が誕生していることも報じられました。
専門家によると、環境中に投棄されたゴミは陸海を問わず年々急増しており、もはや影響を受けていない場所はなくなりつつあります。
こうした人工物汚染の中で、生態の変化を余儀なくされる生き物は今後も増えていくでしょう。
プラごみを自宅にするヤドカリはまだ氷山の一角にすぎないかもしれません。
参考文献
Hermit Crabs Around The World Turn To Plastic Trash To Use As Shells
https://www.iflscience.com/hermit-crabs-around-the-world-turn-to-plastic-trash-to-use-as-shells-72648
Hermit crabs are ‘wearing’our plastic rubbish
https://www.bbc.com/news/science-environment-68071695
元論文
The plastic homes of hermit crabs in the Anthropocene
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969723075885
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。