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ブルーギル(学名:Lepomis macrochirus)は、北アメリカ大陸原産の淡水魚であり、世界的に最も分布拡大している侵略的外来種の一種です。
日本でも在来種に深刻な影響を与えており、特定外来生物として輸入、放出、飼養などが規制されています。
必要に応じて、国や自治体が駆除を行うこともあるようです。
またブルーギルと言えば、初心者でも簡単に釣ることのできる魚として有名であり、ルアー釣りやエサ釣りを楽しんだことのある人もいるはずです。
ただし、侵略的外来種であることから、釣り上げた際はリリース(再放流)しないことが推奨されています。
実際、琵琶湖などではリリースが禁止されており、付近には「外来魚回収ボックス・いけす」が設置されているのだとか。
侵略的外来種の駆除という観点で、釣りも「個人が行える外来種駆除である」という考え方もあるようです。
とはいえ、こうした規制や取り組みがあるにもかかわらず、ブルーギルの存在は、依然として、日本の在来種にとって脅威となっています。
では、日本だけでなく世界中の淡水生態系を劣化させているブルーギルが、そこまで強い定着力を持っているのはどうしてでしょうか?
ピーターソン氏ら研究チームは、2022年の夏に、長野県北部の野尻湖でブルーギルの繁殖生態を調査しました。
ブルーギルのオスは、巣の周辺を周回したり、捕食者を追い払ったりして、卵を保護することで知られています。
また尾ビレを振って卵に新鮮な水を送ったり(酸素の供給)、その水流で卵に付着したごみを取り除いたりして、甲斐甲斐しく世話するようです。
そこで今回行われた調査では、水中ビデオを用いて、このようなオスの保護行動を分析しました。
また、その保護オスを除去することで、守られていたブルーギルの卵がどのような影響を受けるかも調べました。
調査の結果、ブルーギルは6月から7月にかけて、湖沿岸の浅い場所で産卵し、巣の多くは集合コロニーの中に作られることが分かりました。
ただし、他の巣から遠く離れた「単独巣」も少ないわけではなく、全体の35%を占めていました。
また今回の調査でも、オスによる「尾ビレで水流を送る行動」「巣の周辺の周回」「捕食者を追い払う」などの保護行動が確認できました。
そしてこの保護オスを除去した後に30分間観察したところ、卵捕食者として4種105個体が確認されました。
しかし、その93.3%は同種のブルーギルであり、他種による卵捕食は極めて少ないことが明らかになりました。
現在の野尻湖において、ブルーギルの最大の敵はブルーギルであり、潜在的な在来捕食者は少ないのです。
一方で、近隣に別の保護オスがいるコロニー内の巣では、保護オスが除去されても卵捕食を受ける割合が低く、捕食者が卵に到着するまでの時間も長くなることが分かりました。
つまり、ブルーギルのオスは、同じコロニーの仲間同士で互いの巣の警備を行っており、これが卵を効果的に守ることに繋がっていたのです。
しかも、それらのオスが積極的に警備していた巣では、仮にオスたちが除去された後でも、卵が捕食される割合が少ないことも分かりました。
普段からスキのない巣には、捕食者たちにも近づきにくかったのでしょう。
今回の調査結果は、ブルーギルのコロニー産卵と仲間同士の保護行動が、侵入先での高い定着力に繋がっていることを示唆しています。
そうした繁殖特性を考慮すると、釣りなどによる個人レベルの駆除では、効果が薄い可能性があります。
ブルーギルの個体数を低減させるには、コロニーすべてを対象とした「大規模な駆除」が必要なのかもしれません。
参考文献
外来魚ブルーギルは互いに巣を守り卵捕食を避けることで繁殖を広げる
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20240116140000.html
元論文
Male guarding behavior and brood predators of invasive Bluegill in a Japanese lake
https://afspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/nafm.10976
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。