ブルーギルなどの侵略的外来生物は、地域の在来種に悪影響を与える厄介な存在です。

1960年に初めて日本に持ち込まれたブルーギルは、その高い繁殖力と定着力により、今や日本全国の淡水域で見られるようになりました。

そのため、「池の水を抜いて危険な外来種を一気に駆除する」方法が取られることもあります。

では、外来魚でありながらブルーギルがそこまで高い定着力を持つ理由は何なのでしょうか?

筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所に所属するピーターソン・マイルズ・イサオ氏ら研究チームは、長野県の野尻湖に生息するブルーギルの繁殖生態を調査しました。

その結果、仲間同士が隣接した場所に巣を作り、その周りを警備することで、卵の捕食を回避していることが分かりました。

研究の詳細は、2024年1月12日付の学術誌『North American Journal of Fisheries Management』に掲載されています。

目次

  • 侵略的外来種「ブルーギル」
  • ブルーギルのオスは仲間同士で巣を警備する

侵略的外来種「ブルーギル」

ブルーギル / Credit:Wikipedia Commons_ブルーギル

ブルーギル(学名:Lepomis macrochirus)は、北アメリカ大陸原産の淡水魚であり、世界的に最も分布拡大している侵略的外来種の一種です。

日本でも在来種に深刻な影響を与えており、特定外来生物として輸入、放出、飼養などが規制されています。

必要に応じて、国や自治体が駆除を行うこともあるようです。

またブルーギルと言えば、初心者でも簡単に釣ることのできる魚として有名であり、ルアー釣りやエサ釣りを楽しんだことのある人もいるはずです。

ただし、侵略的外来種であることから、釣り上げた際はリリース(再放流)しないことが推奨されています。

ブルーギル釣り / Credit:Canva

実際、琵琶湖などではリリースが禁止されており、付近には「外来魚回収ボックス・いけす」が設置されているのだとか。

侵略的外来種の駆除という観点で、釣りも「個人が行える外来種駆除である」という考え方もあるようです。

とはいえ、こうした規制や取り組みがあるにもかかわらず、ブルーギルの存在は、依然として、日本の在来種にとって脅威となっています。

では、日本だけでなく世界中の淡水生態系を劣化させているブルーギルが、そこまで強い定着力を持っているのはどうしてでしょうか?

ピーターソン氏ら研究チームは、2022年の夏に、長野県北部の野尻湖でブルーギルの繁殖生態を調査しました。

ブルーギルのオスは仲間同士で巣を警備する

ブルーギルのオスは、巣の周辺を周回したり、捕食者を追い払ったりして、卵を保護することで知られています。

また尾ビレを振って卵に新鮮な水を送ったり(酸素の供給)、その水流で卵に付着したごみを取り除いたりして、甲斐甲斐しく世話するようです。

そこで今回行われた調査では、水中ビデオを用いて、このようなオスの保護行動を分析しました。

また、その保護オスを除去することで、守られていたブルーギルの卵がどのような影響を受けるかも調べました。

ブルーギルのオスのネスト保護行動と卵捕食者:(a) 巣の周囲の旋回、(b) 尾で水流を送る行動、(c) 卵捕食者(コクチバス)から巣を防衛する行動、(d) 小型ブルーギルによる卵捕食。 / Credit:Miles I. Peterson(筑波大学)_外来魚ブルーギルは互いに巣を守り卵捕食を避けることで繁殖を広げる(2024)

調査の結果、ブルーギルは6月から7月にかけて、湖沿岸の浅い場所で産卵し、巣の多くは集合コロニーの中に作られることが分かりました。

ただし、他の巣から遠く離れた「単独巣」も少ないわけではなく、全体の35%を占めていました。

また今回の調査でも、オスによる「尾ビレで水流を送る行動」「巣の周辺の周回」「捕食者を追い払う」などの保護行動が確認できました。

そしてこの保護オスを除去した後に30分間観察したところ、卵捕食者として4種105個体が確認されました。

(左図)オスが保護中に追い払った卵捕食者の割合、(右図)保護オス除去後に巣を訪れた卵捕食者の割合。 (Bluegill:ブルーギル、SMB:コクチバス、LMB:オオクチバス、Dace:ウグイ、Carp:コイ) / Credit:Miles I. Peterson(筑波大学)_外来魚ブルーギルは互いに巣を守り卵捕食を避けることで繁殖を広げる(2024)

しかし、その93.3%は同種のブルーギルであり、他種による卵捕食は極めて少ないことが明らかになりました。

現在の野尻湖において、ブルーギルの最大の敵はブルーギルであり、潜在的な在来捕食者は少ないのです。

一方で、近隣に別の保護オスがいるコロニー内の巣では、保護オスが除去されても卵捕食を受ける割合が低く、捕食者が卵に到着するまでの時間も長くなることが分かりました。

つまり、ブルーギルのオスは、同じコロニーの仲間同士で互いの巣の警備を行っており、これが卵を効果的に守ることに繋がっていたのです。

しかも、それらのオスが積極的に警備していた巣では、仮にオスたちが除去された後でも、卵が捕食される割合が少ないことも分かりました。

普段からスキのない巣には、捕食者たちにも近づきにくかったのでしょう。

今回の調査結果は、ブルーギルのコロニー産卵と仲間同士の保護行動が、侵入先での高い定着力に繋がっていることを示唆しています。

そうした繁殖特性を考慮すると、釣りなどによる個人レベルの駆除では、効果が薄い可能性があります。

ブルーギルの個体数を低減させるには、コロニーすべてを対象とした「大規模な駆除」が必要なのかもしれません。

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参考文献

外来魚ブルーギルは互いに巣を守り卵捕食を避けることで繁殖を広げる
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20240116140000.html

元論文

Male guarding behavior and brood predators of invasive Bluegill in a Japanese lake
https://afspubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/nafm.10976

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 外来魚ブルーギルが増えやすい理由「仲間同士で巣を警備し卵を守っていた」