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その一方で、渡り鳥のように空を飛べないペンギンたちが、どのようにこれほどの長距離を移動しているのかがよく分かっていませんでした。
泳ぎが上手いといっても、すべての移動工程を泳ぎで賄うのはエネルギー的に不可能です。
そこで研究チームは、南極海のひとつであり、太平洋に向かって開けた「ロス海(Ross Sea)」に生息するアデリーペンギンのコロニーを対象に調査しました。
チームは1996年以来、ロス海に暮らすコロニーの大規模調査を続けています。
今回は87羽のペンギンに小型のトラッキング装置を付けて、3年間にわたる計146回の季節移動を追跡しました。
さらにこのデータと合わせて、南極周辺の流氷の動きを遠隔で記録した衛星データも用いています。
その結果、アデリーペンギンたちは冬期移動にあたって流氷の北上を有効活用していることが分かりました。
ペンギンたちは4月〜10月にかけて平均1万1318キロを移動しており、移動の平均速度は西側のコロニーが0.71 m/s、東側のコロニーが0.76 m/sとなっています(人の歩行速度は平均1m/s)。
ペンギンたちは6〜8月の冬時期になると北へ移動していました。
そしてこのとき、流氷に乗ったペンギンほど、よりスピーディーかつ遠距離への北上に成功していることが確認されたのです。
流氷の動きは明らかにペンギンたちの長距離移動をサポートしていました。
その一方で、徐々に暖かくなる9〜10月頃になるとペンギンは南下を始めますが、このとき、多くペンギンが北上する流氷に逆らうため、移動速度が遅くなる傾向が見られています。
ただ、ロス海には時計回りに循環する海流があり、太平洋側へと北上する流れとは別に、繁殖地へと南下する流れを利用して、ペンギンたちが帰還を容易にしていることも示されました。
以上の結果から、アデリーペンギンたちは北上する流氷を一種のボート代わりに使うことで、冬時期の長距離移動を可能にしていることが分かりました。
この知見はアデリーペンギンの冬の生態を理解するだけでなく、今後の保全活動にも役立つと思われます。
というのも過去10年間は温暖化の影響により、ロス海の流氷のサイズや範囲が記録的に低くなっているためです。
もしこのまま流氷が失くなり続ければ、アデリーペンギンの冬期移動が困難になり、種の存続や繁栄も危機的状況に陥ると懸念されます。
アデリーペンギンを守るには、彼らだけでなく、彼らが活用する南極の資源全体も考慮しなければならないでしょう。
参考文献
How Adélie Penguins Use Sea Ice to Optimize Their Migration Journeys?
https://perexpteamworks.com/en/adelie-penguins-sea-ice-optimize-journeys-news/
New Antarctic research shows that Adélie penguins must balance the benefits and costs of riding on sea ice during their long-distance migration
https://www.eurekalert.org/news-releases/1031096
Research shows Adélie penguins must balance the benefits and costs of riding on sea ice during long-distance migration
https://phys.org/news/2024-01-adlie-penguins-benefits-sea-ice.html
元論文
Going with the floe: Sea-ice movement affects distance and destination during Adélie penguin winter movements
https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ecy.4196
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
海沼 賢: 以前はKAIN名義で記事投稿をしていましたが、現在はナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。