氷河期には生息していた「巨大で体毛が豊富な動物」は、マンモスだけではありません。

サイの一種である「ケブカサイ(学名:Coelodonta antiquitatis)もまた似たような存在でした。

氷河期のケブカサイは、約1万年前に絶滅するまでユーラシア大陸を歩き回っていたと考えられています。

そして、これまでに入手できているケブカサイの情報はシベリアのケブカサイから得られたものに偏っており、ヨーロッパ地域に生息していたケブカサイのゲノムは得られていませんでした。

ところが今回、ドイツのコンスタンツ大学(University of Konstanz)に所属するピーター・シーバー氏ら研究チームは、当時ケブカサイを捕食していたホラアナハイエナ(学名:Crocuta crocuta spelaea)の化石化した糞から、ヨーロッパのケブカサイのゲノムを入手することに成功しました。

研究の詳細は、2023年11月1日付の科学誌『Biology Letters』に掲載されました。

目次

  • 氷河期に絶滅した毛深いサイ「ケブカサイ」
  • 「ハイエナのうんち」の化石から、ケブカサイのゲノムを組み立てることに成功

氷河期に絶滅した毛深いサイ「ケブカサイ」

Credit:Mauricio Antón(Wikipedia)_ケブカサイ

かつてユーラシア大陸に生息していたケブカサイは、サイの一種ですが、分厚くてフカフカした毛に覆われていました。

巨大な動物であり、頭胴長約4メートル、体重3~4トンだったと考えられています。

鼻づらには2本の角を持ち、年齢を重ねた個体は1m以上の角を有していることもあったのだとか。

約1万年前に氷河期が終わるまで存在していたと考えられており、分厚い毛皮や熱の損失を防ぐための小さな耳など、寒冷地に適応した特徴を持っていました。

そして、このケブカサイが絶滅した原因は、気候変動だったと推測されています。

「ケブカサイ」が絶滅した原因を解明。体毛により温暖化の暑さに耐えられなかったか

およそ1万4000年前に最終氷期(いわゆる氷河期)の寒冷期が終わり、温暖期に突入するころ、ケブカサイの個体数も急激に減少していったのです。

寒冷な環境に適応したケブカサイは、分厚い体毛がたたって、温暖化に耐えられなかったのでしょう。

同時期に絶滅したされたマンモスも、気候変動が原因だったと考えられています。

そしてサイもゾウも、今では毛のない(毛の少ない)種ばかりが残っていますね。

もちろん、氷河期が終わっても生き延びている動物も存在しており、オオカミなどはその例の1つです。

Credit:Mr Langlois10(Wikipedia)_Woolly rhinoceros

では、豊かな体毛を持つケブカサイやマンモスが温暖化に耐えられなかったのに、ライオンやハイエナなど豊かな体毛をもつ現代の動物が、アフリカなどの暑い地域でも耐えているのはどうしてでしょうか。

その理由の1つは、身体のサイズの違いだと考えられます。

身体が大きければ大きいほど体内で作られる熱も多くなるため、暑さへの適応が難しくなっていきます。

現代のサイやゾウの毛が薄いのはそのためです。

一方、そこまで大きくない動物たちは、毛があっても体温調整しやすいのです。

むしろ彼らには、柔らかい皮膚を紫外線や虫、様々な傷などから守るための毛が必要です。(ちなみにゾウやサイは堅い皮膚で防御力を高めています)

こうしたことも考えると、氷河期に適応していた巨大なケブカサイが、環境の変化に耐えられずに絶滅してしまったというのも納得できます。

そんなケブカサイのゲノムが、最近ユニークな方法によって取得されました。

「ハイエナのうんち」の化石から、ケブカサイのゲノムを組み立てることに成功

Credit:Didier Descouens(Wikipedia)_ケブカサイ

これまでの研究により、氷河期のケブカサイは、シベリアとヨーロッパに生息していたと考えられています。

しかし、入手可能なゲノム(DNAの文字列に表された遺伝情報のすべて)データは、もっぱらシベリアに生息していたケブカサイから得たものでした。

今回、シーバー氏ら研究チームは、ヨーロッパのケブカサイの情報を入手したいと考えました。

用いられた方法は、同じ時期に生息していた動物の糞を調べるというもの。

Credit:Post of Moldova(Wikipedia)_Cave hyena

ホラアナハイエナ(学名:Crocuta crocuta spelaea)は、ケブカサイを含む様々な大型動物を攻撃し、捕食することで知られています。

そこで研究チームは、ドイツの2つの洞窟で発見されたホラアナハイエナの「化石化した糞」を入手しました。

そしてその糞サンプルからケブカサイのDNAを分離し、ミトコンドリアゲノムを組み立てることに初めて成功しました。

このミトコンドリアゲノムは、細胞小器官「ミトコンドリア」内に見られる遺伝情報であり、祖先を追跡するのに役立つと考えられています。

Credit:P. A. Seeber(University of Konstanz)et al., Biology Letters(2023)

チームは、これを分析することで、「ヨーロッパのケブカサイとシベリアのケブカサイは約4万5000年前に共通の祖先から分かれた」と推測するに至りました。

最後に彼らは、「化石化した糞の研究の価値はこれまで見落とされてきており、古代生物を知るために有用である」と主張しています。

もしかしたら今後も、氷河期のケブカサイなどを含む様々な絶滅動物の情報が、それを捕食する他の動物の糞から得られていくのかもしれません。

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参考文献

Ancient hyena droppings reveal genome of Ice Age woolly rhino https://phys.org/news/2023-11-ancient-hyena-reveal-genome-ice.html Ice Age Woolly Rhino Genome Reconstructed From Fossilized Hyena Poop https://www.iflscience.com/ice-age-woolly-rhino-genome-reconstructed-from-fossilized-hyena-poop-71381

元論文

The first European woolly rhinoceros mitogenomes, retrieved from cave hyena coprolites, suggest long-term phylogeographic differentiation https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rsbl.2023.0343
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 氷河期に絶滅した「モフモフの毛を持つサイ」のゲノムをハイエナのうんちの化石から発見