「どんな困難に直面しても常に冷静でいなさい」とは、誰もが人生の中で一度は受ける大切な教えです。

しかし難しいタスクに取り組むときは、冷静でいるより怒った方がいいかもしれません。

米テキサスA&M大学(A&M)はこのほど、難度の高いゲームやタスクに対しては、感情的に冷静な人より怒りを感じている人の方がパフォーマンスが高くなることを発見しました。

怒りも使い途次第では、プラスの効果に転じるようです。

研究の詳細は、アメリカの心理学雑誌『Journal of Personality and Social Psychology』に掲載されています。

目次

  • 「怒り」にプラスの側面はあるのか
  • 難度の高いタスクには「怒り」を持って挑むべし?

「怒り」にプラスの側面はあるのか

Credit: canva

「怒り」は従来の心理学研究において、ネガティブな側面ばかりが注目されてきた感情の一つです。

例えば、怒りは血圧を上昇させたり、反応時間を遅らせたり、意思決定を損なわせるマイナス効果があることがいくつかの研究で指摘されています。

また短気な人ほど、心臓病や過食症、2型糖尿病などの疾患リスクが高くなるとの報告もありました。

皆さんも子供のときから「怒らず冷静でいなさい」と口酸っぱく言われてきたでしょうし、書店に行けば「怒りが消える習慣」とか「怒りを抑えるコントロール術」といった内容の本がずらりと並んでいます。

もちろん、これらはどれも正しい指摘ですし、むやみやたらに怒鳴り散らしていれば、自分にも周りにも損にしかなりません。

ところが今回の研究では、怒りが逆にパフォーマンスを向上させる使い途が判明したのです。

難度の高いタスクには「怒り」を持って挑むべし?

研究チームは今回、1000人以上を対象に「怒り」が人々に与える影響を検証しました。

実験では、まず学生たちに「楽しみ・悲しみ・怒り・欲望」の感情を誘発する画像がランダムに提示されました。(これらの画像が特定の感情を誘発できることは過去の研究から示されている。またこれと別に、感情的に中立になるグループも用意された)

その状態で学生たちは、難易度の異なる一連のアナグラムを解いて、そこに隠された単語を見つけるよう指示されました。

アナグラムとは、単語または短文に含まれるアルファベットの並び順を入れ替えると全く別の意味の言葉が作れるパズルの1種です。

英語では、元の言葉と意味的に関連するようなアナグラムがよく作られます。

例えば、「天文学者(astronomer)」を並び替えると「月を見つめる者(moon starer)」に、「学生寮(dormitory)」を並び替えると「汚部屋(dirty room)」になります。

映画『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)でも、日記の中の人物であるトム・リドルが重大な秘密をアナグラムを使って明かすシーンが登場しています。

アルファベットはアナグラムを利用しやすいため、海外ではメジャーな謎解きなのです。

そのため研究では難易度を設定しやすい作業として、アナグラムの課題を参加者に取り組んでもらったのです。

結果、難度の低いアナグラムでは、感情の違いによってスコアに差は現れませんでした。

ところが難度の高いアナグラムでは、怒りの感情を抱いている学生ほどスコアが顕著に高くなっていたのです。

課題中の学生たちを分析してみると、怒りを感じている学生では、難しいアナグラムに取り組む時間が他の感情を抱く学生に比べて長くなっていました。

これを受けてチームは、怒りの感情が難問に対する「執念深さ」や「努力の持続性」を生み出している可能性が高いと述べています。

また別の実験では、学生たちにスキーのビデオゲームをしてもらい、各ポイントでジャンプをするだけの簡単バージョンと、旗を避けながらコースを進む(スラローム)難しいバージョンに取り組んでもらいました。

すると、簡単バージョンでは感情の違いによってスコアに差が出なかったものの、難しいバージョンではやはり怒りを感じていた学生の方がスコアが良くなっていたのです。

Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

以上の結果から、目標達成における「怒り」の効果は、単純なタスクにおいては成功率との関連性は低いものの、難度の高いタスクにおいてはパフォーマンスを向上させ、成功率を高める可能性があると結論されました。

研究主任のヘザー・レンチ(Heather Lench)氏はこう話します。

「一般に人々は、ポジティブな感情の方が私生活や仕事に役立つと考え、ネガティブな感情は不適切で望ましくないものとみなす傾向があります。

しかし私たちの研究は、状況に応じてネガティブな感情(=怒り)を使用することで、より大きな成功をもたらすことを示すものです」

確かに私たちが家でゲームをしていても、難易度が上がるほど、怒りと共に執念深さが湧き上がって「何がなんでもクリアしてやる!」という気持ちになります。

怒りがヒーローに新たな力を目覚めさせるように、負の感情も使い方次第で私たちのパフォーマンスを上げてくれるのに役立つかもしれません。

これはゲームに限らず、仕事においても困難なタスクをこなす場合に役立つ可能性があります。

難しい作業には怒りを持って挑むと良いのかもしれません。

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参考文献

Anger can lead to better results when tackling tricky tasks – study https://www.theguardian.com/science/2023/oct/30/anger-can-lead-to-better-results-when-tackling-tricky-tasks-study Anger can be a powerful motivator to achieve major life goals https://www.earth.com/news/anger-can-be-a-powerful-motivator-to-achieve-major-life-goals/ Want to achieve your goals? Get angry because it makes you try harder, scientists say https://www.dailymail.co.uk/sciencetech/article-12688569/Want-achieve-goals-angry-makes-try-harder-scientists-say.html

元論文

Anger has benefits for attaining goals. https://psycnet.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2Fpspa0000350
情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 難易度の高いゲームはブチ切れていた方がクリアしやすくなる!