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その一方で、文鳥はヒナから成鳥に至るまで、オスとメスで見た目に大きな違いがありません。
鳥類は一般に、オスとメスで姿が異なる「性的二形」の種が多く見られるグループであり、オスはその外見を利用してメスに求愛します。
代表的なのはクジャクで、オスが色鮮やかで派手な羽毛をもつのに対し、メスにはそれがなく、かなり地味です。
しかしこの見た目の性差のおかげで、メスは求愛してくるオスを識別し、最良のパートナーを吟味することができます。
では、そうした見た目の性差がない文鳥は、繁殖の準備ができたことを互いにどうやって伝え合っているのでしょうか?
これは鳥類学者にとって長年の疑問でしたが、新しい研究によると、実はそれが目ヂカラにあるというのです。
実のところ文鳥の求愛の方法として「アイリングが繁殖準備OKのサインに使われているのではないか」という仮説は以前から主張されてきました。
文鳥のアイリングは、目のまわりの羽の生えていない環状に皮膚が盛り上がった部分で、血色による濃いピンク色をしています。
そして研究者らは「オスメスともに繁殖準備が整うとアイリングを赤く太くする」と予想していたのです。
実際、時間を要する体の羽の生え変わりなどと違って、アイリングは比較的短期間で色や大きさを変えられるメリットがあると考えられます。
そこで北海道大学の研究チームは、この仮説を検証すべく、飼育下の文鳥を対象に実験を行いました。
チームはまず、文鳥を以下の3つのグループに分けました。
1:好みの異性個体と一緒にして、つがい形成させるグループ
2:仲が悪く、好みでない異性個体と一緒にしておくグループ
3:1羽単独でいさせる対照群グループ
この状態で、アイリングの大きさが時間の経過ごとにどう変化するかを比較観察します。
期間中は1週間に1回ずつ文鳥の顔写真を撮り、アイリングの面積の変化を測定しました。
その結果、文鳥は好みの相手とつがいを形成したときにのみ、およそ2〜3カ月をかけて少しずつアイリングを肥大させていることが判明したのです。
この変化はオスメスともに見られました。
他方で、仲の悪い相手と一緒にいたり、1羽単独でいる場合にはアイリングに変化が起こりませんでした。
この結果から、文鳥はつがいとなったオスとメスの間で、繁殖準備OKであることを相手に伝える信号として、アイリングを進化させてきた可能性が支持されました。
これまでの多くの研究で、鳥類における色鮮やかな見た目の特徴は、繁殖パートナーを選ぶ際の手がかりとして有効であることが分かっています。
しかし今回の結果はそれと対照的で、文鳥は繁殖パートナーの決定後、つまり特定の相手とつがいになった後に目ヂカラを強くしており、鳥の顔が伝える情報に知られざる多様性があることを明らかにするものです。
つがいを実際に作った後でないと見られない特徴だったため、これまで予測はあっても明確に確認されていない性質だったのかもしれません。
研究者はこれについて「霊長類のメスでは繁殖期にお尻が赤く腫れることがよく知られていますが、それと似た変化が鳥で起こることを示した初めての成果だ」と述べています。
もし自宅で飼っている文鳥の目ヂカラが強くなったなら、そろそろ交尾を始めるタイミングかもしれません。
参考文献
鳥の目ヂカラは相手次第~鳥類の顔の特徴の多様性理解に貢献~ https://www.hokudai.ac.jp/news/2023/10/post-1338.html元論文
Eyes of love: Java sparrows increase eye ring conspicuousness when pair-bonded https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0292074