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リンゴにはリンゴのサイズと質量が、人間には人間のサイズと質量が存在します。
リンゴや人間の種によって多少のバラつきがあるものの、直径が100光年のリンゴや数ナノメートルの人間のような変動はありません。
同様に地球や太陽のような星も、水素原子やウラン原子といった原子の場合も、変動幅は一定の範囲に閉じ込められています。
「そんなの当たり前だ」と思う人もいるでしょう。
しかしその当たり前が、何によって定められ、どんな傾向にあるのかは謎に包まれています。
そこで今回、オーストラリア国立大学の研究者たちは、宇宙に存在する全ての物体について、横軸にサイズ(半径)、縦軸に質量を設定した図表にまとめあげるという、極めて大胆な試みに挑みました。
全ての物体を1枚の紙の上にプロットすることで、私たちの宇宙について知られていない傾向や偏りが存在する可能性があったからです。
調査にあたってはまず、あらゆる物体のサイズと重さの概算が行われました。
たとえば人間は質量70kg・半径50cmの物体、クジラは質量1万kg・半径7mの物体とされました。
同様にウイルス、細菌、ノミ、惑星、恒星、さらには太陽系、銀河系、銀河団、宇宙大規模構造に対しても同じ概算を行い、横軸に物体のサイズ(半径)・縦軸に物体の質量を設定したグラフに書き込んでいきます。
すると興味深い事実が見えてきます。
サイズと質量の概算はかなりザックリしたものでしたが、ウイルス、細菌、ノミ、人間、クジラ、惑星、恒星のような、主に原子によって構成される物体は、おおむねグラフの同じ線上に並ぶことが判明しました。
これらは「原子によって構成されている」という共通の特性があるため、極端な外れ値を持たず、サイズと重さが素直に配列してくれたのです。
一方で、太陽系、銀河系、銀河団、宇宙の大規模構造など、より大きなスケールの場合には原子間の結合力ではなく重力によって結ばれています。
興味深いことに、それぞれの半径(サイズ)と重さを書き込んでいくと、こちらは別の直線上に並ぶことが判明しました。
さらにクォークや電子、ニュートリノなど素粒子をはじめとした小さな粒子たちをサイズと質量をもとに配置すると、また別の線の上に配置されていることが判明します。
この結果は、私たちの宇宙は原子の世界、重力の世界、小さな粒子の世界という3つのレベルが存在すること、そしてそれぞれが属する直線(傾向)があることを意味しています。
今回の研究によって作られた図では、主に左上と左下に「禁止領域」があることが示されています。
この禁止領域は物理学的な理解が不可能な領域であり、左上がブラックホール、左下が量子の不確実性の領域となっています。
たとえば太陽が、横軸のサイズはそのままに縦軸の質量だけが増えていった場合(赤い矢印)や質量はそのままにサイズだけが縮んでいった場合(青い矢印)、太陽の密度がやがて限界に達し、禁止領域の境界に接すると同時にブラックホールになってしまいます。
しかし重さやサイズの変化によってブラックホールになるのは、太陽だけではありません。
ウイルスや細菌の場合でも密度が限界に達すると同時に禁止領域に接触し、理論上、ブラックホールになってしまいます。
宇宙に存在する物質には、重力による押し潰しに耐えられる限界値(縮退圧)が存在しており、その限界値を突破すると「ある意味で」時空に穴が開き、永遠に落下する特異点を生成してしまうからです。
この図で示されている左上の禁止領域は、各サイズの物体がどれほどの重さ増加でブラックホールになるかを現わしているのです。
一方で左下の領域は、量子的不確実性によって禁止領域となっています。
この領域の境界はクォーク、ヒッグス粒子、電子、ニュートリノなどの小さな粒子が並んでいるのが見えるでしょう。
これより小さなスケールでは「単一の物体」という概念が崩れ、粒子の生成と消滅が発生するようになってしまい、物体としてのサイズや重さを考えることができなくなってしまいます。
また図をみると、より小さなサイズの物体ほど、より少ない質量増加(より短い矢印)でブラックホールになってしまうことがわかるでしょう。
サイズが小さい物質の場合、わずかな質量増加で密度の限界が突破されてしまうからです。
量子加速器を使った実験では、極めて小さなサイズでありながら極めて重い粒子が生成されることがありますが、そのような粒子はすぐにブラックホールになってしまうことが知られています。
幸いなことに、人工的に作られる極小のブラックホールはすぐに蒸発してしまうことが知られており、これまでの実験で生み出されたブラックホールによって、地球が飲み込まれることはありませんでした。
では、宇宙で考えられる中で最も小さな物体の場合、どれほどの質量増加でブラックホールになってしまうのでしょうか?
その答えは禁止領域の交差点にあります。
交差点にあるということは、最も小さな物体がすでにブラックホールであることを示しています。
研究者たちはこの点こそが、インスタントン(プランク質量ブラックホール)と名付けられた「宇宙の素」であると述べています。
プランク質量やプランク長、プランク時間は、現代物理における最小の単位であり、これより小さな質量やサイズ、時間は存在しません。
現在の宇宙論では、私たちの宇宙は「小さな点」が爆発的な膨張を起こしたことで誕生したと考えられています。
今回の研究では、この宇宙の素には2つの禁止領域が交わる、二重禁止点としての性質があり、最も小さなブラックホールでありながら、単一の物体としての概念がない存在である可能性が示されました。
物理学を拒む2つの領域の接点がなぜ宇宙の素となったのか?
この結果を物理学的にどう解釈するかは、現在のところ不明となっています。
では逆に、宇宙最大の物体の場合、どうなるのでしょうか?
図をよくみると、地球や太陽の属する直線(赤色で囲った部分)に比べて、銀河や大規模構造(青色で囲った部分)は、サイズが大きくなるにつれて、より禁止領域に近づいていくことがわかるでしょう。
今回の研究では銀河や宇宙の大規模構造を図に記すだけでなく、宇宙最大の物体、すなわち宇宙全体(緑色で囲った部分)についても、そのサイズと重さの概算が行われ、図に記載されました。
(※宇宙のサイズについてはハッブル体積が使用されました)
すると驚くべきことに、宇宙全体を示すポイント(緑色で囲った部分)が、ブラックホールを意味する禁止領域の線上に位置することが判明しました。
論文において研究者たちは「これは宇宙全体がブラックホールであることを示唆しているようだ」と述べています。
ただこの結論は、膨張を続ける「宇宙の外側」が内側と同じ性質を持っているという前提で導き出されたものである点について、注意を促しています。
宇宙の外側を観測する方法が存在しない以上、理論を実証する方法は存在せず、最終的な結論とはみなせません。
ただ宇宙の素とされたインスタントンと、現時点の全宇宙がともに禁止領域の線上に接しているという結果は、非常に興味深いと言えるでしょう。
物理学の世界には、全ての物質を単一の表にまとめて記載するという、長年にわたって採用されてきた伝統が存在します。
ごく簡単に作るならば、単に一番小さな粒子を左側に、宇宙全体を右側に配置すれば可能です。
実際、科学雑誌の特集などで、素粒子から宇宙の大規模構造に至るまでを記した解説図を目にしたこともあるでしょう。
しかし今回の研究は、原子の世界と重力の世界、そして小さな粒子の世界が異なる直線状に配置されていることを示すと共に、禁止領域も表示するより包括的なものになっています。
そのため研究者たちは、この図を使うことで物理学の限界にかんする問題を理解する助けになると述べています。
特に禁止領域がかかわる部分については、問題の明確化に役立ちます。
2つの禁止領域がインスタントンで交差する事実をどのように解釈すべきか?
インスタントンは本当に宇宙の素なのか?
もしこの疑問に答えられるならば、人類の宇宙に対する理解は、大きく前進するでしょう。
参考文献
Study finds the Universe is a black hole (kind of) https://cosmosmagazine.com/science/graph-measures-objects-universe-black-hole/元論文
All objects and some questions https://pubs.aip.org/aapt/ajp/article/91/10/819/2911822/All-objects-and-some-questions