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都会を最も特徴づけているのは、街中の地表がアスファルトやコンクリートで覆われていることでしょう。
こうした水を通しにくい地表面は、熱の吸収し溜め込みやすいため、都市部の高温化を引き起こします。
いわゆる「ヒートアイランド現象」です。
道路の側やコンクリートの隙間に生える雑草たちは、ヒートアイランドの高温ストレスを最も強く受けています。
雑草は自分たちで日陰に入ったり、日傘を差したりできないので、ときに50℃を超える地表面にも耐えなければなりません。
その中で世界中の研究者たちは「高温ストレスが雑草の高温耐性を進化させているのではないか」と考えていました。
しかし、都市部の高温が植物をどう進化させているかは、いまだ誰も調べていませんでした。
そこで深野氏ら研究チームは「カタバミ」という世界中の都市や農地に生えている植物に注目しました。
カタバミはよく道路やアスファルトの割れ目から顔を出しており、日本でも簡単に見ることができます。
実はカタバミには、通常の緑の葉をもつ個体だけでなく、真っ赤な葉をもつ個体がおり、種内に葉色の変異があることが知られていました。
また赤葉のカタバミは、季節によって緑から赤に変色する紅葉とは違って、生まれたときから赤いままです。
つまり、カタバミの葉色の違いは遺伝子で決まっている遺伝的変異の結果といえます。
そしてチームは以前から、赤葉のカタバミが都市部に多いことに気づいており、これはヒートアイランドに対する適応進化かもしれないと考えていました。
「カタバミは本当に都会の暑さによって赤く進化したのか?」
チームはその真偽を確かめることにしました。
チームが東京都市圏の26地点を調査したところ、芝生や農地などの緑地に比べて、都市部ほど赤葉のカタバミが多くなる明確な傾向が見つかりました。
しかも緑葉と赤葉の変化は急激であり、公園の芝生と住宅街を比べると、たった数十メートルしか離れていないのに、葉の色が大きく変わっていたのです。
続いて、この「緑地は緑葉」「都会は赤葉」というパターンが高温ストレス(選択圧)によって生じたのかを検証。
もし高温ストレスで赤葉のカタバミが進化したのであれば、高温環境では光合成や成長、種子生産において赤葉の方が有利になるはずです。
反対に、通常の栽培環境(25℃)では、緑葉が有利になると予想されます。
そこで都会を模した高温のレンガ地表や温室環境での栽培実験、および葉の光合成レベルを計測したところ、どの実験でも予想通りの結果が得られたのです。
つまり、通常の温度(25℃)では赤葉よりも緑葉の方が光合成レベルが高かったのに対し、高温下(35℃)では緑葉よりも赤葉の方が光合成レベルが高く、よりよく成長していました。
これは赤葉のカタバミが都会の高温ストレスによって進化し、高温耐性を獲得したことを強く支持するものです。
最後にチームは、この進化がどれだけの規模で起きているかを調べてみました。
もし都会の高温ストレスがカタバミを赤く進化させるのなら、カタバミが自生する世界中の都市圏でも同じ適応が見られるはず。
そこで観察データがオープンに利用できるiNaturalistのデータベースを使い、世界中からアップロードされた9561枚のカタバミの写真を分析した結果、世界の都市部でも緑地に比べて、赤葉カタバミの割合が多くなることが判明したのです。
これは世界規模でカタバミの進化が発生していることを示唆しています。
以上の結果は、ヒートアイランドによって植物が進化したことを示した世界初の成果です。
これを受けて、研究者はこうコメントしています。
「世界中どこにでも生えているカタバミの葉の色の進化は、世界で最も観察しやすい進化の事例と言えるかもしれません。
都市の赤いカタバミを見たら『お、進化が起きているやつだ』とダーウィンの顔を思い出してくれたら嬉しいです」
参考文献
都市の熱さで植物は赤く進化する-ヒートアイランドへの急速な適応進化を初めて実証- https://www.tmu.ac.jp/news/topics/36096.html元論文
From green to red: Urban heat stress drives leaf color evolution https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.abq3542