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ベルリン自然史博物館の研究者キャロリン・ディトリッヒ氏らの研究によって、ヨーロッパアカガエルは、「爆発的」に繁殖が起こる時期になると、死んだふりを含む、あの手この手で望まないオスとの交尾を避けることがわかりました。
ヨーロッパアカガエルのメスは、交尾を巡るオスたちの熾烈な争いに巻き込まれ、命を落としてしまうこともあるそうです。死んだふりをしてまで交尾を避ける状況とはどのようなものなのでしょうか?
そして、死んだふりは果たして本当に有効なのでしょうか。
今回の研究の詳細は、2023年10月11日付けで、『Royal Society Open Science』に掲載されています。
目次
ヨーロッパアカガエル(学名: Rana temporaria)はアカガエル科に属しヨーロッパの広範に生息するカエルです。
体長は6から9センチメートルほどと、日本でよく見られるアマガエルより、少し大きな体をしていて、ほとんどの場合はメスのほうが大きな体をしています。
擬態を行うことでも知られており、脇腹と背中は黄緑、茶色、黄色などに変化し、明るさを変えることもできます。
ヨーロッパアカガエルの中でも有名なのは、「爆発的」繁殖と呼ばれる、池などに数十匹が集まって行う交尾です。
ヨーロッパアカガエルはオスのほうがメスよりも断然数が多いため、一度に6匹以上のオスが1匹のメスと交尾しようと争いを繰り広げます。
その姿は、1匹のメスに群がったオスたちがボールに見えるほどの塊となり「交尾球(mating balls)」とも呼ばれます。
その際、数匹のオスが同時にメスにしがみつくため、メスは交尾相手として望ましくないオスを取り除くことがほとんどできません。
しかも、メスはその交尾球の中で身動きができず溺死してしまうこともあるのです。さらには、周囲のオスも一緒に死んでしまうことがあるというのですから、いかにヨーロッパアカガエルの交尾が激しいものかわかります。
そこでメスたちは交尾を避けるため、いくつかの技を編み出しました。
今回のディトリッヒ氏らの研究によって、メスは交尾したくないオスを避けるために3つの重要な戦略を用いることがわかったのです。
ディトリッヒ氏ら研究チームは、繁殖期に池からヨーロッパアカガエルのオスとメスを集めて水槽に分け、それぞれの水槽にメス2匹とオス1匹を入れて観察しました。
すると、オスに掴まれた54匹のメスのうち83%が仰向けに転がったのです。この体を仰向けに回転させる技がメスが編み出した1つ目の戦略です。
先ほど、アカガエルのメスはオスに掴まれると振りほどくのが難しいという話をしましたが、そこに関連するのがヨーロッパアカガエルのオスの手にある婚姻瘤と呼ばれるコブの存在です。これが交尾の際にメスにしっかりと抱きついて離れにくくします。
そのためメスは振り解くことが難しいオスを追い払うために、仰向けになってオスを水中に押し込みます。するとオスは溺れるのを避けるため、仕方なくメスから手を放して交尾を諦めるのです。
そして、研究チームはオスにマウンティングされたメスの約半数が、うなり声や鳴き声を発していることも発見しました。これが2つ目の戦略と考えられます。
ディトリッヒ氏によると「このうなり声は、『リリース・コール』と呼ばれるオスが他のオスからマウンティングされないように発する声を真似たものだ」と言います。
カエルは鳴き声が特徴的ですが、その声にはさまざまな意味があります。メスは仰向けに転がる際、このうなり声を出すことから、オスを避ける目的で使っている可能性が考えられます。
さらに研究チームは、3分の1のメスがオスにマウンティングされた後、約2分間手足を伸ばしたまま動かないことを発見しました。これが3つ目の戦略です。
ディトリッヒ氏は、「それが意識的な行動なのか証明できませんが、メスが死んだふりをしているように見える」と述べています。ただし、これはストレスに対する自動的な反応という可能性も指摘されています。
さらに、これら3つの戦略を使うメスは年齢によって偏りがありました。
今回の研究対象となったメスたちの中でも、若いと思われる小型のメスは3つの戦略すべてを使う個体が多く、高齢と思われる大型のメスでは少なかったのです。
結果、戦略を多用する小型のメスは、大型のメスよりもオスの誘惑から逃れるのが上手でした。
なお、若いメスは繁殖期が短いため、オスにマウンティングされた時にストレスを感じ、より強く反応するのかもしれないとも指摘されています。
全体としては、オスにマウンティングされたメスの46%が脱出に成功しました。
実験では水槽の中にメス2匹とオス1匹という現実ではあまり考えられない環境であったため、実際の行動とは異なる点があるかもしれませんが、こうした戦略は野生でも見られるとディトリッヒ氏は語っています。
望まないオスから交尾を逃れるための戦略として死を装うことは、ヨーロッパアカガエルだけでなく、トンボやクモ、そして両生類ではイベリアトゲイモリなど、数は少ないですが他の動物でも記録されています。
このような交尾行動を理解することは、将来、絶滅の危機に瀕している種を繁殖させようとする場合、保護活動の支援に役立つ可能性がある、とディトリッヒ氏は指摘しています。
ヨーロッパアカガエルは一般的なカエルですが、過去17年間、雨不足と干ばつのために個体数が確実に減少しています。
望まない交尾によって死んでしまっては元も子もありせんので、死んだふりを含むヨーロッパアカガエルのメスたちが編み出した戦略は、この種全体が生き残るために生み出された手段なのかもしれません。
参考文献
These female frogs fake their own deaths to get out of sex元論文
Drop dead! Female mate avoidance in an explosively breeding frog