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※画像はクモが苦手な人に配慮してぼかしています。ぼかしなしはこちら。
研究主任でウルグアイ共和国大学(UdelaR)の生物学者マリア・アルボ(Maria Albo)氏によると、オスは捕まえた餌を糸で包んで小さなボール状に包装した後、それを咥えたまま、生息地である水辺を歩いてメスを探し始めるという。
パートナーが見つかれば、その包みをプレゼントし、メスが糸を食べて開封している間に、オスはメスの背に乗って交尾を済ますのです。
こうした行動をこの種が取る理由の1つは、クモは交尾後にメスがオスを食べてしまう事があるため、それを防ぐ目的と考えられます。
ところがこれまでの研究で、P. オルナタのオスの中に、立派なごちそうを準備する手間を省く個体がいることがたびたび観察されてきました。
彼らは捕まえた昆虫を包むのではなく、その辺で拾った落ち葉や自分の食べ残しを包んだり、さらには中身の空っぽの包装だけをプレゼントするとんでもないオスもいるのです。
これはもともとこの種がメスへプレゼントを渡している目的から考えると、奇妙な行動です。
そのためアルボ氏らは、これがオス側にやむを得ない事情があるためではないかと考えました。
そこで、豪フリンダース大学(Flinders University)と協力し、環境に大きな違いあるウルグアイの2つの地域でクモたちの行動を調査したのです。
チームが調査地に選んだのは、P. オルナタが分布するウルグアイの南部と北部です。
ウルグアイ南部は1年を通して比較的安定した気候が続き、クモにとってのストレス因子も少なく、餌も豊富に得られることが分かっています。
一方でウルグアイ北部は予測不能な気候変化に富んでおり、自由に餌が入手できずに食糧難に陥ることが多々あります。
チームはこの2カ所でP. オルナタのプレゼントを採取し、包みを開封して、中に何が入っているかをチェックしました。
その結果、ウルグアイ南部では立派なごちそうを贈るオスが支配的であり、メスにとって価値のない贈り物をしていたのは38%に留まっています。
ところがウルグアイ北部では立派な餌を贈るオスはほとんどおらず、中身が空っぽだったり食べカスを包んでいる割合がなんと96%に達していたのです。
これは明らかに、オスたちが好きでプレゼントの手を抜いているわけではないことを示唆しています。
アルボ氏はその理由として、ウルグアイ北部では周囲に十分な餌の量がないため、オスたちは自らの食料をまかなうだけで精一杯なのではないかと推測しました。
実際、この地域では(おそらく南部より普段から得られる餌が少ないために)クモのサイズも小さくなっていたとのことです。
これに対して現地のメスたちがどう思っているのかは分かりません。
ただ、基本的に餌が豊富な地域では中身のない包みを渡されたメスは拒絶を示すため、食糧難の地域ではメスもある程度諦めている部分があるようです。
この種はプレゼントの習慣によってメスが交尾後にオスを食べるという行動は取らないため、貧困地域のオスたちは、交尾の時間を稼ぐために中身のないプレゼントをする状況になっているようです。
人間社会でも似たようなことは起こりそうですが、クモの世界でも貧困が進むと詐欺のような手口が横行してしまうのでしょう。悪いのは貧しさのようです。
参考文献
When stressed, these male spiders woo mates with empty ‘take-out containers’instead of dinner https://www.livescience.com/animals/spiders/when-stressed-these-male-spiders-woo-mates-with-empty-take-out-containers-instead-of-dinner When climate changes affect mating games https://news.flinders.edu.au/blog/2023/08/24/when-climate-changes-affect-mating-games/元論文
Stressful environments favor deceptive alternative mating tactics to become dominant https://bmcbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12915-023-01664-5