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科学的な能力の場合には、「平均的な学生」と「中央値に位置する学生」で自身を比較したとき、評価に差がありませんでした。
つまり、習得困難度が中程度の能力で平均との比較を行ったときには、「平均的な学生」を「中央値に位置する学生」と仮定し、自分自身の能力を評価していたことを意味しています。
他の習得が簡単な一般的な能力の場合には、平均と比較したときと中央値より少し下の学生と比較したときに差がなく、習得難易度が難しい芸術面の能力の場合には、平均と比較したときと中央値より少し上の学生と比較したときに差がありませんでした。
この結果は、習得が容易な時には「平均」を中央値(最もデータが集まっている値)より下として解釈し、自分が平均と比べてより優れていると判断し、習得が困難な時には「平均」を中央値より上として解釈し、自分が平均と比べて少しだけ優れていると判断するのです。
例えば、「自転車の運転」と「水彩画の描画」を例に考えてみましょう。
「自転車の運転」は習得が簡単な能力で、より多くの人が自分は平均以上に自転車を上手く運転することができると考えるでしょう。なぜなら人々は習得難易度が低い能力において、「平均」のレベルが低いと見積もる傾向があるからです。一方で「水彩画の描画」は一般の人にとっては難易度が高く、「平均」のレベルをより高いと考えます。その結果、平均程度の能力を自分は持っている、あるいは平均以下と考える人が増える傾向にあるのです。
このように習得難易度の難易度によって、「平均」の解釈がを変化させ、ポジティブな自己評価の強さに影響を与えているようです。
今回の研究結果は、「平均以上効果」が比較する能力の難易度によって「平均」の解釈を柔軟に変え、自分の能力が「平均」よりも優れていると考える傾向が存在することを示しました。
過去の研究では、比較する能力が簡単な場合には、自分自身の能力を楽観的に評価し、より優れていると考える傾向があるとされていきました。
というもの、平均以上効果では、自分自身の情報は他者よりも多く、明確であるため、自分の情報を多く用いて評価を下していると考えられてきました。
今回紹介した研究の興味深い点は、過去の研究とは違い、自分自身の情報ではなく、平均という参照点がずれていることを示したところです。
研究チームは「今までの平均以上効果を検討した研究では、「平均」を統計的な平均として扱ってきた。しかし私たちの研究は、人々が社会的な比較を行う上で、「平均的な人」が実際は統計的な平均値や中央値に位置する人からずれており、平均以上効果の強弱を変えることを示すことができた」と述べています。
平均以上効果は運転能力をはじめ、コミュニケーション能力、創造性や演技力までさまざまな領域、そして分野の専門家であっても生じることが確認されています。
一見自分自身を客観視できないことはデメリットに感じてしまいがちですが、自分の能力を高く見積もってしまう傾向にはメリットも存在します。
自分自身を平均以上だと解釈することは、ポジティブな気分を高める、自尊心を上げるなど自己の存在を肯定し、防衛する側面を持っているのです。
この側面があることから、平均以上効果は「自己奉仕バイアス(Self-Serving Bias)」の一種であると考えられることもあります。自己奉仕バイアスとは、成功を自分の能力などの内面的要因に原因があり、失敗は環境などの外的要因に原因があると考える傾向のことです。
しかし自分自身の能力は正確に判断したいと思う方もいるでしょう。
自己の客観視が正確にできていないことは、自分のレベルに合った課題を選択するのが困難であったり、無謀な挑戦に時間を冷やしてしまう可能性を高めてしまいます。
新しい職を探す、あるいは転職をする際に、一般的に難しい能力を求められる場合、あまり自分自身の能力を過信せず、謙虚に自己評価をすることで、大きな失敗を防ぐことができるかもしれません。
元論文
The Better-Than-Average Effect Is Observed Because “Average”Is Often Construed as Below-Median Ability. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28690555/