- 週間ランキング
ダーウィンの進化論から見た場合、同性愛行動は種の繁栄にとって不利な性質と考えられます。
オス同士、メス同士のカップルでは当然子孫が誕生しないため、こうした性質を持つ個体は遺伝子を次世代に伝達することが出来ないからです。
しかし、これまでの研究では、同性間の性的行動が哺乳類、鳥類、ハ虫類、虫など様々な種で確認されています。
たとえば黒い白鳥として知られるブラックスワンでは、オス同士のカップルの一方がメスを誘惑して卵を産ませると直ぐにメスを巣から追い出し、生まれてきたヒナは2匹の父親によって育てられることが知られています。
またイルカのオス同士のカップルでは、お互いの生殖器を潮吹き孔に入れる性行為を行うことが知られています。
「何故、同性愛の性質は自然淘汰から落ちないのか?」
この疑問は進化のパラドックスとして生物学者達の頭を悩ませてきました。
その答えを探すため、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちは、私たちと進化的に近いアカゲザルを対象に研究を行いました。
調査が行われたのは、野生のサルが1700匹も住みつきコロニーを作る、サルの島として知られるカヨ・サンチャゴ島です。
この大規模なコロニーは過去67年間にわたり綿密な観察下にあり、1956年まで遡る家系図のデータや、1992年以降行われているDNAでの親子関係の調査データが存在しています。
研究者たちはこのコロニーから236匹のオスを選び出し、毎日7時間、72日間にわたりマウンティング行動を追跡しました。
マウンティングはサルやイヌなど社会的な動物にみられる行動であり、マウントをとる個体は相手の腰の上に前脚や両手を置く、交尾に似た形態がとられます。
以前の研究では、マウンティングは上に乗る個体の優位性を示すための行動であり同性間でも頻繁にみられることがわかっています。
そのためマウンティングは交尾に似た形態をしながら生殖とは無関係と考えられてきました。
しかしながら、研究者たちが詳しく観察した結果、上にいるサルがしばしば勃起していること、さらに下のサルの肛門を調べると、固まった精子がついていることに気づきました。
マウンティングを行うオスザルたちは、実際には一定の確率でセックスを行っていたのです。
またマウンティング時の位置的な上下を分析したところ、上位のサルが上になる頻度と下位のサルが上になる頻度がほぼ同率であることが判明します。
さらにマウンティングが発生した状況を紐解くと、親和的な接触(つまりイチャイチャ)がマウンティングの前後に起きていたことが分かりました。
この一連の事実から、アカゲザルのオス同士のマウンティングは社会的地位を誇示するための行動ではなく、同性間の性行動としての要素が含まれていることが明らかとなったのです。
研究者たちも「オス同士のマウンティングは支配ではなくセックスだった」と結論づけています。
しかし、驚きはここで終わりではなく、マウンティングそのものよりも、その後の2匹の行動の変化が更に興味深い発見となりました。
今回の研究では、オス同士のマウンティングだけではなく、その後の2匹の行動についても精密に調査が行われました。
マウンティングが単なる社会的地位の誇示でなく、セックスの一形態であった場合、マウンティング行為は2匹の関係に何らかの変化をもたらす可能性があったからです。
結果、マウンティングに従事した2匹のオスザルたちは「仲良く」なっており、争いが起きた際にお互いを支援する確率が有意に高くなっていました。
また2匹のオスザルたちが「共通の敵」と戦った後には、およそ16.5%の確率で同性間のマウンティングが発生することがわかりました。
研究者たちは2匹のオスたちはマウンティングを介して戦いの緊張感の緩和やさらなる絆の強化を行っていると述べています。
この結果は、オスザルたちはときに挿入や射精を伴うマウンティングを、社会的絆を強めたり共通の敵と戦うための同盟締結に使っている可能性を示しています。
また興味深いことに性別ごとにマウンティングが行われたケースを比較したところ、オスザルの72%が他のオスにマウンティングを行った一方で、メスに対してマウンティングを行ったのは46%に過ぎませんでした。
どうやらオスザルたちの多くは絆や同盟を結ぶためのマウンティング相手として、異性よりも同性により多くのアプローチをしているようです。
原始的な人類社会では異なる氏族が男女の婚姻により同盟関係を締結しましたが、身1つで生きるオスザルたちは自らセックスに従事することで他のオスとの絆を結んでいたのでしょう。
握手や抱擁といった身体的接触は他にも存在しますが、サルたちは絆や同盟を結ぶ方法としてセックスを選んでいたようです。
研究者たちは、このような社会的絆や共闘関係の形成は、個体としての生存に有利になる可能性があり、同性間の性的行動を維持する進化的な原動力になった可能性があると結論しています。
実際、同性マウンティングの頻度に対して、遺伝子の影響が6.4%ほど存在することが明らかになりました。
この結果は同性マウンティングを促進するような役割を持つ遺伝子が存在していることを示しています。
しかしそうなると気になるのが、子孫繁栄への影響です。
同性マウンティングを頻繁に行う同性愛的指向が強いオスザルは、メスとの生殖に悪影響を受けているのでしょうか?
謎に応えるため研究者たちは同性マウンティングの頻度と子孫を残す数を比較してみました。
すると意外なことに、同性マウンティングを行うオスザルたちはマウンティングを行わないオスザルに比べて、より多くの子孫を残していたことが判明します。
同性マウンティングを行うオスザルたちは社会的絆や同盟締結による恩恵で、生殖に成功する可能性も上げていたのです。
この結果は、霊長類における同性愛が子孫繁栄を妨げるのではなく、逆に成功に導いていることを示します。
そのため研究者たちは、霊長類における同性愛は競争に勝ち子孫を残すために進化的に獲得されたシステムの1つである可能性を述べています。
もし同様の仕組みが人類にも存在している場合、人類の同性愛も進化のなかで育まれてきた生存戦略の一部ということになるでしょう。
同性愛が自然淘汰されない理由も、同性愛の性質を維持していたほうがむしろ生存競争において有利だった可能性があります。
研究者たちは今後も、同性愛行動の生物学的な理解を進めるための研究を続けていくとのことです。
参考文献
Study shows same-sex behaviour is widespread and heritable in macaque monkeys https://www.imperial.ac.uk/news/245895/study-shows-samesex-behaviour-widespread-heritable/元論文
Same-sex sociosexual behaviour is widespread and heritable in male rhesus macaques https://www.nature.com/articles/s41559-023-02111-y