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現在、肥満は10億人以上の人々に影響を及えており、多くの代謝障害の原因となっています。
しかしカロリー摂取を制限すると、大幅な体重減少に繋がることもありますが、時間の経過とともに基礎代謝が低下して効果が失われてしまうことがあります。
この仕組みは「食料が減っても体重を維持する」ために私たちの先祖が獲得した優れた仕組みですが、肥満解消においては大きな壁「停滞期」となって現れます。
そのためダイエットを成功させるにはいかにして停滞期を短くしたり回避したりするかが重要になります。
ここで重要な役割を果たすのがGDF15というホルモンです。
GDF15は、がんや毒素への曝露、ミトコンドリアの機能不全、そして抗がん剤に反応して増加する体の防衛にかかわるホルモンの1つです
抗がん剤には食欲を抑制する副作用があることが知られていましたが、近年の研究により抗がん剤に反応して増加するGDF15が食欲低下において重要な役割を果たすことがわかってきました。
そのためGDF15は主に食欲抑制薬としての研究が進められてきました。
しかしGDF15にはさまざまな機能が存在すると考えられており、その全容は依然として謎です。
そこで今回マックマスター大学の研究者たちはマウスを使ってGDF15の効果を試験することにしました。
調査に当たってはマウスたちにGDF15投与され、食欲や体重の変化が記録されました。
すると最初の2週間で、GDF15で治療したマウスは、カロリー摂取が同じレベルに制限されたマウスたちと同じ量の体重が減少しました。
しかし、その期間を超えると、カロリー制限を行ったマウスの体重減少は停滞してしまい、6週間後も体重はほぼ変わりませんでした。
これに対して、GDF15を日毎日1回注射されていたマウスたちは停滞期を迎えることなく体重が順調に減少し、実験最終日となる6週間後には23%も減少しました。
この結果は、GDF15による体重減少には食欲抑制だけではなく、他のメカニズムが関与していることを示しています。
そこで研究者たちは投与されたGDF15がマウスの体のどこに作用するかを追跡することにしました。
するとGDF15は脳の自律神経の制御を変化させ、エネルギー消費と脂肪酸酸化の増加を起こしていることが明らかになりました。
また驚くべきことに、エネルギー消費は溜め込んだ脂肪組織を燃やすのではなく、骨格筋におけるエネルギー消費の増加によって起きていました。
さらに研究者たちが骨格筋における変化を追跡したところ、GDF15は、骨格筋におけるカルシウムの無駄なサイクリングを増加させていることがわかりました。
カルシウム信号の発進は骨格筋の制御において重要な働きを担っており、信号を発信させるには多くのエネルギーを消費することがわかっています。
たとえばマウスの場合、骨格筋は1日の総エネルギー消費量の約30%を占め、そのうちの約50%がカルシウムサイクリングによるものだとされています。
この結果は、GDF15は脳の自律神経に影響を与えて、骨格筋で使わない信号を繰り返して送信することでエネルギーの無駄遣いを起こしていることを示します。
そしてこの無駄なエネルギー消費こそが、基礎代謝の低下による停滞期を打ち破っていたのです。
これまでダイエット薬の開発は主に食欲を抑制することを目的に作られており、どうしても停滞期を引き起こしてしまっていました。
しかしGDF15は食欲抑制に加えて体に「エネルギーの無駄遣い」を強いる2段構えの効果によって、スムーズな減量と停滞期の回避を可能にしていたのです。
研究は主にマウスを対象としていますが、今後の研究によって、これらの結果がヒトにも当てはまるかどうかが検証されるでしょう。
そして、もし当てはまるとすれば、血中のGDF15レベルと骨格筋におけるカルシウムの無駄遣いがダイエットの成功を左右する可能性があることを意味します。
この視点から見ると、なかなか体重が減らない人と、簡単に体重が減る人との違いも説明できるかもしれません。
もしかしたら未来では人々は自分の体重を目的や好みに合わせて自由に増減させ、ファッション感覚で体の脂肪をコントロールしているかもしれませんね。
参考文献
The team discovered a hormonal pathway that increases calorie burning during weight loss https://www.techexplorist.com/team-discovered-hormonal-pathway-increases-calorie-burning-during-weight-loss/元論文
GDF15 promotes weight loss by enhancing energy expenditure in muscle https://www.nature.com/articles/s41586-023-06249-4